第二十四話 ユーシャ
ユーシャは空に指をさす。
「僕は、あの星のどれかから来たんですよ」
俺とリルマもほぼ同時に空を見上げる。
そこにあるのは木々の葉から覗き見える満点の星空。
「いやいやいや」
リルマは首を振る。
しかし、俺は信じようと思った。
数年前から現れ始めたモンスター、不思議な力を持つユーシャ、それらがすべて自分らの手の届かない世界のものだと思ったら納得も行く。
それに、今のユーシャを信じたくもあったのだ。
「まあ、正確に言ったらここも星なんですよね」
その言葉は理解の範疇を越えたが、俺はとりあえず信じた。
「いやいやいや……」
さっきから首を振りまくるリルマだったが、ミミノスの、
「そこから話すと話が長くなるから、とりあえずこことは別の世界があるって思ったらいいがなに」
の言葉に首を捻りながらも口を閉ざした。
本当かなあ、そんな顔をしながら。
「あの星達にはそれぞれ世界があって、いろんな人たちが住んでいます」
俺は空を眺め続ける。
そうか、そんなものだったのか、あの星たちは。
あの輝きは、俺が想像するよりもっとすごいものだったのだな。
「その星の一つに、イナという星がありました」
星たちは輝き続ける。
ふとユーシャを見ると、焚火にあたって何か遠い昔を思い出すような表情をしていた。
ミミノスは、俺やリルマと違ってそんなユーシャをじっと見ている。
「そこは、文明を極めた星でした、でも、そこに住む生き物は、精神は特に進化しなかったようです、自ら真の神それそのものになるために躍起になっていました。その実験の被験者になったのが、ホームレスや孤児、犯罪者たちでした」
ユーシャは一呼吸置くと、隣のミミノスと目を合わせた。
「実験は過酷なものでしたよ、死ぬものも後を絶ちませんでした、でも、中には不思議な力を持つことができる者たちがいました、一瞬にして別の場所に移動できるもの、全ての言葉を瞬時に理解できるもの、人知を超えた発明をすることができる者そして、1人の対象者を世界最強の存在にできる者、皆、力と共に何か人の体と違う形となってしまいましたが」
ユーシャはミミノスを見ていた目を反らして、俺たちに目を移した。
「そして、事件が起こったのです。誰か一人を世界最強にする力をする被験者が、ある被験者と結託して、みんなでそこを逃げ出したのです、逃げ出すにしても、そりゃもう施設の人たちは血眼になってそれを止めましたね、神を作りだそうなんて、平和に生きてた人達には秘密だったみたいなんです、バレるんだったら壊してしまえとでも思ったんでしょうか、その星は崩壊しました、僕らの存在を隠そうとして。でも、被験者の1人が、身を盾にして守ってくれました僕ら被験者だけを」
神を作りだす。
その行為がどんなものなのかイマイチ理解できなかった。
なぜそのようなことをするのか。
それさえ理解できなかった。
もし世界の悪に絶望していたのだったら、俺たち人間がいるではないか。
ユーシャの話は続く。
もうリルマも何も言わず、真剣にユーシャの話を聞いていた。
「それで済めばよかったんです、でも、やはり僕らも神を作りだそうとした僕らの星の人間と同じ人間でした、自らの力を駆使し、あらゆる星を崩壊に至るまでめちゃくちゃにし続けたんです、もちろん、誰かを世界最強にする力を持つ者も一緒に」
ユーシャはそこまで言うと、薪で焚火をいじり始めた。
しばらくそうしていたが、やがてその薪を焚火に投げ入れた。
「だから、逃げたんです、裏切ったんですよ、この人たちを止めようって。誰か世界最強にして、止めようって。相棒にするのはそうですね、単純な人がいい、そう思いましたね」
俺はユーシャを見つめ続ける。
ユーシャも俺を見つめ続けた。
大丈夫だ、俺はそれでよかった。
力をくれてありがとう、おかげで皆を守れる。
「僕の元相棒の名前はマオウです、魔王城の主にして、元イナの住人です。そして僕もまたイナの住人、そこでの名前はエリアドル。ユーシャは仮名です」
俺の気持ちを読んでくれたのか、ユーシャの表情に勇気がみなぎって来た。
まっすぐ真剣な表情で、事実を俺に伝えようとしてくれている。
「とんでもなく強い相手です、普通の状態で、僕と手を組んだ戦士さんとどっこいどっこい、いや、それ以上かもです」
そこまで言うとユーシャは口を閉ざして、俺の目をじっと見た。
俺は笑顔を見せた。
大丈夫だ、任せろ。
そういう思い一杯に込めて、笑顔になった。
そんな俺を見て、ユーシャも笑顔になった。
「確実に倒さなくてはいけないのは、魔王とあと1人、空間を超える魔法を使える者です」
俺は頷いた。
任せろ。
ミミノスも、
「そうでっしゃったかーそうでっしゃったかー」
とヘラヘラしながら左右に揺れていた。
ただ1人、リルマだけは、
「いやちょっと、話が壮大すぎてどうしていいやらわからないんだけど、私だけ?」
と、渋い顔を見せていた。
「そういうのは、国にでも頼んだ方がいいんじゃないの?めっちゃ降りたい」
「リルマよ」
俺はリルマに言った。
「逃げたいなら逃げるがいい」
そう言うと、リルマは渋い顔をもっと渋くさせ、俺を睨んだ。
「そんな言い方ないでしょう」
「リルマさん……」
ユーシャもそんなリルマを見る。
「リルマはーん」
ミミノスに至っては遊び半分で見ている。
2人の視線を受け、リルマは手を上げて降参をした。
「あーもう、分かった分かった、あんたたちだけじゃ心配、ついていってあげるわよ」
そうして、俺たちは、魔王城に行く決意を固めた。
頼りない一行だが、なるようになるしかならないだろう。
俺は笑うと、リルマの肩を叩いた。
リルマは顔をしかめて、だが諦めたようにため息をついた。
ユーシャはそんな皆を懐かしそうに見ていた。
そして次の日。
交代で火の番をしていた俺たちは、俺を最後にして朝を迎えていた。
日が昇り、もう薪もいらないなと思い始めた頃、一番に起きた者はミミノスだった。
ミミノスは、朝靄の中むくりと起き上がると、そのままボーっと宙を眺める。
寝ぼけているな、俺は苦笑しながらミミノスに挨拶をしようと声をかけた、
「おは……」
しかし、ミミノスは俺に顔を向けると、ぼんやりとした表情のまま俺の言葉を遮り言った。
「戦士はん、あんた死ぬかもしれないよ」




