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その日の空はとても青かった  作者: 音切風太
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第十五話 ラノ村での再会

6・ラノ村


「ようこそラノ村へ!皆さんも魔王城攻略メンバーですか?だったらお得な割引が使えますが、お名前とご住所をこちらへ……え?いい?だったら観光ですか?しかしすごいイケメンですねそこの方、モデルさんとか?うちの村の若い女の子なんて絶対ほっとかないと思いますよ、え?もう行く?では、お気をつけて!」


 と、村の入口で魔王城攻略組合というバッジを付けた若者に言ったように、俺の隣にいるイケメンは村の少女たちの視線を釘づけにしていた。

 イケメンはまんざらでもなさそうに腕を組んで、時々女の子たちにウィンクをしている。


「リルマ、もう少し目立たなくした方がいいんじゃないか?」


 俺はイケメン……リルマに言う。


「えー?だってオーラは隠せないでしょー、じゃない、だろー、それに今の私はリルくんよリルくん、忘れないでテラちゃん、てかはっきり言ってあんたの方が目立ってるぞテラちゃん」


 俺は改めて自分の体を見る。

 そこには筋肉隆々とした体と、山のような胸が付いていた。

 戦士デラ18才にして、女体化を体験しているのであった。

 あれからミミノスは俺たちに魔法をかけた。

 要は変装してラノ村に潜入すればいいのではないかという結論だったのだが、その方法が今の自分とは違う別の人間に変身するということだったのだ。

 かくして俺は豊かな髪と胸を持つやたらでかいアマゾネスのような女へと、リルマは青い色の短髪と瞳を持つ美青年へと姿を変えた。

 ご丁寧にミミノスは、オプションとして着る物まで出してくれたので、俺はビキニアーマーというやたら露出度の高い鎧に着替えさせられ、リルマはやたらチャラい遊び人のような服を着ることとなった。


「やっほーユー、早く来いよ!」


 そう、問題はユーシャだった。

 ユーシャにだけこの変身の魔法が効かなかったのである。

 何故かは分からないが、きっと体質の問題だろうと言ったのは、なぜか俺たちに魔法をかけたら「んじゃ、またねん」と言って消えてしまったミミノスだった。

 ということで、ユーシャは……。


「2人ともはしゃぎすぎですよ」


 深いフードを被った素朴な少女のような格好をしてもらうことになった。


「やれやれ、アマゾネスに美青年、それに普通の村人のような僕に、一体何の一行と思われるでしょうね」


 ポツリと呟いたユーシャの言葉に、俺も首をひねった。

 兄弟、には見えんだろう、親子……にも見えんだろう。


「ちょっと見ろよお前ら!あの娘に饅頭もらったぜ!ラノ村名物フルーツ饅頭!」


 首をひねる俺なんかおかまいなしに、リルマは意気揚々とタックルしてくる。

 その手には、饅頭の沢山入った袋が抱えられていた。

 美青年リルマは遠くでこっちをポーッと見る少女に向かって投げキッスを送ると、それを見た少女は「キャー」という歓喜の声と同時に倒れてしまった。

 リルマの正体を知っていると、何と言っていいやら分からない光景である。


「リルマよ、騒動は起こすなよ?」


 念を押すが、リルマはフルーツ饅頭を頬張りながら肩をすくめるばかりだった。

 しかし、外から見ても傭兵だらけだったラノ村、いざ中に入るとこれまた想像以上に傭兵だらけである。

 教会の庭を借り素振りをする城の警備隊あり、フルーツ饅頭を頬張る女僧侶あり、今から出発するのだろうか入口に向かい歩いて行くパーティありと、多種多様な者たちが色々と村を徘徊している。

 まあ、俺たちもその多種多様な者たちの一員ではあるのだろうが。


「ゲ」


 キョロキョロとしていたリルマが、ある一点を見て立ち止まった。

 何だと思い俺もその視線の先をたどった後、俺も凍りついた。


「ありゃールアー王子ですねー」


 ユーシャは俺と一緒に気が付いたのだろう、ほぼ俺が凍りついた同時にそう言った。

 小さな村、いるなら会うだろうと思っていたが、俺たちの視線の先にあったのは、警備隊2人を後ろに連れたルアー王子とお付きの爺だった。

 ルアー王子は素知らぬ顔でラノ村の観光をしているようだった、後ろの2人は王子が買ったのであろう名産品の数々を持たされている。

 そこらを物色しながら、ルアー王子はどんどん近付いてくる、比例して俺はぶわっと汗が出てくる思いだった。

 硬直している俺にいよいよ近づいたと思ったら、ルアー王子、俺の顔をじーっと見つめ出した。

 な、何だ、俺は何もしていない!


「そこのお前、なぜ俺を見て固まっている」


 ルアー王子の言葉で気がついたが、俺は本当に歩く途中の格好のまま固まっていたらしい、何か言いたいが、力が入りすぎて上手く動けない。


「……バカ……」


 隣でリルマがポツリと呟いた。


「さてはお前……」


 ルアー王子が俺をまじまじと見上げてニヤリと笑った。


「俺に惚れたな?」


 は?


「は?」


 思わず素っ頓狂な声が出てしまった。


「いや、みなまで言うな、分かってる、俺ほどの男となるとそうなることもあるだろう、しかし、俺には心に決めた女がいる、悪いが……」


 ルアー王子は一方的にそこまで言うと、俺の隣にいたリルマに気がついて首を傾げた。


「そっちの男……お前の連れか?」


 俺は完璧に正体が気付かれていないという事実に少し緊張感を緩め隣のリルマを見るが、ルアー王子に見つめられたままのリルマはそっぽを向いたままこちらを見ようとしない。


「俺……いや、私の友達よ」


 苦し紛れにそう言うが、ルアー王子は不審そうな顔のままリルマから目を反らさない。

 しまいにはしびれを切らしたリルマが、


「あっち行けガキ」


 とルアー王子を睨みつけたものだからたまらない。


「あ、あっち行けとは何だ!俺はこの国の第三王子だぞ!」


 怒ったルアー王子が、リルマに向かい怒鳴り始めた。


「う、うるさい、テラちゃん、ユーちゃん、俺ちょっと向こう見てくるから」


 リルマは逃げだそうとするが、ルアー王子は逃がすかとリルマに付いて行く。


「お前!逃げる気か!」


「付いてくんなよ頼むから」


 かくてリルマとルアー王子は、お付きの爺と警備兵まで連れて村の奥へと向かい歩いて行ってしまった。

 残されたのは俺とユーシャ。


「さて、どうしますかね」


 ユーシャの言葉に、俺も、


「どうしたものかな」


 と同意する。

 その時、村の入口で騒ぎが起こった。

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