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その日の空はとても青かった  作者: 音切風太
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第二十七話 見下ろす視線

「申し訳ございません王子!王子を守るべき自分が操られてしまうなど!」


 王子の目覚めの魔法により眠りから覚めた鎧戦士は、状況を把握すると王子の前でこれでもかとひれ伏した。

 兜を外したその顔は、なんとも素朴で気が弱そうな表情をしている、あまりに素朴すぎる顔に、俺は故郷の友達を思い出してしまう。

 場所はまだ荒れた庭の真ん中。

 城ではモンスターたちが俺たちを観察しているだろう、何もしてこないのが不気味でもあるが、今はその状況に感謝するしかない。


「よい。ノウス、今日、ここに来るまで覚えているところまで話してくれ」


 王子に促され、戦士ノウスは首を傾げ思い出すように青空を見上げる。


「情けなくも王子の活躍の後ろからついてきただけの私ですが、ひときわ大きな門番のモンスターを王子がやっつけ、私が拍手をした所は覚えております、しかしそれから先は……」


「俺と同じだ、やたらでかい岩のようなモンスターを割って、こいつから拍手が聞こえてきたと同時に突然眠くなって、気が付いたらここでお前たちを待っていた」


 うむ、眠くなる魔法が使えるものがいるのだろう、気をつけなければいけない。


「そうだ!爺は?爺はどうした!」


 俺も少し疑問に感じていたことを王子も気付いたらしい、周りを見渡すが、そこにはいつもつき従っていた爺の姿は影も形もない。


「あの爺さんなら、最初からいなかったぞ?」


 爺の姿を探し続けるルアー王子に教えるが、ルアー王子は探すのを止めない、もっと焦ったように爺の名を呼び続ける。


「爺ー!爺!」


 しかし、その声に答える者はいなかった。


「爺……」


 最初は大きかったルアー王子の声も、次第に小さくなる。


「俺のせいだ……」


 その声には答える者がいた。


「あー、あんたのせいよ」


 一瞬声の主を睨みつけた王子だったが、その主がリルマだと気付くとしょんぼりと下を向いた。


「一体どういうこと?部下を危険にしてまで、こんな所来ちゃって、分かってるの?自分が何したって、難攻不落の魔王城よ?あんたがどうこうできるものじゃないって知ってるでしょう」


 ルアー王子は、俯きながらリルマの言葉に耐えていたが、やがてポツリと小さく声を発した。


「かっ……」


 リルマが聞き返す。


「か?」


「かっこいい所見せたかったから……」


 ……。

 なんとも言えない空気が流れた。

 ルアー王子は真っ赤になり俺達から視線を逸らし、俺もなんとなく視線をそらし顔をかいた。

 やったことは大きな間違いとは言え、なんとも子供らしいと言ったら子供らしい。

 リルマはと言ったら、どうしようこの子と言わんばかりに頭を抱えている。

 そんな空気の中、気が付いた。

 目を逸らした先の城の窓、その2階から、大きな人影が俺たちを見降ろしているのを。

 良く見ると、他の窓からも様々なモンスターたちがこっちを見ている。


「どうやら、待たせているみたいだな」


 俺が目で城を示すと、皆も城を見た。


「うげえ、罠なんじゃないの?ちょっと、帰りたいんだけど」


 非常に嫌そうに城を見る、リルマの気持ちも分からなくもない。


「ここからあのルアー王子の魔法でどかーんやっちゃえばいいんじゃないかい?」


 ミミノスはとんでもない作戦を発案した。

 しかし、その作戦も良いかもしれない、そう思いかけたが、


「そんなことしたら、モンスターたちの怒りが殺到するに決まってるでしょう」


 ユーシャの言葉にその考えを良いと思うのを止めた。

 うむ、あまりに無謀すぎるな。

 ユーシャはじっと2階の大きな人物を見ている、大きな人物も、ユーシャを見ているようだった。


「王子!帰りましょう!」


 ノウスはそんな城を見て怖気づいたか、帰る気満々である。


「いや、俺はこの者たちについて行く、もしかしたら爺が捕まっているかもしれない、ノウス、お前は帰れ、そして応援をよこしてくれ」


 ルアー王子は俺たちと来ることに決意を示した。


「し、しかし王子を置いてなどできません、俺も……」


「ノウス、命令だ、帰って応援をよこせ、分かったな!」


「は!はい!」


 一瞬ここに残ろうとしたノウスだったが、ルアー王子の命令によりあっさりと門へと走り出した。


「王子」


 そんなやりとりを見ていたリルマが、ルアー王子に口を開いた。


「あんたも帰っていいのよ」


 王子はショックを受けたような顔をした。


「嫌だ!ついて行く」


「帰りなさいよ」


「嫌だ!」


 リルマはいたずらっぽく笑った。

 その笑顔はやはり美しく、正体を知っている今でもドキリとするものだった。


「ああ、お子様のお守りか、大変だこりゃ」


 ルアー王子は黙りこくってしまったが、赤くなってる顔を見るとその心中はリルマのさっきの笑顔でいっぱいと見た。


「んじゃ、絶対に生きて帰るわよ!」


「当たり前ですからそれ」


 リルマの激励に、ユーシャは答える。


「ね、戦士さん」


 そして俺を振り返るが、俺は一瞬ミミノスの今朝の台詞を思い出していた。


『戦士はん、あんた死ぬかもしれないよ』


「戦士さん?」


 再度のユーシャの呼び掛けに我に返り、俺は笑って取り繕った。

 あれはただミミノスが寝ぼけただけだろう、まったく、人騒がせな奴だ。


「当たり前だ!絶対皆で帰ろう!」


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