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その日の空はとても青かった  作者: 音切風太
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第二十九話 ラドゥとの戦い

 開け放たれた扉の中に入ると、意外なほど美しく整えられたホールとその中心にある階段の上に立った一人の人物が俺たちを迎えた。


「こんにちは、皆さん」


 ルアー王子の爺だった。


「爺!」


 ルアー王子の驚きの声に、にっこりと微笑んで爺は返した。

 どう言う訳だ?

 無事だったのか、と言うには爺は落ち着きすぎている。


「王子、楽しかったですよ、孫と一緒にいるようだった」


 一歩、一歩、階段を降りながら爺は俺たちに近づいてくる。

 俺は何の変哲もなさそうなその爺さんに、何か得体の知れない物を感じ俺は後ずさりたくなった。

 後ろから王子の困惑した声が聞こえてくる。


「爺、どうしたんだ……?」


「王子、わしは爺ではありません、もともと生まれたときからあなたを見守ってきた爺はいないのです、すみません王子騙していて」


 階段を降り切った爺は腰をトントンと叩いた、その姿は本当にただの爺さんにしか見えない。

 しかし、違う、これは……。


「わしは、マオウ様の部下、ラドゥです」


 そう言うと同時に、爺の体が変化した。

 もぞもぞとローブが動いたと思ったら、その姿は一回り小さく、肌の色も茶色に変化していた。

 その姿は、老いて朽ちた老木を思わせた。

 驚愕する俺たちをよそに、爺……ラドゥはユーシャと目を合わせる。


「エリアドルさま、こうやって会うのは始めてですね」


「あなたはいつも違う姿をしていましたし、僕はいつも顔を隠していましたからね」


 ラドゥとユーシャの間に、どこか気を許した空気が流れたのは気のせいだろうか。


「話したいなと思っていました、でも、わしは戦わなきゃいけない」


「分かっています」


 お互いにっこりと微笑み合った後で、ラドゥは俺に分からない言葉で呪文を唱え始めた。

 それはユーシャの使う呪文と良く似ていた。

 何か来る!

 直感的にそう感じた俺は、剣を構えた。


「戦士さん、遠慮はいりません、強敵です」


 いいのか?

 俺はルアー王子を見る。

 ルアー王子も俺を見る。

 俺のラドゥへの、ラドゥから俺への殺気を感じたのだろう、その表情は怯えていた。


「だ、駄目だ!爺!戦いを止めろ!戦士!剣を収めろ!俺は許さん!やめろー!」


 だが、その叫び届かなかった。

 地響きと共に、綺麗なホールの地面が割れそこから数本の巨大な木の根が大蛇のようにうねりながら俺たちに襲いかかって来たのだ。


「うおおおお!」


 襲いかかる木の根たちを、俺は凪払いながら仲間たちを守る。

 だが木の根たちは攻撃を止めようとしない、次から次に地面から出てきて俺たちを襲いかかってくる。

 全方位から襲い掛かるその根たちを相手にするので、俺は手一杯だった。

 これでは埒が明かない。


「くそ!」


「そのまま、援護して」


 どこからともなく声がして、一人の女が飛び出した、リルマだ。

 リルマは木の根の攻撃をかいくぐりながら、ラドゥへと向かう。

 時々避けらなかったシーンもあるが、そのたびに俺が援護して木を凪払う。

 木の根で混雑している玄関ホール、リルマは遠回りして素早く階段の上まで、ラドゥの背後まで来ることができたが……。

 呪文を唱え続けていたラドゥは、両手を左右に大きく開いた。

 それと同時に、俺とリルマの立っていた地面が割れ、大きな穴がそこから現れた。


「うおお!」


「戦士さん!」


「リルマ!」


 急に足元が無くなりユーシャとルアー王子の叫びを聞きながら穴の中へと落下した俺だったが、次に気が付いた時には、見たことあるモノの置物に引っ掛かり地上にゆっくりと上がって行っていた。


「気を付けなはれや戦士さんー」


 ミミノスが扉の前にあった猛獣の置き物の上で足を組みながら俺を見ていた。

 モノの置物は、ミミノスがさっきまで乗っていたものだ。

 助けてくれたのか……。

 モノの置物から下り、地上に戻った俺は、リルマの姿を探した。


「リルマ!」


 リルマはそこにいた。

 冷静な表情で、ラドゥの首に針を刺した状態で。

 見ると、いつの間に用意していたのだろう、ロープのくくりつけられた鍵爪が穴の淵に引っ掛かっていた。


「私にそんな子供騙し通じる訳無いでしょ」


 リルマの腕の中で、ラドゥは力を失った。

 ホールで暴れまわっていた木の根も、今はおとなしく地面に倒れている。


「爺!」


 ルアー王子がリルマの足元で力を失ったラドゥの元に駆けて、しゃがみこんだ。

 信用していた人物に裏切られたのだ、傷ついているだろう。

 俺も剣を収めると近付く、しかし……。


「何だ?何を言ってるんだ?爺?」


 ラドゥは、何かを言うかのように口を動かしていた。


「まだです!まだです皆さん!」


 ユーシャの叫びを聞いたのを最後に、俺は意識を失った。

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