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その日の空はとても青かった  作者: 音切風太
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第十三話 大魔法使い登場?

 所々あった道標を頼りにやって来たのは一つの村、の前、の大木の影。

 太陽は真上より少し傾いて地面に影を作り、昼飯よりより少し前を告げていた。

 大木の影に身を潜めながら村の中の様子をうかがうと、所々湯気の出ている一見呑気な風貌の村の至る所に屈強な戦士がうろうろとしている。


「ラノ村、名産は温泉とミケラ類の実、魔王城の最も近くに位置する村で、現在も魔物の猛攻をトリデ城から派遣された戦士たちが防いでいる、屈強な戦士募集中」


 俺の前で、ユーシャは手のひらサイズの小さな本を淡々と読みながら目の前の村の解説してくれた。


「ユーシャよ、その本は何だ?」


「ああ、『攻略!魔王城!』って言う本ですよ戦士さん、戦士さんに出会う前の町で買っておいたんです」


 ユーシャは『攻略!魔王城』の表紙見せてくれた。

 そこには魔王らしき人影が沢山の戦士や魔法使いにコテンパンにされている絵が描かれていた。


「ああ、いいわね温泉、畜生入りたいわ」


 俺の後ろから顔を出しながらそう言うのはリルマ。


「ラノ村の温泉には疲れを癒す効果の他、美容肩こり冷え症など各種体に良い成分が含まれています。魔王城に行くならラノ村に寄ってね」


 ユーシャは引き続き『攻略!魔王城!』を読む。

 魔王城の近くに位置しているというだけで被害は大きいだろうに、なんとも逞しい村である。


「温泉に入るどころか村に入れるかも怪しいぞ、俺たちはトリデ城にケンカを売ってしまったのだ、ここに派遣されている戦士たちも俺たちのことを知っているかもしれん」


 俺の言葉にリルマがウザそうに顔をしかめた。


「くっそ温泉」


 ユーシャはパタンと本を閉じると、少し考えて。


「夜中に忍び込んで温泉こっそり入っちゃいましょうか?」


 いやいや待て。


「なぜそこまで温泉にこだわる!命をかけてまで温泉に入る価値はあるのか?今は一刻も早く魔王城に……」


 しかし俺の言葉は2人の息の合った言葉に遮られた。


「温泉をなめちゃいけないわよ」


「そうですよ戦士さん、いざとなったら戦士さんが身をはって温泉を守って下さい」


 そ、そこまで女(1人は女か分からんが)にとって温泉とは大切なものなのだろうか?

 と、そこまでして、リルマがある物を見つけた。


「あ!王族の馬車!」


 指を差されたその先には、村の中に確かに立派な馬車が止まっていた。


「ということは……」


 俺は顔をしかめて呟く。


「中にルアー王子たちが……」


 リルマも嫌そうな顔をして続いた


「いるかもですね」


 ユーシャだけがいつもと変わらぬニコニコ顔でそう言った。


「いやあ、案外それ以上の人物がいるかもだわよ?」


背後から、リルマともユーシャとも違う声がそう告げる。


「何?それは一体……」


 思わず問い掛け後ろを振り返ると、そこには会ったことも見たこともない第四の人物がリルマの後ろで俺たちと一緒に村の様子をうかがっていた。


「……あんた誰?」


 そう言ったのはリルマだった。

 あんた、すなわち第四の人物は全員の視線を受けにんまりと笑うとぴょんと一歩後ろに下がる。

 そして現れた全身を見ると、その人物はえらく奇妙な格好をしていた。

 水玉のとんがり帽子に同じく水玉のワンピース、靴はとがった靴を履いており、手には先に星のついたステッキを持っている。

 眠そうな目は細目になっており、どのような瞳の色をしているのかイマイチ良く分からない。

 女の年齢は良く分からんが、身長を見る限り14才位に見える。


「お初にお目にかかりやす、あっしの名前は……そうだね魔法使いでいいよ、魔法使い、分かりやすいでしょ」


 そう言うと魔法使いはにょほほほと笑い始めた。

 俺たちは珍入者に唖然としていたが、気を取り直して聞いてみる。


「その、魔法使いが俺たちに何の用だ?まさか俺たちを捕まえに来たんじゃ……」


 俺の問いに魔法使いはにょほほほと笑うのを止めると、にんまりとした顔をして逆に問いかけてきた。


「あんさんたち、お困りでしょ?」


 困っていることは困っているが。


「まあ、困ってますね」


 俺の代わりにユーシャが答えてくれた。


「なら安心、私実は魔法使いのナンデモ屋、木材が足りない?大丈夫!風の魔法で木を切り倒しやしょう、家が壊れた?大丈夫!時間を戻す魔法で元に戻しやしょう!ただし……」


 魔法使いは後ろを向くと、指で丸を作ってにししと笑った。


「お値段は張りまっせ」


 いや待て、何と言った?


「時間を戻す……?」


 俺の呟きを、魔法使いは耳ざとく拾ったらしい、その場でくるくる回りながら軽く言う。


「あいよー時間を戻す魔法、5分で10万ウィルー!」


 10万ウィル!俺は目が飛び出す思いをした。

 普通の戦士の給料一ヶ月分の30倍ではないか。


「高い!」


 俺の抗議の声に魔法使いは指を振ると、ジト目で俺を睨んだ。


「お兄さん、ちょっと相場を知りませんねー時間を戻す魔法、すんごい疲れるんですよね、まあ大まけにまけて11万ウィルにしてもよろしいですけどね」


「高くなってるじゃないか!」


 再び発せられた俺の抗議の声を、魔法使いはケラケラと笑い飛ばす。

 しかし、さっきからユーシャとリルマが大人しい、どうしたことだろう俺は何か言ってやってくれと後ろを振り返ると、青い顔をした2人が大木の前で並んでいた。


「いや、戦士さん、大変ですよ、時間が戻せる魔法なんて、あるわけないんです」


 俺の様子に気付いてか、ユーシャが慎重にそう言う。


「できてはいけない魔法なんです」


 そういうユーシャは、少し信じられないという表情が見えた。

 リルマもユーシャに続き言う。


「そうよ、歴史が変えられちゃうのよ?そんなことできるのって……」


 ごくりと息を飲んだ後で、リルマは続ける。


「大魔法使いミミノスくらいなものよ?」


 目の前で踊っている魔法使いを見る。

 魔法使いは、ニヤニヤしながら相も変わらずくるくると回っていた。

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