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イケメンほいほい  作者: いけちぃ
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『久し振りにおいで』


優しげな声に誑かされた。

あの人の傍は落ち着くのだ。



某企業の研究員としてヘッドハンティングされた竜崎琉夜。

白衣姿と無精髭は健在で面倒なのか伸ばしっぱなしの髪は背中を半分覆っている。

それすら無造作に束ねているだけ。

身嗜みもあったものじゃない様子に出会った頃を思い出した。

何を血迷ってか柄にもなく教師をしていた時は異性を虜にしていたけれど。

今の彼が最も彼らしい姿に思える。

正しくは、自分が知る竜崎とはコレ。

見るからにヲタクな彼こそ竜崎なのだ。



研究に打ち込むあまり真面に帰っていないと言う竜崎の為に着替えや食料を持参した。

此処は彼のオフィスであり、個室を与えられている事からして好待遇であると想像できる。

これっぽっちも使ってない様子だから、きっと研究室に籠り切りなんだろう。

あの人は昔からそうだった。

ソファーに座ってぼんやり待っているとドアが開く音がした。

「お疲れ様」

「おう。遅くなってすまん」

気怠げで独特な声。

これだけでヤられてしまう。

あぁ、やっぱり好みだなぁ。

「どうした?調子悪いのか?」

「いや、悶絶してただけ」

「ははっ、無表情だったぞ。スキル上がってるなー」

「そりゃどうも」

糞社長の元で働くなら必要不可欠なスキルだ。

素直に褒め言葉として受け取った。

ナチュラルに頭を撫で撫でされている事も心地いいので受け入れる。

「相変わらず忙しいか」

「まあ。心労が増えた」

「おー、詳しく話せ」

「先にご飯食べよ」

上機嫌な竜崎に持参した物を翳す。

それだけで嬉しそうに目を細め礼を言われるとどきりとする。

男前って怖い。

気心知れてる相手さえ籠絡する実力を持ってるんだから。


「楓の心労はあいつ等だろう。あの馬鹿共」

向かいに座り弁当を食べる竜崎に嫌な変化はない。

と言うか、出所は何処だ。

何故この人が知っている?

「同窓会の戦利品、樋野に献上しただろ」

頷いて答えた。

因みに樋野とは糞社長の事だ。

竜崎とは高校時代からの腐れ縁らしい。

一度は疎遠になったものの、社会人になってから再会し付き合いが続いているとの事だ。

決して竜崎のコネで職に就いたのではない。

後から知った竜崎にネチネチいびられたくらいだから間違いありません。

話を戻すが、同窓会の戦利品とはそこで頂いた名刺であり、これを条件に休みをもぎ取った経緯がある。

休みが欲しけりゃ説得してみろとの不遜な社長に「仕事に繋がる相手を見付けて来ます」と大見得きった以上、無理でしたは通らない。

だから押し付けられた名刺を確認せずに全て社長に渡した。

彼等のどれかは社長のお眼鏡に適うだろうと投げやりな気持ちで。

「わざわざ教えてくれたぞ。大丈夫かって」

「何が?」

「変なのに騙されてないか。樋野は心配性だからなー」

何だそれ。

詐欺集団にでもつかまったと思ったのか。

まあ、彼等の肩書きを見たら当然の反応かもしれない。

「本人飛び越えて何でるぅちゃんなのさ」

「怖いからだろう」

「はあ?」

「ははっ。それだ、それ。無表情か不愉快って顔しかしないから傷付くんだと」

「誰が?社長が?無いわー。マジ無いわー」

アナタの所為で顔面固定スキルを手に入れたんですよと言ってやりたい。

傷付くってタマじゃないだろう。

「あいつは繊細に出来てるぞ」

「あぁ、自分の事だけね。なら納得」

「ははっ、酷い言われようだな」

当たり前だ。

それだけの扱いを受けてるから多少の毒吐きくらい当然だ。

「そう嫌ってやるな。半分は俺の所為」

嫌ってはいないし、今、ちょっと聞き捨てならない言葉がありました。

顔に出たのか、竜崎はご機嫌取りの意味で頭を撫でて話を続けた。

「男除けに仕事させてくれって頼んでおいた」

「るぅちゃん・・・怒っていい?」

「やだ」

物凄いキラキラ笑顔で拒否された。

腹立たしい!

