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その日の空はとても青かった  作者: 音切風太
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第十話 脱出!……なのか?

 壁にめりこんだドなんとかくんに掌を合わせ少しの間祈りを捧げると、俺はルアー王子を振り返る。

 ルアー王子を始め、全員が全員、驚愕の表情をしてこっちを見ていた。

 その顔は「信じられない」という表情とともに、少しの恐怖か浮かんでいる。

 俺は頭をポリポリ掻いた。

 「安心しろ」と言うべきか、「危害を与えない限り俺たちは無害だ」と言うべきか。

 しかし、それを言う暇もなく、いつの間にやら俺の後ろに立ったユーシャが俺の背中を押した。


「ユーシャ?」


「さあ、とっとと逃げますよ、この力結構疲れるんですよ、15分で済ませて下さい」


 ユーシャの言葉に、俺は気が進まないままにルアー王子たちのいる鉄格子へと近づく。


「ななな、何だキサマ!ドドド、ドモスティアくんは今日は調子が悪かったんだ!調子が良かったらなあ……」


 俺はルアー王子の言葉を待たず、鉄格子に手を掛けると、思いっきり左右に開いた。

 鉄格子は針金のようにぐにゃりと曲がり、勢い余って左右の壁まで破壊してしまった。

 目の前の人物たちは、さっきよりも驚愕の表情で俺をあんぐりと凝視している。

 怪物になった気分だ。


「あわわわわ!捕まえろ!お前ら!」


 警備兵の3人は王子のその言葉に、少したじろぎながらも槍や剣を構え俺に立ち向かってくる。

 俺は一番前の警備兵の槍を奪うと、ぐにゃぐにゃに丸めて捨てた。

 その間に二番目の警備兵の剣を頭に受けたが、その剣先はポキリと折れて地面に落ちた。

 そして短剣を持った三番目の警備兵は……。


「ひ、ひえええ化け物―!」


 逃げた。


「ちょうど良いです戦士さん!あの人を追いましょう!出口に着くはずです!」


「おう!」


 ユーシャは頭が良いな!

 俺は、武器を失くしどうしていいかオロオロする警備兵2人と、恐怖と驚愕で動けなくなってるルアー王子、そしてそんな王子を壁にやり前に立つことでルアー王子を守ろうとしている爺の隣を居心地悪く通り過ぎると、逃げる警備兵の背中を追った。

 ん?1人足らないような気がするが。

 良く見たら1人、見知った女が少し前隣を走っているではないか。


「リルマ、なぜ付いてくる!」


「付いて来てるんじゃないわよ、たまたま行き場所が同じなだけでしょ」


 と、なんだか昔学校の帰りに同級生と帰る場所が同じで言いあいになったとき言ったような文句を聞きながら、俺はふに落ちず走り続ける。

 しかし、少し遅れて、ルアー王子の叫び声が聞こえてきた。


「リルマ!リルマ行くな!追え!お前らみんな追えーーー!」


 そして、前を行く警備兵が叫ぶ。


「ひいい!化け物が追い掛けてくる!何で俺だけがこんな目にー!」


 化け物とは失礼な。

 とはいえ警備兵は全速力で走ってくれたらしい、地上に上がる階段へは、思いの他早く見えた。

 俺はふと思い立って、後ろを走るユーシャをひょいと持ち上げると小脇に抱えた。


「……なんのつもりですか戦士さん……」


 少し嫌そうな顔をしたユーシャだが、その表情には疲労がうかがえた。


「何、さっきこの魔法は疲れると言っていたからな!少し握りつぶさないか心配だが、安心していろ!無事脱出してみせる!」


 ユーシャはため息をついたが、なすがまま小脇に抱えられることにしたらしい大人しくなった。


「ちょっと、私の心配は無いの?!」


 少し後ろで階段を上りながらリルマが怒るが、その声は元気に溢れている、まだ大丈夫だろう。

 俺は親指を立てると後ろを走るリルマに強くウィンクを送った。


「なんじゃそりゃ!」


 見かけに寄らず元気だなリルマは!

 そんなてんやわんやをしているうちに、前を行く警備兵は鍵で地上への扉を開けると、そのまま光輝く外へと飛び出した!俺たちも後に続く!

 その地上は、再び牢屋だった。

 違うと言ったら、さっきより少し設備が良く、さっきより少しじめじめしていなかったくらいで、どうやら最近は平和らしく人も入ってはいないようだった、良く考えたらここに入るときに通った場所ではないか。


「脱走だー!化け物人間が脱走したぞ!」


 前を行く警備兵は、大声で他の警備兵に助けを呼ぶ。


「戦士さん、あと10分でなんとかしてください」


 疲弊したユーシャがそう言った。

 時間がない!

 俺は全速力で走ると、ぎりぎりで閉まった扉に蹴りを入れる。

 大きな破壊音と共に、扉が木っ端微塵に砕け散った、その中は、真昼の警備兵事務所。

人々の苦情の対応をしていた事務員がいたり、机仕事をしている警備兵がいたり、剣や槍を磨いている若い警備兵がいたり、つまりは普通の仕事場であった。

 その中のみんなが、俺たちに顔を向ける。


「そいつだ!そいつが脱走した化け物だ!」


 なんだか化け物という言葉にも慣れてきた。

 中にいた全員が、なんと苦情の対応をしていたおばちゃん事務員までが武器を構まえて俺に一斉に襲いかかってきた。

 俺は牢屋に続く入口に下がると、そこで1人ずつ対応することにした。

 俺の後ろで、リルマが「やれー!」だの「ぶち殺せー!」だの物騒なことを叫んでいるが、ぶち殺したりはしない。

 ある者は剣で、ある者はモーニングスターで、狭い入口から1人1人攻撃してくる。

 俺はその1つ1つを折っては投げ折っては投げ、時には体術で襲いかかる人を投げ、その時は「すまない」と謝ったりしていたが、5人目の対応をしていたとき、折れない大剣を持った者に出会った。

 なんと、丈夫な!

 俺は、その剣を白刃取りしてしばらく折ろうと躍起になってしまったが、折れない!俺の今の力を持ってしても折れない!なんと丈夫な……て、これは俺が持っていた剣ではないか!

 俺は相手をぶっとばすことでその剣を奪った。

 相手は周りの人を巻き込んで壁にぶつかりのびてしまった。


「す、すまない」


 つい奪い返さなくてはと必死になり、手加減がうまくできなかった。


「そんなこと言ってる場合じゃないでしょう、あと3分です!その剣を、振りまわして下さい!」


 ユーシャの言葉に、俺はどうにでもなれと気合を入れて剣をぐるりと大振りに切った。

 なるべく、人の気配のしない所を!

 土砂崩れのような音がして、警備兵事務所の壁が柱が380度えぐれた。


「崩れるぞ!逃げろ!」


 自分でやっておいてなんだが、俺はそう叫んだ!

 警備兵たちは日ごろから訓練されているのだろう、少しも騒がず一斉に外に転がり出した。

 そこにいた全員が出た後、俺たちも外に飛び出す。

 と同時に、警備隊事務所はその全貌が崩れ落ちた。

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