第十二話 リルマ
しかし熊を捌く手伝いをしてくれたリルマは意外にも手慣れており、臭みのある肉も文句言わず食べた。
後処理はさせられたが。
夜も更け、暗い森の中、俺たちは寝ているユーシャの近くで焚火を囲んだ。
パチパチと薪の燃える音と、森の中でフクロウの鳴く声が辺りを支配していた。
「リルマ、お前も寝て良いぞ」
そう言うと、つまらなそうに焚火をいじっていたリルマはジト目で俺を見て言った。
「別に眠たくなったら寝るわよ、変な気を回すんじゃないわよガキのくせに」
ガキと言われて少しムッとし、言い返す。
「俺はもう18になる、リルマよりかは年上だと思うが」
しかしリルマは次の瞬間俺を指さして大笑いし始めた。
「あーははは!そのツラで18才!その体で18才!ガキもガキじゃないの想像より年下で腹がねじれるわ!」
大笑いのリルマの前で、俺は不機嫌になった。
どう見てもリルマは俺より年下に見えたのだ、17、いや、16にも見えるだろう。
「ならばリルマは何才だと言うんだ」
不機嫌ついでにそう言うと、リルマはピタリと笑うのを止めウィンクをして言った。
「ヒ・ミ・ツ」
妙に年下っぽく可愛げのある表情で言ったものだから、俺は首を捻ってしまった。
女の年齢はどうも分からん。
ユーシャに至っては性別さえ分からんが。
俺たちは再び焚火の前で森の音に耳を傾ける作業に入った。
ふと、リルマの声が聞こえた。
「私が国を滅ぼしたことあるって、聞いたでしょ」
目をやると、リルマは今までよりかほんの、ほんの少しだけ頼りない表情で焚火を見ていた。
「聞かないの?」
聞かないのと言われても、本人が言わない限り言いたくないこともあるのだろう、物事は自分の想像できぬことばかりだ。
俺は目をつぶり少し考えるが、特に思いつかず、思ったままの考えを言った。
「言いたくないなら言わなくていいだろう」
焚火が弾ける音は少し心を安らかにした。
リルマもそうだったのかもしれない、少しの間の後、リルマは小さく呟いた。
「じゃあ、独り言だけどさ」
再びリルマを見ると、いつもの表情のリルマがそこにいた。
「昔、盗賊に育てられた捨てられた赤ちゃんがいたのよ、まあその捨て子、どういう訳か宝石のように綺麗も綺麗な女の子に育ったわけだけどね、盗賊って言ってもそんなに悪くない奴らばかりでさ、結構楽しくやってたんだけど、ある日、国に捕まっちゃってさ、綺麗も綺麗だった女の子以外みんな殺されちゃったのよね」
いつもとさして変わらず、ざっくばらんとリルマは話す。
俺はというと、静かに聞いていた。
さすがの俺でも分かる、リルマ自身のことだろう。
「でさ、どう言う訳かその国の変な王に惚れられて、妃になっちゃったのよ、普通そこでハッピーエンドでしょ?美しい童話か何かになりそうでしょ?でもそれが運の尽きなのよねこれがまた」
リルマの独白は続く。
「そこの王8人くらい妃を迎えてて、その8人がいじめるいじめる、もちろんそんなのに負けてないわよ私、数十倍くらいやり返したわよ、でもねえ、だからか恨み買っちゃってねえ、王が倒れた後、国が滅ぶほどあった細々とした大失態を全部私のせいにさせられちゃったのよ、王が死んだのも私のせいだとかなっちゃうし」
なんということだ。
俺は衝撃の事実に固まってしまったいた。
「そしてこの国に売り渡されたのよね、本当はこの国にも恨み買わされてたみたいだから、この国で処刑されるはずだったんだけど、どういうわけかまた王子に惚れられてね。優しい言葉掛けてくれたから牢屋で一回額にキスしてやっただけなんだけど、だめだありゃ、純すぎたわ、牢から出してかくまってくれたの、でもね、はっきりいってもうあんな目はこりごりなのよね、だから逃げ出したの」
俺は涙を流した。
なんという悲劇、なんという強く美しい娘なんだリルマは。
そんな俺に気付かず、リルマは話を続けてる。
「んでどういうわけかあんたたちに出会って、ユーシャと意気投合しちゃって、そのまま変装して酒場で飲んだわけだけど、ありゃだめね、すごい酒乱だったわ、気をつけなくっちゃって、何あんた、泣いてるの?」
俺は感極まってリルマの手を取った。
「うおお!何と言うことだ!リルマよ、お前にそんな人生が隠されていたとは!俺はいる!ずっと一緒にいてやるぞ!」
俺の勢いに押されてか、リルマは少し顔を青くして引いた。
「ちょっとちょっとちょっと、ウザい、ウザいんだけど、そんなに泣くようなことじゃないわよアホじゃない!?」
「うおお!リルマ!俺はどこにも行かんぞ!共に魔王を倒し、共に国の誤解を解こうではないか!」
思わず抱きしめようとした俺の顔に、リルマの拳がヒットした。
華奢な見た目とは裏腹に力の入ったパンチは寝不足だった俺の頭にまで響き、そのまま仰向けに倒れてしまった。
涙にゆがむ視界の端で、ユーシャが呆れ顔で俺たちの様子を見ていた。
「……プロポーズですか?」
そう言ったユーシャの言葉を、リルマが即座に否定した。
「違う!」
俺は嗚咽を漏らしているうちに、昨日の徹夜が響いてしまったのだろうか、さっきのリルマの一撃が思いの他効いてしまっていたのか、意識を手放してしまった。
目を覚ましたら、朝もやの中、ミケラの実を食べるリルマとユーシャの2人と目があった。
「おはよ」
ざっくばらんに言うリルマと、
「おはようございます戦士さん」
行儀良くミケラの実を食べるユーシャ。
2人は長年の友のように雑談している。
「ユーシャ、3個は食べすぎよ、太るわよ渡しなさい」
「リルマさんこそ、4個目でしょう」
そんな2人を見ながら俺は立ち上がった。
「リルマ、ユーシャよ!共に絶対に魔王を倒そうではないか!」
俺の声に驚いてか、周りから小鳥が逃げる音がした。
「えー私もー?」
しかし、リルマから返って来た声はやる気なさそうな声だった。
俺は困惑した。
「汚名をそそぐためにも必要ではないか!リルマよ!」
「えーめんどくさいなあ」
それから先、めんどくさそうにするリルマを説得するのに結構な時間を要した。
ユーシャはそんな俺たちを見ながらやれやれとミケラの実を食べていた。