せめてもと手を叩き落としてやるが、いつものように笑うだけで全く堪えてない。

「怒るな怒るな」

いや、怒るだろ。

お陰でどれだけ酷使されたと思ってるのか。

笑い話にもならない。

「楓の仕事漬けはあいつの意志でもあるぞ」

だから怒りを収めろ。矛先は別に向けろと聞こえた。

少しも気が晴れないので仏頂面は続行だ。

「俺とあいつの利害が一致したんだろ」

「私には害しかございません」

「収入増えたろう」

「使う時間がないけどね!」

何の為に生きていると問いたくなるほど働き詰めだ。

諸悪の根元がこんな近くにいようとは。

「貯めとけ」

「るぅちゃんのばーか」

「ははっ。興奮する」

瞬間、ソファの背を飛び越えようとして阻まれた。

左足首を掴まれ引き戻された為、逃亡は敢え無く失敗に終わった。

「行儀悪いぞ」

声のトーンは変わらないけれど目を見る勇気はない。

恐怖を煽るように掴まれている足は竜崎の方へと引かれ続けている。

恐ろしくて両手でソファにしがみ付いたけれど無意味だ。

寧ろ抵抗した事で竜崎を喜ばせた挙句に引く力が強まった。

完全に逆効果だ。

「は、放して下さい」

「人に物を頼む態度じゃないな」

つまりはこちらを見ろと。そう言いたいのだろう。

「恐い!」

「何がだ?俺が何かしたか?」

現在進行形でしている。

足を掴んで引っ張ってるじゃないか。

伝わったのか笑い声が聞こえた。

それから足の拘束が解かれた。

「ほら、これでいいだろ」

良くない。

全然良くなってない。

不穏な空気はそのままではないか。

「楓?」

振り向けとの催促に大きく頭を振って拒否した。

「ご飯冷めるぞ」

「・・・・・」

「今日は何もしないから、ちゃんと座れ」

言葉通り空気が緩んだので恐る恐る座り直す。

チラリと竜崎を窺えば優しい眼差しを向けられていて安堵した。

学生の頃とは違い、竜崎は「遠慮する必要が無くなった」と露骨な言動で示してくる。

だからこそ、スイッチが入った時の竜崎は恐ろしい。


最近は彼の執着が異常なのではと考える事が有る。

そうだとしても受け入れてしまうだろう己が一番恐ろしいのだ。






「情報流すの止めて下さい」

「いきなりね」

「言いたい事は本人に言って下さい」

「イ・ヤ。アナタ怖いもの」

開口一番が不満など、こちらだって言いたくない。

それもこれも目の前にいる糞社長の所為だ。

「私の何処が怖いんです」

「顔」

「んなもの、もって生まれた物なのでどうにも出来ませんよ」

「笑顔が無い!アタシを見る目も冷めてるじゃない。無視されるのが一番堪える」

「左様で」

「鏡見なさい。その顔、怖いの!」

「アンタの所為だろーが」

うっかりキレた。

踏ん反り返って座る社長の首を片手で絞めた程度にキレた。

全く目立たない喉仏を押してお綺麗な顔が苦しみで歪むのを見て止めてやった自分を褒めてやる。

目の前で咳き込んでいるが自業自得だ。

恨みがましく涙目で見上げられても・・・・・あぁ、キュンとした。

「おっさんが媚びないで下さい」

不覚にもときめいた自分に舌打ちした。

ビクッと社長が怯えたので苛立ちが増した。

この糞社長、男性にしては小柄でボディラインがエロい。

ちょっと垂れ目で左に泣き黒子なんてものがあるのでエロさが倍増だ。

スタイル抜群の女で自分が男だったらヤっちゃってますよねーな感じの犯罪を誘発するタイプ。

「殺そうとした!」

「はあ?そうだとしても感謝して下さい」

「感謝?!」

「やめたでしょ」

目を白黒させこちらを凝視してくるがスルーだ。

「仮にも雇い主になんて態度なのっ」

「受け答えしてるじゃないですか」

「あ、アナタねぇ」

何か?と視線で問えば心折れたのか社長は言葉を詰まらせて下唇を噛んでいた。

噛み切りそうで唇を指で辿り止めるよう促す。

ああ、ぷっくりしててこれまたエロい。

唇を撫で感触を確認していれば、異常者を見る眼をした社長に気付いて目的を思い出した。

「すみません」

どこぞのセクハラおやじか!

自分に突っ込んで気落ちする。

「欲求不満みたいです」

言い訳にもならないが、それ以外に思い当たる伏が無い。

社長は苦虫を噛み潰したような顔で見上げている。

猛省しか無い。

「・・・そんなだから困るの」

「はい?」

「忍耐の限界超えそう」

「・・・・・それは私の台詞です」

この後も何やらブツブツ言っていたけれど聞き取れないので無視だ。

元を正せば諸悪の根源はこの人だ。

変態と罵られる行為を働いたのもエロいこの人が悪い。




いや、うん、今のは無い。

脱線して手を出した自分が全て悪かったです。

もう、ホント、ただの変態オヤジでした。


ああ、因みにこの人の口調は平常運行です。




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