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その日の空はとても青かった  作者: 音切風太
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第十四話 ミミノス?

 大魔法使いミミノス、その名はこの大陸、いや世界全土が知っている大大大大魔法使いである。

 ルアー王子の先祖の、とにかくすごい魔法使いなのである。

 俺はくるくると踊り続ける魔法使いをじっと見ると、緊張しながら聞く。


「お前……ミミノスの親戚なのか?」


 魔法使いはくるくると回りながら少し考えていたが、ピタリと止まり俺を見た。

 細い目でじいいと音が出るほど見つめられ思わずひるむが、負けられん、と俺もじいいいと見つめ返す。

 魔法使いと俺はそのまま数秒見つめあうという奇妙な時間が流れた。


「何この空気」


 呆れて言い放ったのはリルマだろうか、しかし俺は魔法使いと見合っている最中、振り向くことはできない。

 と、突然魔法使いの顔が崩れ、ものすごい変顔に変貌したもんだからたまらない、俺は吹き出し大声で笑ってしまった。


「わはははは!」


「しー!」


 俺の大声を止めようと、ユーシャとリルマが俺の口を塞いだ。

 そ、そうか、ラノ村の傭兵に見つかったら大変だったな。

 再び視線を魔法使いに向けると、魔法使いはさっきまでと同じような気の抜けたような表情でヘラヘラ笑っていた。


「まあ、あんたならいいか、ぶっちゃけ秘密だけど、あたしゃミミノス本人なのさ」


「ええええ!」


 俺は再び傭兵のことを忘れ大声を出してしまった。

 すぐに自分で口を塞いだが。


「ええええ?」


 隣でリルマも大声を上げる。

 これまたすぐに自分で口を塞いだが。

 リルマと同時に後ろのラノ村を振り返るが、そこの門番の傭兵はあくびをするばかりで全然気がついていないようだった。

 自慢じゃないが声の大きさには自信ある、大丈夫なのだろうかあの門番は。


「ああ、だからそんなすごい魔法が使えるって言ってたわけですね」


 俺たちの中では唯一ユーシャだけが冷静を保っている。

 どうしてこいつはここまで肝が据わっているのだろうか。


「いやだねえ、かと言っても、まだ国も救ってないし、ドラゴンも友達になっちゃいないし、ポプル族に魔法をかけて人間になぞしてないわね、まだ天才とか天災とか言われてる小童時代のミミノスちゃんなのさ」


 ミミノスが言った内容は、全部大魔法使いミミノスの冒険として冒険小説になってる内容だ。

 俺は見てないが、友達が勢いよく話してくれたことがある。

 しかし、子供時代のミミノスがこの時代に来たなど聞いたこともない。

 なぜ……、


「なぜその小童時代のミミノスがこんなところに……」


 俺の問いにミミノスは肩を竦めるた。


「それがよく分からないだわのよね、なんか呼ばれたよーナ、呼ばれてないよーナ気がして、時空転移魔法を徹夜して造り出してここにきたのはいいけど転移魔法の材料が高くなっちゃってて帰れないからここで何でも屋を……」


「ちょっとちょっとちょっとちょっと」


 途中で話しに割り込んできたのはリルマだった。


「そんなこと言っても信じられるわけないでしょう、本物って証拠は?」


 さっき一緒に驚いていたような気もするリルマは、堂々と指を差してミミノスにそう言い放った。

 ミミノスはニヤリと笑う。


「クックック、お譲さん、証拠は……」


 そしてごそごそと服に付いていたポケットをまさぐる。

 何か出すのだろうか、リルマも緊張した面持ちでその先の様子をうかがっている。

 ミミノスのポケットから出てきたのはドーナッツだった。

 こ、このドーナッツが証拠なのだろうか……。

 ミミノスはドーナッツをパクリと食べて言う。


「ないね」


 俺とリルマは気合いが抜け、少しガクリとなった。


「ないならしょうがないですね~」


 ユーシャは平然とそう言ってのける。

 ミミノスもその言葉に乗る。


「ね~、しょうがないっしょ、まだ私伝説にもなってない天災ちゃんなんじゃから」


「はあ……そうか……」


 間抜にもそう言うしかない俺の隣で、リルマがはーっと長い溜息を吐いた。


「もうヤダあんたたち」


 なぜ俺までヤダの中に入っているのか分からんが。


「でも魔法の腕は確かだヨ、どうでい?私、雇ってみませんかい?」


 雇う?


