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なんて俺は、迂闊なんだ。

なんで確認しなかったんだ…。

何処で働くのか、その一言でよかったのに…。

借りていたアパートも引き払ってしまった、もう後戻りはできない。

あとは、もう出発するだけだ。


あること以外は平凡な、一人暮らしの大学生である仁村 桂進は今、激しい自責の念にかられている。

原因は、破格の時給五千円(しかも住居つき!)に目を奪われ、確認もせずに二つ返事で引き受けてしまったバイトだ。

仕事内容はいたって普通の夜間警備員の仕事である。

だが、問題は勤める場所にあった。


まさか、魔特とは…。どおりで人がまったく居なかったはずだよ…。

おかしいとはおもったのだ。


魔特とは、魔族特区の別称だ。


事態は、一年ほど前に遡る。

都市から離れた雑木林に突然、異世界からの扉が開き、今では通称魔族と呼ばれる者達が出てきた。彼らは当初、侵略に来たというが、

周りに広がる光景を見て一転、平和的に交渉をしようとするという考えにまで至る。

運が悪くそこは、陸上自衛隊の訓練施設の近くの場所。

さらに、タイミング良く訓練中。訓練を見ていた魔族達は、戦慄した。


どう見ても音しかしない、だが見た所遠く離れている的に当たり、破壊しているのだ。あのような魔法は、見たことが無い。魔族達はそう思ったのだろう。それもそのはず魔族達の武器は、中世ヨーロッパのような剣と弓矢、槍のみ。一応魔法なども使えるのだが、魔法は攻撃用のものであっても、弓矢よりも威力が弱い。本来は生活を便利にする為のものであった。まともに戦えば、勝ち目はない事は誰の目にも明白だ。勝ち目がない戦いをするほどバカなことはないと、彼らは交渉に打って出ることにした。


なぜか、幸いにも言語はほぼ一緒であり、交渉は、外国とのものよりも圧倒的にスムーズに進んだ。鉱山資源、地下資源が少ないが技術に長けた日本と鉱山資源、地下資源が豊富な異世界に住み技術を欲する魔族、お互いの利害が一致したのだ。交渉に当たった魔族は、魔王と呼ばれる者で仮面をつけ、やたら大きい漆黒のマントを羽織っていた。異世界では、大統領選挙のように魔王選挙のようなものがあるらしくそこで選ばれた者が魔王と呼ばれるようになるらしい。

しかし、魔王と言っても多大な権力を持つわけでもない、異世界では地方自治が当たり前であって魔王はあくまでも魔族の代表という立場なのだ。

その後、各世界のお偉いさん達が裏でも表でもごしょごしょして異世界と日本間の交易がスタートした。


そこでまず問題となったのが、貨幣のことだった。この問題が一番長い間決まらなかったものだ。彼らには多種多様な種族があり、それぞれが別なものを使用している。さすがに全てを使用するというわけには行かず、交易に使う通貨を一種類だけにしてくれという要望を魔族達に伝えると、魔族達の間で大いに揉めたのだ。理由は、異世界にはこの世界でいうドルのような代表的な通貨が無く、各々が自分たちの通貨を使うべきだと主張し、収拾がつかなくなった為である。だが、なんとか魔王の口添えなどもあり沈静化。


しかし、問題は終わらない。使用する通貨は断定的にこちらの世界でも、複製ができないゴブリン族の通貨を使用すると決まったところで、再び新たな問題が発生したのだ。それは、日本に来て住む魔族達の生活場所だった。近くに家を借りようにも、得体の知れない魔族達に家を貸そうとする者はなく、新たな居住区が必要になった。そこで政府が発案したのが魔族特区だ。

特区と言っても経済特区のようなものではなく、ただ単に魔族の居住区としてのものである。


政府は、すぐに魔族特区の開発を進めなんとわずか三カ月の間で完成させたのだ。

そして、そこに大使館と宿舎を建てた。普通の大使館の常識なら現地に建てるが、今回はそうはいかない。問題は異世界と通じた扉の存在があった。件の扉は、魔族達は自由に異世界に出入りが出来るらしい。しかし、こちらの世界の者には触ることも見ることすら出来なかったのだ。


当然、触ることが出来ない扉に入ることは不可能なことである。扉は当初、その存在すら疑われていたのだが調査によって、なんらかの安定した時空の歪みらしきものが確認され、その存在が確認された。だが、本当に扉があったとしても入れなければ意味はない。そこで仕方なく魔族特区に建てることとなったのだが、大使館の警備員が不足してしまったため、急遽民間から人員を集めることとなった。

そして今に至る、というわけだ。


なんであそこなんだよ…。


まず、魔区に行ったが最後、悪魔に魂を抜かれるだとか、三メートルあるオーガに頭から丸飲みされるなどといった類の噂がまことしやかに囁かれていることだ。しかし、それは資料を読むうちにガセだと判明した。そもそも、最初から人々がイメージするような悪魔やオーガなどいなかったのだ。資料によると彼らは魔族とよばれてはいるが、本来は好戦的な者はごく少数であり、多くの者は人と争うことを好まないとのことだった。

また、今回のような異世界侵攻(未遂)は、魔族達にとっても非常に異例なことであったらしい。

なぜこんな事をしたのか、まだ詳しくはわかっていない。ただ、魔王の命であったという噂があるがそれも不確かなものであった。


しかし、まだ仁村には大変心配していることがあるのだ。それはーー


「やっべ!もうこんな時間か!」


時計に目をやるともう出発まで三十分しかない。仁村は今まで考えていた事を一旦忘れ、最後の確認に取り掛かった。


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