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異世界召喚

 泥の中から掬いだされる様な感覚がして頼友は目を覚ました。意識を取り戻していくにつれ違和感が自分の頭を蝕んでいく。

 手足や体は自由に動く。感覚が存在し、体のどこかを動かす度にちゃんと反応が返ってくるのがわかる。

 問題は内的なものではなく外的なものにあった。

 頼友は鎧を着用していた。しかもそれはよく見覚えがあるものだった。

 頼友が先程までプレイしていたMMORPGの『大戦国譚』で装備していたものだ。

 更に頭の方に意識を集中させると視界に『大戦国譚』で自分がプレイしていたキャラクターのレベルが表示された。


【頼友 Lv99】


「まさか……」


 頼友は再び頭を集中させるとレベル表示以外にも目の前にメニュー画面が開かれる。持物と表記されている項目をタッチするとゲーム時代に獲得したアイテムのリストがずらっと並ぶ。

 頼友はその中から【串団子】を選択した。すると空中から突如として串団子が出現し、自分の手の中に収まった。


「……まじか」


 頼友は団子を齧った。それは味のついたよく頼友が食べていた日本の団子と同じ味だった。


「普通に美味い」


 次にタッチしたのは【水ひょうたん】

 これもまた手の中に収まった。

 ひょうたんの中の水は冷えてはいなかったが頼友の頭を冷静にする役割には充分だった。

 次に周りの風景を確認する。

 ついさっきまでは自室でゲームをプレイしていたはずだが、頼友が今立っているのは寂れた村のはずれだった。

 人通りは少なかったが村人らしい、おそらく元NPCらしき人々がいた。

 いきなり全く違う場所に飛ばされ、夢でもない現実に直面して驚いた頼友だったが、除々に冷静になっていた。

 情報集収の為、彼らと接触しようと歩き出した瞬間、背中から聴き慣れた声が掛けられた。


「頼友……だよな?」


 振り返るとそこにはさっきまで共にプレイしていた友人の姿があった。


「そういう君は、宗時か?」


 宗時と呼ばれた男は頷いた。

 宗時は頼友と現実世界で親友であった。このゲームを一緒に始め、互いに競い合ってきた。

 その顔は頼友が『大戦国譚』をしていた宗時の顔とは違い、ほとんど現実で会った時の顔をしていた。


「そうだよ。いきなり頼友が目の前に現れたかと思ったら、いきなり団子を食い始めてビビったわ」

「いや、なんかごめん。あんまりにも現実離れしていたもので試したくなった」

「気持ちはわかるけどな」


 そう言って宗時は笑った。

 頼友は親友に意識を向ける。


【宗時 Lv99】


 やはりというかLvが表示された。

 つまりは頼友と宗時はさっきまでプレイヤーキャラだったということになり、お互いに言葉を交わしたことでこの世界が現実であるということを否定する材料がどんどん減っていく。


「僕達、確か【崩落山百鬼夜行】の依頼受けてここまで来たんだよね?」

「今もな。メニュー見ると現在も受注している状態になっているぜ」


 確認すると宗時の言う通りになっていた。


「俺は一時間前に意識が目覚めたんだけど、さっき村の住民と喋ってきたがありゃ生きてるみたいだった。少なくともこの世界はゲーム時代とはわけが違うぜ」

「よくある異世界召喚モノの世界ってことかな?」

「おそらくな。まさか自分が体験することになるとは思わなかった」

「メニュー画面からログアウトの項目も消失しているし、今すぐ元の世界に戻るのは無理だよね」

「まあな」

 

 それ以外にもフレンドリストに載ってあるプレイヤーのほとんどがログアウト状態になっており宗時以外には一人しか知り合いがログインしているということしかわからなかった。

 とメニューから選択してない項目が出現した。

 通話の申し込みである。

 名前は今野忠久。宗時以外で唯一、頼友の中にあるフレンドリストで同じ世界にいると思われる人物であり、頼友と宗時が所属しているギルドのマスターである。

 頼友は迷わず通話を繋いだ。画面が空中に映し出され今野の上半身より上が確認できる。その様子を見て村人の数人はギョッとした顔をした。


「いやー、繋がってよかったよ。頼友君は無事かい?」

「はい、なんとか」


 気の抜けた口調は変わっていないようだ。


「俺もいるぜ。今野さん」


 横から宗時が声を挟む。


「お、そうか良かったよ。本当に良かった。今どれくらいの人がこの世界に飛ばされたのか確認していたところなんだ。フレンドリストに登録している人に片っ端から通話を掛けてたんだ。今どこにいる?」

