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その日の空はとても青かった  作者: 音切風太
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第二十八話 魔王城の歓迎

 城へと足を進めている途中で、扉は開いた。

 魔物が襲ってくるか?

 そう思い身構えた俺だったが、そこからは拍子抜けするくらい小柄な、執事服を着たヤギのようなモンスターが一匹出てきただけだった。

 俺は、同じく立ち止り身構えているユーシャを振り返る。


「ユーシャ、あれは?」


「まだ大丈夫です、多分」


 大丈夫なのか。

 俺たちの視線の先で、ヤギの執事はぺこりと一礼した後、ひょこひょこと歩きながらこちらに来た。


「なんか、ちょっと可愛いって思ってしまったんだけど」


 リルマの言葉に、ルアー王子が「えっ」と驚きの声をあげた。

 ユーシャが苦笑する。


「そんなに可愛くないですよ」


 ヤギの執事は、俺たちの目の前まで来ると一息ついてハンカチを出して汗を拭った。

 動作の一つ一つが不器用でゆっくりとしていて、なんとも緊張感が抜ける。


「お迎えに参りました、エリアドル様とその御一行様」


 ハンカチを直したヤギの執事が、思いのほか甲高い声でそう言った。


「罠ですか?」


 ユーシャが単刀直入に問う。


「そんな訳ないでしょう、私はあなたたちが怖がって入ってこないのではないかと心配してお迎えに参ったしだいです、どうぞ、ついてきてください」


 踵を返して城へ戻るヤギの執事だったが、誰も付いてこない、怪しすぎるのだ。

 ふとそれに気が付いたヤギの執事はいきなり地団太を踏んだ。


「てめえらとっととついてこい!手を煩わせるんじゃねえよ!」


 誰が言った?そう一瞬思ったが、どう見てもヤギの執事だった。

 なんなんだこいつは?

 俺は目が丸くなる思いだった。

 怒りに満ちた表情をしたヤギの執事は、一息つくとまた元の冷静さを取り戻したように穏やかなヤギの顔となった。


「早く、来てくださいね」


 なんなんだこいつは?

 俺は再び同じ文句が頭をよぎった。


「あ、やっぱり可愛くないかも」


 リルマは考えを訂正し、ルアー王子はうんうんと首を縦に振った。


「罠ですよ」


 隣にいたユーシャが俺に囁きかけた。


「付いて行ってください、歩きながら戦士さんに魔法をかけます」


 俺は頷く。

 ふいに昨晩ユーシャから聞いた話を思い出す。

 確かモンスターには、孤児やホームレスなどもなっていたりしたのではないのだろうか。


「いいのだな、ユーシャ」


 その一言で、ユーシャは俺の意図を組んだ。


「いいのですよ、僕の友達たちはみんなあいつらに殺されました」


 あいつら、そう言うユーシャの視線の先には、ヤギの執事がいた。

 やがてユーシャの口から詠唱が始まった。

 そんなユーシャを見てか、ヤギの執事はやれやれと首を振った後、ニヤリと笑った。


「歓迎会だぜお前ら出てこい!」


 そうして勢いよく扉は開かれた。

 そこから、屈強な異形のモンスターたちがわらわらと出てくる。

 詠唱はまだ終わってはいない、俺はユーシャを守るように前に出た。

 扉からモンスターが5匹くらい出てきた所で、いきなり空が光ったと思ったら、モンスターたちめがけて雷が落ちた。

 何が起きたのか一瞬分からなかったが、俺はその現象に思いあたる一人の人物、ルアー王子を振り返る。

 みんなの視線を集めて、ルアー王子は恐縮していた。


「な、何だよ、もう攻撃しちゅいけないかったのか……?」


 そんなルアー王子に、ミミノスだけが親指を立てて笑っていた。


「グッジョブですぜ王子さま」


 そう言った後、ミミノスはまたがったモノの置き物と共に空へと逃げた。

 喧嘩を売ってしまったものはしょうがない、俺は剣を構える。


「こいつら許さねえ!みんなやっちまえ!」


 3匹のモンスターは雷に討たれそのままグルースに姿を変えたが、残り2匹はタフにも生き残り、怒りをあらわに俺たちを指差してそう叫んだ。

 扉かからは、もう遠慮はいらないと次から次にモンスターが出てくる。

 走り寄ってくるモンスターの集団を、俺は睨みつける。

 モンスターたちが今にも俺たちに襲いかかろうとしたその時、声がかかった。


「戦士さん、どうぞ、暴れてください」


 体中に力がみなぎる。

 それはいつも以上のものだった、爆発しそうだ!

 俺は剣を横に構え、スローモーションのように見えるモンスターたちの攻撃を凪払った。

 たちまち衝撃波によりモンスターたちは吹っ飛んでいく。


「こ、こいつ!」

 

 残ったモンスターが驚愕の表情を見せる。

 タフなモンスター、素早いモンスターは残ったが、それもリルマのマヒ針とルアー王子の雷で次々と倒れて行く。

 最後に残った岩のようなモンスターに、俺は容赦なく剣を振りおろした。


「ば、ばけもの!」


 モンスターは、叫びと共にグルースへと姿を変えた。

 いや、さっきのモンスターが最後ではない、最後の最後、ヤギの執事が扉の前で。俺たちの様子を見守っている。

 そうして、手を前でクロスさせると、勢い良く振り下ろした、その瞬間、ヤギの執事の体はその数百倍に大きく、逞しく盛り上がった。


「てめえら許さねえ!」


 たちまち見上げるほどに大きくなったヤギの執事……もう執事服ははじけ飛んでモンスターそのものになってしまったヤギのモンスターは、あっと言う間に俺の前に来ると、その拳を振りおろした。

 片手で受け止めるが、大きな衝撃と痛みが襲いかかり、俺の脚は地面にめり込んだ。

 こいつ、強いぞ。

 拳は何度も振り下ろされ、そのたびに衝撃を受け、俺は反撃する暇もなかった。


「こいつ……!」


 声と共に、ルアー王子の呼んだ大きな雷がヤギのモンスターの背中を襲った。

 しかし、焦げた匂いがするものの、ヤギのモンスターは倒れようとしない。

 変わりに火に油を注いだように怒りをその瞳にたぎらせ、ルアー王子にその拳を振り下ろした。

 隙ができた。

 俺は拳を作ると、ヤギのモンスターとは反対にその拳を振り、全身全霊をかけてその腹に拳をめり込ませた。


「ゴフウ!」


 ヤギのモンスターは倒れる。

 倒れたその体躯は、どんどん小さくなっていく。


「ふ、ふふ、私が倒れようと、世界に悪があるかぎり何度も私のような存在は現れるぞ……!」


 完璧に小さな体に戻ったヤギのモンスターはそれだけ言うと、ルアー王子の雷に討たれてグルースに姿を変えた。

 荒れた庭には、大量のグルースが太陽に光を受け、俺たちの前で光輝いていた。


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