「しかし我々には金が……」


 俺は言う、残念なことに、俺の剣は帰って来たものの、金の入った荷物は没収されたままなのである。

 ユーシャの荷物も没収されたまま、リルマにいたっても手ぶらである。


「いいってことよ出世払いで、なんかこう、あんたたちについて言ったら目当てのブツが手に入るような気がするのだわよ」


 ミミノスは帽子のとんがり部分をいじりながらそっぽを向いてそう言った。


「それに……何か面白そうな匂いがするしねあんたたち」


 最後にニヤリと笑い小さく言ったその言葉は、俺にしか聞こえないくらの小声であった。

 そこまでして、背中をコンコンと叩かれる感覚がして振り返ると、リルマが胡散臭そうな顔をして手招きしていた。

 俺とユーシャは何だとリルマに付いて行く、ミミノスからほんの少し離れた場所で、俺たちは固まって話し合いを始めた。


「いいわけ?信用して、怪しいんだけど」


 リルマは反対なのだろうか。


「良いんじゃないだろうか?魔王を倒す仲間が増えるのは心強い」


 俺の言葉にリルマは額を抑える。


「あんたはもうすぐ信じようとする、少しは疑いなさいよ」


「でも……、あの魔法使い、魔力は本物みたいですよ」


 しばらく黙っていたユーシャが口を開いた。


「……」


「……」


 俺とリルマは少し黙ってユーシャを見つめた。

 その後、


「分かるの?ユーシャ?」


 リルマに聞かれたユーシャは、コクリと頷いた。

 そうか、ユーシャも魔法使い、そのくらい分かるのだろう。

 ただ、その先のユーシャの言葉は理解できなかった。


「ただの魔力ではありません、この星まるごと破壊できるほどの力です」


 うむ、星とは天に浮かぶ星か?

 まるで俺たちもその星に住んでいるかのように言う。


「……ユーシャ、星って言うのはね、夜空に浮かんでるものよ?」


 リルマも疑問に思ったようで、ユーシャにそう言う。

 ユーシャは何故か少し慌てたようにすると、言い直した。


「あーつまり、この大陸全部を海に返すことくらいたやすい力を持ってるんですよあの人は」


 その言葉で理解できた。


「それはすごいではないか!」

「ちょっとそれヤバくない?」


 俺とリルマはほぼ同時にどなり声を発した。

 発したと言っても、ヒソヒソ声でのどなり声だが。


「そう、ヤバいんですよ」


 頭をポリポリ掻きながらユーシャは言う。

 俺たちがそっとミミノスの方を見ると、ミミノスはくるくる踊っていた。

 俺たちの視線に気がつくと、


「まだでっしゃろかー」


 と相変わらずどこの方言だか分からない言葉でこっちに向かって言った。


「しょうかないでっしゃろなあ、じゃあ、信用を勝ち取るために、みんなであの村行ってみましょか?」


 少し遠くで、踊るのを止めたミミノスは言う。

 それでもどう言っていいものか分からないため口を閉ざしていると、ミミノスは懐から何か紙を出して俺たちの元へとやって来た。

ミミノスが持ってきたその紙は……。


「大丈夫、事情は察してますがな」


 その紙を見て俺は血の気が引いた。

 それには俺たち三人の人相画きに、脱獄死刑囚と書かれた文字、捕まえたら1人5千ウィルをやるという文字まで添えられていたからだった。


「あらやだ私前と同じ額だわ」


 リルマは呑気にも不服そうにそう言う。

 自分のだいぶん形相の悪くなった人相画きを凝視しながら、次に俺はミミノスを凝視した。


「大丈夫って、信用してくだされ、それより行きたいんでしょあの村、温泉いいでっせー、なに大丈夫」


 ミミノスはくるりその場で回ると、


「あっしに考えがありますけん」


 と言ってニヤリ笑った。

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