スーパー「カワナガレ」
駅からもう既に、二時間半ほど歩いた。だが、魔族特区はまだ見えてこない。
「ハァハァ……いくら何でも遠すぎだろ…。」
何より喉が渇いた。持ってきた水も飲み干し、飲むものがない。
もう周囲には人の姿もなく、辺りは緑に覆われている。大学の友人から「お土産よろ( ^ω^ )PS お前まだ一度も彼女できたことないんだから、魔特でドラゴンの彼女でも作って来たらどうだww」とメッセージがあった。不機嫌な時なら軽く殺意が芽生えそうなメールですら、ありがたみを感じてしまっている。
「何か、何でもいいから飲み物を…。」
だが、当然自販機などない。そもそも周りに何も無いのだ。最後に自販機を見たのは、もう一時間程前のことである。
あれ?これ俺やばくないか?
辺りには何も無く、水も尽きた。とどめとばかりに季節は真夏。
「俺、死んだかなぁ…。」
そう弱音を吐いた時だった。200mばかり先に、スーパーのような建物が見える、それはまさに仁村にとって希望の光だった。夢か幻か、と思いつつも残った力を振り絞りスーパー?へと駆け出す。すぐに建物へと辿り着き、ちらりと看板を確認する。看板には
「スーパー カワナガレ 26時間営業 今日は元気に開店中!」と書かれてあった。
いろいろと誤字やミスが目立つ。だが、今は看板などを気にしてはいられない。
仁村は店のドアへと急いで走りこんだ。瞬間、
「ガンッ!」
鈍い音と共に、目の前に火花が散る。
「っ〜〜〜」
しばし座り込んで悶絶する。ガラス戸なので自動ドアだとばかり思っていたが、どうやら手動であったようだ。
全力で壁やドアに顔面から激突したことがある人ならば、この痛みはわかるだろう。
…中々そんな人はいないはずだが。
「いってぇー、鼻折れたかと思った…。」
今度こそ本当に店に入る。引き戸を開け、中に入るすると
「いらしゃいませ〜」
若い女性らしい声で「っ」が抜けた「いらっしゃいませ」が聞こえて来た。
看板の誤字といい、なんかいろいろと抜けてるなこの店。その店のドアに全力で激突した奴がそう思っていると
「お客さん、頭大丈夫ですか?」
と、再び同じ女性の声が聞こえた。
恐らくは、ドアに頭をぶつけたことを気遣ってくれているのだ。しかし、何故だろうこの言い方に少しだけ悪意を感じてしまうのは。
とりあえず、大丈夫という事は言っておこう。人の優しさには、素直であるべきだ。
「あ、はい全然平気です。」
そう答えると声の主らしき人が店の奥から出て来た。
出てきたのは、一人の少女。歳は16歳前後といったところか、クラスに一人は居るような感じのする子だ。
「あー大丈夫でした?あまりにもすごい音でもしかしてお客さんの頭の皿割れたかなーって………えっ、あっもしかしてお客さんは人間でしたか!?」