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連続投稿してます。本日2話目です。
楓曰く、飯沼先輩は鬼畜らしい。
確かに異性への対応は目を疑う程に冷たいが、自分の印象は違う。
彼はハートが強い。
鋼の如く強い。
それを改めて感じたのが、この日の出来事だ。
あれだけ毛嫌いしていた楓に好意的になった飯沼。
役員に冷たくなった楓。
対照的な2人のやり取りは見ているこちらがハラハラした。
「ご一緒に如何ですか?」
にこやかにお茶会へと誘う飯沼に、またかと嫌そうに顰めっ面をする。
こんなに露骨で彼女は大丈夫なのか。
とても不安になる。
「結構です。早く帰りたいので邪魔しないで頂けますか」
「クッキーはお好きじゃないのですか?」
「クッキーは好きです」
「でしたら是非。人気店の物を戴いたんです」
「・・・・・」
話にならない。
鬱陶しい。
そんな心の声が聞こえて来た。
楓は無視して視線を書類に戻している。
「根を詰めすぎるとミスも出て来ます。休憩しましょう」
「結構です」
感情を削ぎ落とした声にヒヤリとするのは自分だけなのか。
確認すべく会長を見ると傷付いたような顔をしていた。
きっと、あの日の出来事を思い出したのだろう。
自分が彼の立場にいたら耐えられない。
痛みが伝わるのはその所為だと思う。
「偶にはいいでしょう?付き合って下さい」
それに対して飯沼の食い下がりっぷりはどうだ。
到底真似できない。
もう聞いてすらいない相手に何度も誘い続けるなど、普通なら心が折れている。
楓が反応しなくなって暫く後、ようやく諦めて姫条の元に戻って行ったが。
慰めてもらい憂いではいる。
が、やはり、尋常じゃないメンタルの強さ。
何故ならこのやり取り、数週間と続いているからだ。
「・・・平気か?」
彼等が恒例のお茶会を開いている間、こうやって声を掛けるのは日課になりつつある。
「あんまり」
「そうか」
自分を見た時に安堵する楓だが、飯沼とのやり取りを終えた後はいつも以上にホッとしてくれるのだ。
一瞬でも安らぎを与えられるなら、しないなんて馬鹿げてる。
「あー、もう、早く王子達卒業しないかな」
独り言のつもりだったらしいが聞こえてしまっては反応するしかない。
見つめていたのに気付いた楓は、苦笑しながら声を潜めて言った。
「ライバルキャラじゃないんだから、恋愛イベントに巻き込まないで欲しいんだよね」
「?」
「力不足だからモブだってのに」
彼女の言ってる事は半分も理解できない。
ただ、迷惑や不快だと言いたいのではないと感じた。
「今は楽しむ余裕が無いからさ」
寂しげに零れた一言に胸が締め付けられた。
どんな顔で呟いたのか、楓自身は気付いていないんだろう。
強張った自分を見て首を傾げているから。
今にも泣き出しそうだったのだ。
弱音1つ吐かない。
頼ってもくれない。
親友だと言ってくれるのに、果たせない不甲斐無さ。
彼女を問い質し全てを聞き出さないのは求められていないと知っているからだ。
それと、ちっぽけな矜持を守る為でもあった。
最近は一緒にいる事が多くなった。
それだけ楓が追い詰められてる証拠なんだろう。
今日の昼食後も待ち合わせたわけではないが、共に保健室にいた。
妖艶美女らしい部屋の主は不在だったが、ここにいると邪魔が入らない。
居心地が良く集中するのに最適な事もあって、大体は勉強しているけれどお互い不満は無い。
少なくとも自分には望む時間だった。
「あ、いたいた」
それを打ち崩すのはいつだってこの先輩だ。
ノックなしで入室し、楓を見つけるや真っ直ぐ近付いて来る。
「そろそろメール返すくらいしてもいーんじゃね」
「保健室に御用ですか、鳳巳先輩」
「そう見える?佐藤さん、看病してくれるなら病人でも怪我人でもなったげるー」
「そんな義務は有りません」
「だよねぇ。だから保健室に御用はありませーん」
「そうですか」
「うん、そう」
そこで会話は終了した。
楓に続ける意思が無いからだ。
鳳巳に対しては他に比べればずっと穏便な気はする。
だからと言って受け入れてるわけじゃないが。
「ココでも勉強って・・・真面目だねぇ」
手元を覗いて半ば呆れがちに感心している。
サッと目を通し間違いまで指摘している。
大人しく聞いている楓の様子からしても、鳳巳だけは信頼を勝ち得ているんだろう。
「あ、ねえ、佐藤さん」
「はい」
「竜崎センセと暮らしてるってホント?」
「はい」
あっさり肯定した楓の視線はノートに向いたまま。
鳳巳が衝撃を受け立ち尽くしているのは眼中に無いようだ。
「な、んで?」
「答えたくありません」
聞かれる筋合いないよな、部外者なんだから。
と、態度が物語っていた。
感じ取った鳳巳は更なるダメージを負ってふらふら部屋から出て行った。
「・・・・・いいのか?」
「ん?」
「・・・副会長・・・」
「あの人、何考えてるか分からないんだよね」
チャラいし腹黒いしヤンデレちっくだし。
そう呟いて、でも興味が無いのか、鳳巳の話題はこれ以降持ち出されなかった。
この日を境に副会長は再び生徒会室に寄り付かなくなった。
傷心を認めたくない会長は姫条に入れ込む事で痛みを誤魔化していた。
断り突き放され続けた飯沼先輩は2人の現状を加味した上で諦めた。
「俺にはそう見えた」
續木から聞かされた過去は結構、いや、かなり衝撃的でした・・・