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目を覚ますといつもよりぼんやりした視界の中に見知った天井が見える。ここ最近はおなじみになっていた違和感に鼻に手をあててみると鼻血がでていた。
(毎日毎日こんなに鼻血出してたら本当に死んじゃうよ)
ため息をつきながらシーツを乱暴に引っぺがすと、ゴシゴシと顔や首に付いていた血の跡を拭いていく。
ドアを開け首を出して辺りを見回すとシンと静まりかえっていた。まだ誰も起きてきてはいないようだ。
後手に自室の扉をそっと閉じ、壁に沿って横歩きで移動する。ようやく外への扉に手をかけ安心したところで後ろから若い女の声がかかる。
「ここ最近は随分と早起きね、マーウェス」
奥の方からカゴいっぱいの衣類を抱えた女性が姿をみせる。金髪に碧眼とたいそうな美人だが、身につけているヨレヨレのエプロンや色の褪せた三角巾のせいでその美貌は4割近く減少している。何度も見たはずなのに相変わらずの見慣れなさは如何ともしがたいだろう。率直に言うと全然似合ってねーである。
ヒッと軽く悲鳴をあげると持っていたシーツを慌てて隠す。
「お、おはようアリス。なんか目が冴えちゃって、あはは」
乾いた笑いを浮かべたマーウェスにそうかいと興味なさげに言うと、アリスはこちらにどんどん近づいてくる。
アリスの接近にビビったマーウェスが少し大きな声で尋ねる。
「アリスはこんな朝早くにどうしたの」
「どうしたって、見ればわかるでしょ」
アリスがカゴを揺らしてみせる。
「そ、そうだよね。洗濯だよね。あはは」
「それよりあんた何隠してるの」
ジリジリと後ずさるマーウェスを不審に思ったアリスが背後に回りこむ。あっという間に隠していたシーツを奪い取られた。
「何、また鼻血だしたの。確か一昨日も」
(一昨日だけじゃなくて昨日もだけど)
「そうなんだ、最近朝起きると鼻血出てること多くて」
気恥ずかしげにに目を伏せて話すマーウェスをアリスがニヤニヤして見る。そして耳元で
「どんなエッチな夢見てたの」
「え、エッチな夢を見てたわけじゃないよ」
顔を真っ赤にするマーウェスを見て今度は声を出して笑うアリスだった。マーウェスはシーツで拭ったはずの鼻血の跡を手の甲で拭った。




