猫はスープを残す
けして、ご主人様のご飯が不味いではない。
飛びつけ!猫[ベジタブルミックス]の噛みしめ具合に不満でもない。
アタイに〈ともだち〉と、称して一匹の〈オス〉を連れてきた。
名前は、ラコジロー。そいつのせいで、アタイの日常は引っ掻き回されてる。
「そいつ、オレの好物だ」
舌で、ペロリと、口を舐めまわし、あっという間に完食する。
「つばめ、また、ご飯横取りされちゃったよ」
がっかりするご主人様が、可哀想。
「たぶん『 どうぞ』と、揚げたのよ」
ママさん、それ、違う!
アタイ、そんな安ウケな〈メス〉じゃない!
――あばよ!
数日前、ぼぉういきゃっとの〈サボテン〉に振られてしまった。
すべての根源は、今、アタイの尻をふんか、ふんかと、嗅ぐ〈あれ〉だ。
「けっ!お子さま」
かっちん!
「嫌ーっ!爪研ぎなら、あっちでしてよ!」
ママさん、それ、ひどいよ。
建ち立てホヤホヤのお家に、八つ当たりしたアタイに業を煮やし、ベランダから、ポイ。
窓、ぴしゃりと、音がした。
―――お母さん、つばめ、いれてあげてよ!
―――こっちの方がおりこうさん!
にゃあ、にゃあ、にゃあ。
あいつ、猫なで声で、ママさんのご機嫌たてやがった!
どんな目論みで、あいつを招いたの?
ご主人様のぶらっしんぐが楽しみ。
ふかふかのお布団に、肉球あたっくして、おやすみなさい。
猫生が、尽きた。
輝きなんて、消えた。
しくしくしくしく。
「つばめ、ごめんね」
ご主人様。アタイを追っ掛けてきた?
「お母さんが、いけないのよ。仔猫見たいから、て、あんな、変わり猫をペットショップで買っちゃうだもの」
ご主人様、アタイをだっこして、ほおずりしてくれる。
ふわふわ、さらさら―――。
あれ?ご主人様、泣いている。
「私、来月から大学の寮生活に入るの。あなたも連れて行きたいけど、駄目なんだ」
ごめんね、ごめんね、ごめんね、ごめんね―――。
真っ暗なお空から、ぽつぽつ、お水の粒が落ちてきた。
ご主人様、アタイは平気だよ―――。
ちょっぴり、爪をたて、ご主人様からするりと、地面に降りる。
――ご主人様の優しさはアタイが一番知ってるよ。
にゃあ。
ご主人様のあんよに、細い尻尾を巻きつかせ、アタイはがっちりと、胴体を寄せた。
お家にご主人様と入ると、廊下でラコジローが猫背になっていた。
「汁物で、舌をやけどした」
ぽつりと、言う声に「ばーか」と、アタイ、高笑いする。
「今なら啜れる、残り物だが、やる!」
ラコジロー、ふんっ、と、首を横に振る。
ご主人様の微笑がちょっと、複雑。
キッチンのすみっこに〔ラコジロー〕と、みどりのうつわに、なみなみの、スープ。
冷たい!
ぺろりと、舌をだすアタイに、ママさんは
「猫には受けない味かしから?」
違うよ。
ぺろぺろ、ぴちゃぴちゃ。
「嫌ーっ!フローリングに、おつゆ、撒き散らさないで」
今度はかけっこで、ママさんから逃げまくる。
「つばめ、おいで」
ご主人様の微笑混じりの声色に、アタイはくっついていく。
「おりこうさん」
なでなでと、アタイの頭を触ってくれる。
結局、スープは残した。
後から、ご主人様からこっそりと、とっておきの
猫、くまなく〔ビーフ味〕をご馳走になった。




