崩落山百鬼夜行 上
崩落山。
草木はほとんど生えておらず、岩山ばかりの寂しい山である。
元々は銀山として栄えていたが昔起こった山崩れで周辺の住民がほとんど埋められてしまった。
住民は死んだという自覚はなく夜な夜な亡者として復活し、山の中を徘徊しているという。
それが群れを形成して雪崩れの様に進軍するため百鬼夜行と呼ばれるようになった。
というのが頼友の知っている『大戦国譚』での設定だ。
「頼友! 数が多すぎる! 回復したいから交代頼む!」
「了解!」
頼友は宗時の前に躍り出ると持っていた槍で亡者をなぎ倒していく。
―攻撃技術【回転斬り】
頼友がプレイヤー時代に獲得した技を念じると、いとも簡単にスキルが発動した。
当初は懸念していた戦闘面への不安だったが、見事に解消された。
ゲーム時代と同じような激しい運動をこなしても体は今のところついてきている。元の世界にいたころには絶対に出来なかった芸当だ。
恐怖は不思議とあまり感じなかった。
「宗時、このままじゃジリ貧になる。敵の親玉を倒してさっさとズラかろう!」
「かっこつけたのにザマあないぜ!」
―攻撃技術【旋風斬り】
技を発動。
槍の先から強力な風の刃が亡者をズタズタに引き裂いていく。
何体かを倒したことによって道が僅かに開いた。
回復した宗時が移動技術【超神速】で前に飛び出し亡者の集団に斬りかかる。
この繰り返しで頼友達は崩落山の山頂にむかっていた。
最初の亡者を倒してから既に一時間程の時刻が経っていた。
頼友の職業は槍足軽。
宗時の職業は剣術家。
どちらも前衛職である。
回復職も存在せず、妖術や弓術を使う遠距離攻撃を使用する仲間もいない現在、圧倒的な数の亡者に苦戦を強いられていた。
そもそもこの【崩落山百鬼夜行】の依頼は通常百人単位で行う大規模戦闘を想定して作られているので二人で挑むということは通常ありえない。
さらにHPの回復にも難があった。
『大戦国譚』ではあらかじめ回復するアイテムを指定のコマンドに登録して短縮することにより戦闘をスムーズに行っていた。しかし今は技の時みたいに念じても反応はなくわざわざメニュー画面を開いてアイテムを選択しなければならなかった。
戦闘の最中にそれは大きな隙となる。
更に付け加えるなら回復アイテムの【団子】や【酒杯】は実際に飲み食いしないとHPは回復しない。
味や感覚が現実世界と同じ今、それは手間となった。
「もう、食いすぎで死ぬ……」
頼友が呟く。
酒を飲んだ後に槍を思いっきり動かすため頼友は酔って吐きそうになっていた。
「疲労感もやべぇ。こんなのゲームじゃ体験できなかった!」
宗時も頼友と同じ状況にあるにも関わらず楽しそうに亡者を袈裟斬りにしていく。
確かに面倒だが楽しいのは事実だ。
口元を少し緩めると頼友も亡者の群れに突撃する。
崩落山の中腹まで到達した二人は背中を合わせながら自分達を囲んでいる亡者の群れを牽制していた。
「こんなに多いなんて思わなかった。何が『簡単な依頼よ。あなた達ならできるわ』だ。桜さんも人が悪すぎる」
「いやー、実際他からも参加者がいただろうし二人だけで登山するような馬鹿なんて桜さんも思わなかっただろ」
「僕らは馬鹿か」
「おう、馬鹿だ」
軽口を叩き合って己を鼓舞する。
山は亡者で埋め尽くされていた。
山頂で亡者を指揮しているボスを殺せば百鬼夜行は進軍を辞める。
亡者のLvは二十前後という比較的低いため宗時や頼友には一撃で屠れる存在であったものの数が多すぎた。
その数、十万。
「はは、無双ゲーかよ。頭おかしい」
宗時が乾いた声で呟く。
頼友も同意する。
「全くだよ。辺鄙な土地の山崩れ一回だけでこんなに犠牲者がでるわけないよ。この百鬼夜行を提案した人は性格悪すぎ」
近づいてきた亡者を槍で突き刺す。
武器の耐久値も心配だった。
槍は比較的耐久値が高めに設定されているが宗時の刀はそうはいかない。
宗時のことだから予備の刀は持って来てはいるのだろうが。
頼友は宗時に視線を向ける。
にやりと、笑って親指を上げてきた。
「頼友、俺に提案があるんだが……」
「なんだ? 打開策でも思いついた?」
宗時は頭をかいた。
「作戦ってほどでもないが……」
「もったいぶるなよ。早く話してくれ」
頼友は槍を振り回しながら宗時の言葉を待つ。
宗時は息を吐いた。
どうやら心を落ち着けたいようだ。
「なあ……俺達、一緒に死なないか?」
「それは……まあいいかもしれないな」
頼友は頷く。
「今ちょうど山の半分くらいにいるわけじゃん。このまま山頂で親玉殺しても亡者が全員消えるわけでもないし、下山して逃げたら百鬼夜行の発動じゃん。鎖海の町が襲われたりしたら俺らがこっちのギルドに派遣された意味なくなるしよ」
「それに僕らは戦闘系ギルドで一応名は知られてたんだし、頼まれた町の一つも守れなかったらゲーマー失格だよね」
「だな。そうなったら生きてる価値もねぇ」
覚悟を決めた二人は亡者の群れに向かって走る。
亡者の攻撃を受け、痛みが体を襲いHPが減少しても二人は走るのを止めない。
頼友はアイテムから焙烙玉を取り出し周りにばら撒いていく。
爆発が起こり、亡者が次々と吹き飛んでいく。
爆風の余波でHPが減少するが気にも留めない。
「散財しまくってんなぁ!」
宗時もそう言ってはいるが耐久値のなくなりかけている刀を亡者に投げつけては新たな刀を取り出している。
二人は尋常な速さで進み、とうとう山頂に到着した。
HPはまだ三分の一程残っていたが、疲労感のためか頼友にはそれ以上に消耗しているように感じた。
「あいつが親玉か……」
頼友の視線の先には具足に身を包んだ亡者がいた。
刀を持っているところを見ると攻撃力も桁違いだろう。
【亡者の主 Lv67】
ステータスが表示される。
ゲーム時代の自分達にとっては楽勝に倒せただろう。
十回攻撃を当てれば恐らく倒せる。
しかし体が動かない。
鉛の様に重く、口も開くのもひどく億劫だった。
追い討ちを掛けるように亡者の群れも山頂にゾロゾロと登ってきていた。
「……あいつ良い鎧着てやがるな」
度重なるダメージを受けて二人の具足の耐久値は残り僅か、その値を表す為か目に見えてボロボロになり滝のような汗を流し顔を青ざめていた二人は最早亡者と見分けがつかなかった。
「なあ……頼友、おまえ一人でボスを倒せるか?」
息も絶え絶えに宗時が訊いてきた。
「……たぶん。他の亡者が邪魔をしなかったらなんとかなるかも」
「よっしゃ、わかった!」
声を張り上げると宗時の周りに数十本の刀が地面に突き刺さった状態で出現した。
「ここから先は誰であろうと通さねぇ。安心して死んでこい!」
「了解! 僕が死ぬ前に死ぬんじゃないぞ!」
頼友は亡者の主の前に進む。
「正直、おまえなんて相手じゃない。早く僕に倒されろ」




