第三十二話 二人のユーシャ
「おはよーございますわい」
躊躇もへったくれもなく話しかけたのはミミノスだった。
小屋の中に堂々と入るミミノスを見て少女は怪訝そうな顔をしたが、ミミノスがどこからともなく花束を出すと少し表情を緩めてくれた。
「あなたたちは……」
花束を手に半身起きあがる少女に、俺は聞き返す。
「何に見えるか?」
「……大道芸人とそのボディガード?」
少女の答えはやはり大外れで、ガクリと肩を落としてしまった。
不思議そうに俺を見つめるその顔は、どう見てもユーシャだというのに。
さっきのユーシャ似の子供は少年だったし、今度は少女、もしやこの場所はユーシャ似の人物ばかりいるのだろうか?
そんなことを考え始めた時、少女は意外な言葉を口にした。
「戦士さん……?」
俺は思わず顔を上げると、少女をじっと見た。
「思い出したのか……?」
少女は顔に手を当て悩むと、
「さっきまで、そんな夢を見ていたような気がするんです、……もう忘れちゃいましたけどね!」
明るい表情の少女は、まるでそれが夢で良かったと言わんばかりだった。
少しひっかかるところがあるものの、しかし、やはりこの少女がユーシャなのだ!
「思い出せ!ユーシャよ!それが本当の世界なのだ!俺と一緒に旅した世界なのだ!」
肩を掴んで揺らすと、少女は「はわはわ」と言いながら頼りなさすぎるくらいに揺れた。
「そんなこと言われても~、あれは夢ですし~」
しまいには目を回してしまった。
「何か記憶にひっかかるものがあればいいんじゃけどなあ」
さっきからヒマそうに小屋を観察していたミミノスがポツリと提案する。
「それだ!ユーシャよ!何か夢で覚えているシーンはないか?」
聞くと、ユーシャは目を回しながら言った。
「そうですね~、なんだか、誰かが筋力トレーニングをしてたような~~」
それだ!
俺は勢いよく立ちあがると、スクワットを始めた。
「どうだ!思い出さんか!」
少女は腕を組むと、
「う~ん、何か思い出しそうな気がします~」
そう唸った。
「じゃあこれはどうだ!」
俺は少女に背中に乗ってもらうと、腕立て伏せを始めた。
「う~ん、何か思い出しそうな~~」
「何やってんだよお前!」
突然、小屋の入口から誰かの声が飛んできた。
嫌、誰かではない、良く見るとそれはさっき会った少年である。
少年は驚いたような怒っているような表情をして、俺を睨みつけている。
「何やってるんだよおっさん!何で俺の家で……俺の妹に何してるんだよ!何で……エリアドルを背中に乗せて腕立て伏せしてるんだよ!どんな変態だよ!」
変な人から変態に昇格してしまったショックを少しばかり受けながら、俺はエリアドルと呼ばれたその名前にふむと思った。
そう言えば、ユーシャの本名はエリアドルであったな。
「ユー」
俺の背中で、エリアドルが彼の名を呼んだ。
「エリアドル!来いよ!」
差し伸べられた手を取って、エリアドルは俺の背中から下りると、彼の後ろのかくまわれた。
「ユー、この人は大丈夫です、私は思い出しましたから、次はあなたの番ですよ」
思い出した?エリアドルは、もうユーシャの記憶を持っているのか?ならば、もう目を覚ましても良いはずなのでは……。
俺はミミノスを見る。
ミミノスは、肩をすくめて俺を見た。
「何やら込み入った事情がありそうですなあ」
次にエリアドルを見ると、エリアドルは俺を見て、微笑んでいた。
その表情に一瞬ドキリとしてしまう。
そして俺はすぐにブルブルと顔を振った、ドキリとは何だ、相手はユーシャだぞ?
「ユー、ここはもうなくなった土地なの、私たち、別の星で、別の存在として愉快な旅をしていらんだよ?ユー、思い出して、そして、旅を続けよう」
エリアドルは、ユーと向かい合い手を握ると目をつぶって、彼に色んな事を囁いていた。
その声は、俺にも届かなかった。
しかし、現状は変わった、空が光に満ち始めたのだ。
何も色の無かった空間に、光が満ち始め、だんだん周りの景色が消えていく。
ああ、目を覚ますのか。
しかし謎ができた、このユーという少年は誰だ?
光に包まれる中、最後に見たユーは、涙を流していた。
そして、目が覚めた。
目を開くと、ユーシャもほぼ同時に目を覚ましていた。
一粒の涙が、その頬を伝う。
「ユーシャ……」
俺の呼び掛けに、ユーシャの瞳は俺を見る。
とたんに、ユーシャはむくりと起きあがって周りを見渡した。
「おはようございます、戦士さん、何だか大変なことになってますね、主にルアー王子が」
忘れていた!
俺はルアー王子を見ると、彼はまだがんばっていた。
ただ、何も言わない、必死すぎて、俺たちに声をかける隙さえないようだ。
「おっしゃ最後最後!」
ミミノスはルアー王子の元に、最後の夢の住人、ルアー王子の側で眠るリルマの元へと駆ける。
俺とユーシャも急いで彼女の後を走る。
その途中で、俺はユーシャに聞いてみた。
「ユーシャよ、お前は女だったんだな」
ユーシャは俺の隣で不敵と笑うと、
「さて、それはどうですかね」
また謎めいた台詞を言って、俺より前に出てリルマの元へと駆けて行った。
どう言う意味なのだ?
まだユーシャの謎は解けそうにない。




