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その日の空はとても青かった  作者: 音切風太
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第十七話 ラノ村でのひととき

 その後、俺たちは村の食堂で遅い昼食を取った。

 ラノ村名物、モノという牛の焼き肉と焼き立てのパンはなかなかに絶品で、一緒に付いてきた野菜のスープはこれまたパンと合い食が進んだ。

 ユーシャは食が細いようで、俺の3分の1も食べなかったが、ユーシャから言わせたら「戦士さんの食欲がすごいんですよ」だそうだ。

 家ではいつもこの位食べていたが、よく考えると村でも大食漢一家だと言われていたな。

 そう言って笑う俺に、ユーシャも少し笑った気がした。

 昼食の後は、村の探索に費やした。

 小さな村と言っても、名物や名所、土産物屋や傭兵用のトレーニング施設まで整っていて、なかなか全部見るのに時間がかかった。

 特に土産物屋はユーシャが興味津津で、木彫りのモノの置物や果物の形をしたアクセサリー等時間をかけてじっくりと見ていた。


「まだかー?」


 アクセサリー等には興味のない俺は、手持無沙汰でユーシャにそう問いかけたが、ユーシャは、


「まだちょっと待って下さい」


 と真剣に言うばかりだった。

 逆に、トレーニング施設は俺が釘付けとなる番だった。

 腕立て伏せを効率的にする道具や、腹筋を鍛えるトレーニング用具、なんと素晴らしい施設なのだろう。

 夢中でそれを使い筋肉を鍛え始める俺に、ユーシャが、


「まだですかー?」


 と言ったが、俺はちょっと待ってくれと言うばかりで、いつの間にやら窓から見える景色は夕日に染まりかけていた。


「お前たち何してんの?」


 そんな時だった、トレーニング施設でユーシャに背中に乗ってもらい腕立て伏せをしている最中、青年リルマが窓からこっちを見ていたことに気が付いたのは。


「リルマか!ここはすばらしい村だな!住みたいくらいだ!」


 腕立て伏せをしながら言ったら、リルマは呆れ顔のままゆっくり頷いた。


「つまり、遊んでいたと、俺が苦労してあの王子を撒いて情報収集している間、村でのんびり観光していたと」


 情報収集と言う言葉に、俺は腕立て伏せをする腕を止めた。


「情報収集してくれたのか!リルマよ!」


 迂闊にもその名前を言ってしまい、気がついたときにはトレーニング施設にいた数人が反応していた。


「リルマ?」


「あのリルマ?」


 まずい、そう言えば今は俺たちはお尋ね者だったのだ。

 ジト目で見るリルマに俺は笑い掛けると、大きな声で言い直した。


「間違えたー!リルよ!我が友リルよ!」


 わざと周りに聞こえるように言ったら、周りの者たちは納得したのか、何よりリルマの姿が見当たらなかったからなのか、釈然としないながらも再びトレーニングに戻って行った。


「バカ」


 窓枠に頬杖をつきながら、リルマは呆れ顔のままそう言い放った。

 トレーニング施設を出て、近況を話すと、モンスターを退治して金を貰えたことに関してはリルマは関心してくれた。


「うわお、やるじゃん」


 わしゃわしゃと頭を撫でられたものだから、俺は頭を再び直さなくてはいけないくなった。

 子供扱いはやめてもらいたいのだが。


「というわけで、今日はどこか宿でも探そうと思う訳なんですよ」


 ユーシャの言葉に、リルマは、


「そりゃダメだ」


 とあっさりと首を横に振った。


「ここはね、もう宿はいっぱいいっぱいみたいなんだよ、教会はもう国の警備隊が貸し切ってるらしいから、傭兵はほとんどテント張って寝る生活みたいだ」


 また野宿となるのか……俺は良いが、女であるリルマは(今は男だが)ベッドで寝かせてやりたかった。


「まあ、俺は慣れてるからいいけどね」


 しかし流石元盗賊、出てきた言葉は逞しいものだった。


「しかし、このままでは折角来たのに温泉入れないかもですね」


 残念そうにため息をつくユーシャの肩を、リルマはがしりと掴んだ。

 何だと思い目をやると、ガッツポーズをしてキラキラとした表情をするリルマの姿がそこにあった。


「リルマ……?」


 不審に思い問い掛けると、リルマは「ふっふっふ」と笑い始めた。


「ところがぎっちょん、入れるんだよなこれが、村の女の子に頼みこんで、空が茜色になってる間だけ、村のはじっこの温泉を貸し切ってくれることになったんだよ」


 目を輝かせたのはユーシャだった。


「本当ですか!?」


「本当だよ!」


 リルマもテンション高くユーシャと手を取り合う。


「では急がなくてはいけないじゃないですか!」


「急がなきゃいけねえんだよ!」


 何やら意気投合している。

 2人はそのまま手を取り合ったまま、「ひゃっほー温泉ー」というリルマの声と共に走り出してしまった。

 慌てて俺も追いかけるが、温泉とは、そんなに魅力的なものなのだろうか。

 すっかりハイテンションになってしまった2人を追い掛けるのはなかなか苦労した。

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