7
淹れ直してもらった紅茶を啜り、まずは気持ちを落ち着ける。
いやぁ、美味しい。
実に沁み渡る美味さだ。
あははー。
なんて逃避してたら續木に軽く睨まれた。
そんな顔されても異論しか出て来んわ!
「実に信じ難い話だよ、ミィナ君」
また睨まれた!
・・・しかし美形は怒っても美しい。
續木の場合はプラス怖いけれど。
どうでもいい事を考えてたのがバレて軽く頭を小突かれてしまった。
「誰の話だよって感じですよ」
お前のだと目をされました。
「全っ然覚えてない」
「・・・・・」
「あの頃は勉強してた事しか記憶にない」
色気が無い。
なんてつまらない思い出だと笑ってしまった。
「後は・・・辛かったのとミィナへの感謝かな」
「・・・親父さんとは・・・」
「あー、うん、まあ、変化なし」
「・・・そうか・・・」
どうしてそこで落ち込んでくれるのか。
お人好し過ぎて心配だ。
何も聞かずにいてくれたけど、父と疎遠になって行くのを間近で見ていたら嫌でも気付く。
一度は回復してた親子関係が悪化したと。
分かっていても黙って傍にいてくれた續木には恩だけが溜まっていく。
大切にしてくれる事がどれだけ支えになっているか。
与えられた物を返して行けたら本望だ。
「ミィナ視点の昔話は分かった。それが同窓会とどう繋がるのさ」
微塵も納得してないけど。
元々相違の確認がしたかっただけだ。
どっか別の誰かの話として聞き流せばいい。
本題はここからだ。
「・・・3年前、姫条の結婚式があった・・・」
それが発端か。
二次会の招待を受けた王子達。
お互い特に接点もなく家同士の付き合いで何年かに1度、顔を合わせる程度。
そんな彼等がヒロインの誘いに応じたのは偶々らしい。
スケジュールも空いていて、断る理由が無かったから。
昔の苦い想いが付き纏っていた所為もあるとの續木説は聞こえませーん。
どこぞの国の御曹司と結ばれたヒロインに形ばかりの挨拶を終え、群がる女性に辟易している中で必然と王子達は集まっていた。
續木はパティシエ、真淵は甘いの大好き人間。
共通点もあり仲良しな2人が共に居た事もあって、彼等もそこへ集まったのだと想像がつく。
うわぁ、盛り上がる女性陣の姿まで目に浮かぶ。
「こうして全員揃うのは何年振りだ?」
「4、5年振りでしょうか」
「そんなもんだろ、こいつ等は学年違うし」
黙って彼等の会話を聞きながら、自由人のお守りをしてる續木。
不憫に思いつつ、流石だと感心した。
「あいつは来て無いのか」
桐山の言葉に真淵を除いた全員の目が向いた。
この為に来たと言わんばかりの雰囲気だったと。
これも續木説であって事実ではない。
「・・・仕事だと・・・」
「そうか」
「續木クンってさ、未だに佐藤さんと付き合いあるの?」
頷くと鳳巳の眼光が鋭くなった、らしい。
「何で?續木クンだけってのは納得いかない」
「・・・楓とは・・・中学から友人なので・・・」
「そうだったんですか?全く知りませんでした」
「・・・・・」
「あいつは、元気にしてるのか」
寂しげな桐山に頷く。
「彼女、ご結婚は?」
「・・・まだ・・・」
否定に飯沼はホッとした。
当然これも續木説なので、らしい、だ。
「一度お会いしたいですね」
「・・・俺には何とも・・・」
「どうしてです。連絡を取り合ってるんでしょう」
「・・・・・」
ゴリ押しが続いても沈黙で躱してくれた續木に拍手だ。
話の腰を折って「ありがとう!」と深々頭を下げてしまった。
複雑そうに眉を寄せた續木に先を促す。
「しつこいぞ、飯沼」
「僕を悪者にするのは止めて下さい。貴方だって逢いたいのでしょ」
図星を指されて桐山は押し黙る。
「でも、僕等には手段が有りません」
「ま、そーゆーコト。だから續木クン、協力してよ」
「・・・・・」
「何も無理矢理セッティングしろとは言わないからさ」
「そうですね。それは流石にプライドが許しません」
いやいや、人を頼ってる時点でプライドも何も無いだろう。
思っても今度は黙って話を聞きました。
「こーゆー集まりに参加するかどうかだけで良いから教えてよ」
「決して貴方達の友情を壊す真似はしませんから」
主に鳳巳と飯沼のしつこいお願いに負かされた結果が、あの同窓会に繋がったらしい。
規模に関わらず集まりには全て不参加。
鳳巳が独自に入手した連絡先は不通。
堪え切れなくなった所に同窓会参加の返事をした自分。
續木は協力するしかない状況だったと。
「成程。途中、すんごい怖い事実を知ったけど、概ね理解しました」
腹黒と鬼畜に挟まれたら逃げるのは不可だろう。
「因みにさ、鳳巳先輩が入手した連絡先ってのは」
「前の携帯」
「そ、そっか・・・」
同窓会の半年前に全てを一新したのだ。
父のシンパから近年珍しく悪質な嫌がらせを受けるようになったから。
ある意味素晴らしいタイミングである。
「あと気になってるのが、約束って何?」
騙し討ちの同窓会の日、鬼畜弁護士様の発言がずっと気掛かりだった。
「・・・協定・・・」
「何の?」
「・・・・・楓を引きずり出すまで・・・」
何だ、その物騒な協定は。
意味もよく分からん。
なのでしつこく聞いてやった。
他言無用。
同窓会終了までは抜け駆け禁止。
たったこれだけが何の意味があるのか。
素直に問えば、全て己に向けられた物だと續木が答えてくれた。
嘘や隠し事はしたくなかった。
本当は全て話したかった。
先輩達が過去を清算したがっている気持ちは痛いほど解る。
でも、彼等に会わせて自分から離れてしまう可能性が怖かった。
いっそ独り占めしたかった。
そうさせない為の協定だったと。
・・・いや、うん、もう、赤裸々過ぎて恥ずかしい!
「どうした」
どうしたってアナタ、聞いちゃいますか。
耳まで真っ赤にして突っ伏してる相手に本気で?
「・・・楓?」
不安げな声。
これは羞恥に耐えて言うしかあるまい。
「愛の、こ、告白っぽくて精神攻撃を受けました!」
後半ヤケで叫んだ。
一拍後、和風美人の色白な肌が徐々に染まっていきましたー。
だからっ、止めて!
この子はいつもこれだ。
無自覚タラシか!!
「ちがっ、そんなつもりではっ」
「わぁかってます!」
だから落ち着け。
揃って赤面してるなんてイタすぎる。
「ミィナは飾らなさ過ぎ」
誤解する女性が続出するぞと忠告してやったら。
「・・・楓にしか言わない・・・」
と来たもんだ。
だーかーらー、それを止めろと言っただろう!
彼を殴るわけにもいかず、ひたすら悶絶して耐え抜きました。
親友とは言えど、王子は王子なのだと実感致しました。