「崩落山麓の村です」

「あんたに頼まれた依頼に行く途中だったからな」

「うーん……そうか」


 今野は唸ると手の上に顎を乗せて思案している。


「鎖海の町は今大混乱してる。フレンドリストに載っている人物を確認するところ今この世界にいるのは俺のギルドメンバーだけらしい」


 今野はやり手の実力者だったことから頼友よりも様々な人物をフレンド登録していたはず。ということは頼友が所属しているギルド【鎖海組合衆】以外のプレイヤーが存在しないと考えてもいいだろう。


「とりあえず今後の方針について皆と話したいから町まで戻ってきてくれないか?」

「でも、百鬼夜行を止めないと鎖海の町が襲撃を受けるのでは?」


 【崩落山百鬼夜行】

 この地方における最大のイベントである。

 崩落山から出現した亡者の群れが海に向かって大行列を形成するというものだが、鎖海の町を完全に横切るコースで進むため町は甚大な被害を被る。鎖海の町を根城にしている組合衆には頭の痛い出来事であるらしく、外部のプレイヤーに依頼して崩落山から亡者が群れを作る前に駆除しようとしていた。


「それは、そうだけども頼友君と宗時君は桜さんのギルドから借りている状態なんだし死なれでもしたら大変だよ。そもそもこの世界に召喚みたいな状態になってから数十分しか経っていないんだよ? 死んだらどうなるかなんて誰にもわからないんだ。出来ればそのまま引き返してきて欲しい」

 

 ギルドを束ねる者として今野はいち早く冷静に行動していた。

 その懸念は当然といえるだろう。


「わかりました。じゃあなるべくそっちに早く向かいます。安全第一で行動するので大丈夫ですよ」

「うん。無茶だけは厳禁で」

「了解しました」

「うん。お願いな」


 通話はそこで切れた。恐らく別のプレイヤーと連絡するためだろう。

 この世界で存在する自分達の同胞は三百人足らずというところか。

 多いようで少ない。

 安心という気持ちには程遠い。

 しばらく沈黙する二人。

 それを破ったのは宗時だった。


「でもさ、俺そんなに焦ってないんだよな」

「実は、僕もだ」


 頼友は頷く。

 ここは自分が『大戦国譚』のサービスが開始されたニ年前からやり込んでいる世界だ。廃人ゲーマーとしてこの世界のことは大体知っているつもりである。宗時だってそうだ。ニ人でコンビを組んで長くなるがこれほど息の合った相手も中々いないだろう。

 Lvだってこのゲームの上限まで育てているキャラクターだ。

 アイテムも自由に取り出せるとわかった今は、怖いものなど存在しないように思うようにした。不安要素もあったが頼友は前向きに考えることにした。

 こういう時に萎縮したってきっと良いことはないだろう。漫画や小説で読んだ主人公達は決して後ろ向きではなかった。

 

「臆病風に吹かれたってなっちゃ異世界モノの主人公失格だよね」

「俺らが主人公って言うには大分華がないがな」

 肩を竦めてみせる宗時だったが、心の底からの反対ではなく単なる軽口だとわかった。


「で、だ。これからどうする、主人公」


 宗時のからかいを受け流した頼時は異世界モノの小説を頭の中で整理した結果、最も妥当な案を出すことにした。


「今出来る事を着々と……とりあえず【崩落山百鬼夜行】を片付ける」

「いいね。乗った」


 頼友と宗時はお互いに拳を打ち付けた。篭手同士がぶつかり固い音がした。

 こうしている間にも崩落山からは亡者の呻き声があちこちから響いている。


「装備は整えてきたし、アイテムも充分だ」

「死んだらどうなるとか、戦闘面において本当にゲーム時代の様に上手くいくかはわからないけど僕達なら大丈夫だと思う」

「違いない」


 頼友と宗時は崩落山に向かって歩き出した。

 


外国に住んでいると日本の、特に戦国時代は最高に面白く感じます。

なるべく間隔を空けずに更新していけたらなと考えています。

感想とか頂けたら幸いです。

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