第二十二話 ラドラスとの戦い
エリアドル。
そう呼ばれたユーシャの方を見ると、ユーシャは真剣な表情でじっとモンスターを見ていた。
ユーシャは何か事情のある者だとは思っていたが、少々込み入った事情があるようだ。
エリアドルと呼ばれたユーシャ、モンスターに詳しいことのあったユーシャ。
しかし、ユーシャはユーシャだ。
しばらくの間皆の視線を集めていたユーシャは、モンスターから目を逸らさず不敵に微笑むと口を開いた。
「こちらこそお久しぶりです、ラドラスさん」
ざわりと辺りが騒ぎ始めた。
「どう言うことだ?」
「おい、あいつモンスターと知り合いみたいだぞ」
「もしかしてモンスターのスパイじゃないか?」
また好き勝手言う。
何も言わず、再び隙をついてモンスターに攻撃を加えようとする者もいたが、若い戦士を盾にされて足を止めていた。
「エリアドルよ、ここにお前がいるというのを昼ここに来た者たちから聞いてな、マオウの変わりに迎えに来た、来い、エリアドル、またこの星も面白いことにしようではないか」
モンスターは言うと、若い戦士を持っていない方の手をユーシャに差し伸べる。
ユーシャの表情は変わらない、真剣な表情のままラドラスと呼ばれたモンスターを見つめる。
行くわけない。
俺は確信していた。
ユーシャは再びモンスターに口を開く。
「行くわけないでしょう」
ほらな。
「僕は……面白くなんてなかったですよ」
そう言うと、ユーシャは手を不思議な形に印を切った。
初めて見る、ユーシャの魔法の詠唱の舞だった。
足は動かさず、両手を同じ動きに、時々印を切るように歌うような詠唱に乗せて舞う。
見惚れている場合ではない、俺も剣を構えた。
どんな因縁があるか分からないが、このような者たちとの縁、俺が断ち切ってやる。
「その女か……いや、俺の目を持ってすると男に見えるが……どうでもいい……今のお前の相棒を殺すまでだ!」
そしていきなり俺に向かって大きな拳が飛んできた。
突然のことで避けられなかった俺は、大きな衝撃と共に後ろに吹き飛ばされる。
そして再び全身を襲う衝撃。
「キャー!」
悲鳴が聞こえる。
どうやらどこかの民家の中まで叩き飛ばされたようだ。
遅れて激痛が体を走る。
しかし、ユーシャの詠唱は止まることはなかった。
「ははは!どうだ!お前の相棒は死んだぞ!さあ!再び我らの元に着くのだエリアドル……何!?」
「うおおおお!」
俺は、壊れた民家の中で咆哮した。
そして力を込めて大地を踏みしめると、再びユーシャたちの元へと歩く。
ユーシャは俺を信用している、その信用に俺は答えなければいけない。
力をくれ、俺がお前たちをみんな守る。
俺の視界には、詠唱を続けるユーシャ、傷つき倒れている者たち、モンスターに捕まった若い戦士があった。
再びユーシャの隣に立った時、再び間髪入れずモンスターの拳が飛んできた。
しかし、今度は見切った。
両腕を大きく広げると、俺の視界いっぱいに広がる拳を受け止めた。
後ろに下がるが、力の限り踏ん張って耐える。
「うおおお!」
そうして離さない。
考えは無いが、絶対に離さない!
「ちょっとタンマちょっとタンマ」
リルマがせめぎ合う俺とモンスターの間にやってきた。何をしている!逃げろ!
「血なまぐさいの嫌なんだけど、話し合うのとか無理?」
そうしてポンポンとモンスターの腕を叩く。
「無理だ!」
「無理に決まっている!」
モンスターと俺はほぼ同時にそう叫んだ。
「ひっこめ兄ちゃん!」
どこからともなくそんな声も聞こえる。
リルマはしぶしぶと腕を離れた。
と、その時だった、
「良いですよ、戦士さん、暴れて下さい」
ユーシャの声を皮切りに、俺の中に爆発的に力が湧く。
行ける!
俺は抱える拳に思い切り力を込めると、モンスターを何も無い所に落ちるよう狙って空に投げた。
モンスターは驚愕の表情を浮かべ宙に舞う。
「うおりゃあああ!」
俺も一緒にモンスターの元へと飛ぶと、剣を振り、若い戦士を捕まえていた腕を切り落とした。
落ちる若い戦士を空中で受け止めると、俺は地面に着地した。
一呼吸遅れて、モンスターがとてつもない地響きを立てて頭から森の中に落ちる。
「うがああ!俺の腕がああ!」
青い血を飛ばし、モンスターは地面を這いずり回る。
俺は若い戦士を地面に置くと、再び剣を構えた。今度の攻撃に備えて。
「俺が力だけと思うなよ!俺には魔法が使えるのだ!この村など丸ごと吹き飛ばしてくれるわ!」
やっとで立ち上がったモンスターはそう叫ぶと、片腕になった腕を振り上げようとして……上がらなかった。
「?」
何度も何度も手を振り上げようとしたモンスターだったが、その手を上がらない。
「あ、ごめーん」
後ろから不敵な声が聞こえてきた。
「その手、魔法使うんだ、さっきマヒ針刺しちゃったー」
振り返ると、月明かりの下、ニヤリと笑うリルマ青年の姿があった。
よくやってくれた、リルマ。
俺は剣を振り上げると、大きく飛び、頭から腹にかけて大きくモンスターを切った。
「うがあああ!おのれ!エリアドル!裏切り者よ!」
血を流し、もがいていたモンスターだったが、やがて霧のように消え、月明かりに輝く大きな青い色の宝石の姿を残し、それは地面に落ちた。




