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イケメンほいほい  作者: いけちぃ
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ショタっ子会計様こと真淵 祥太とは、実にマイペースで感情の起伏が激しい気分屋だ。



生徒会で雑用をしてた時はただの甘えたお子様くらいにしか思ってなかった。

甘い物と可愛い物が大好きで女装してないのが不思議なくらいに容姿が愛らしかった。

餌付けしとけば好感度上がるよねー、ショタっ子は。

と、まあ、正直、そんな失礼な印象しか抱いてませんでした。



そんな真淵と会ったのは大学時代。

少しでも就職に有利になればとの動機で訪れたホームステイ先でだ。

友人の土産に地元で評判のお菓子を買い漁っていた所に行き倒れと出くわした。

「お兄さん、大丈夫?」

酔っ払いかとも思ったけれど、でかい図体が道端に転がってる様が面白くてつい声を掛けてしまった。

「お、なか・・・空いた・・・」

「へぇ」

俯せだった事と色素の薄い髪。

日本人だと判ったのは返答が日本語だったからだ。

同郷のよしみもあって買ったばかりの菓子を顔の横に置いてみる。

僅かに顔が浮いて、直ぐにパタリと伏せてしまった。

これは気力も体力も無いとみた。

袋を剥いて開封してから、再び同じ位置に置いてみた。

暫く後、犬食いを始めて若干引いた。

まあ、これで餓死はしないだろう。

念の為にもう1つ土産の品を置いて、その場を去った。



それがショタっ子会計様との邂逅。

その時は既にショタっ子の影も形もなく立派に育っていた為、行き倒れが真淵だとは思わなかった。

知ったのは帰国後。

大学に乗り込んで来た本人から告げられたのがきっかけだ。


「捜した」

誰だ、このイケメンは。

立ち塞がる大男への最初の感想がそれだ。

「お菓子、ありがと」

「人違いです」

残念ながら美形に餌付けした覚えはない。

横をすり抜けようとしたが、腕を掴まれ力づくで戻された。

それから差し出された空の箱。

何やら丁寧に畳まれている包紙。

要領を得ず相手を見上げると、ふわりと柔らかな笑みを向けられた。

「ご馳走様」

「・・・申し訳ないですが、やっぱり人違いだと思います」

「佐藤カエデ」

指されて名を告げられるから頷く。

一体何なのか。

「行き倒れ」

今度はそう言って自分を指している。

次にはまたこちらを指す。

「お菓子くれた人」

ふわっふわの髪が揺れる。

あれ、触ったら気持ちいいだろうなぁ。

「命の恩人」

「はあ、左様ですか」

面倒臭いわー、と思いながら仕方なく記憶を遡る。

あぁ、あの時の犬食いの人か・・・

「真淵祥太」

「佐藤です」

「知ってる」

「そうでした・・・・・」

駄目だ!

関わってはいけない人種だ。

回れ右して退散しようと駆け出せば、容易く阻まれ肩に担がれた。

「ちょっ、マジかっ」

「ご飯食べに行こ」

返事も聞かず公衆の面前を堂々歩き出すこの男。

何度も拒否して蹴りを入れてもビクともしなかった。

抵抗が無意味と早々に諦めた。

如何に顔バレしないで担がれるか考えた方が堅実だ。


これが大学時代での苦い思い出であり、真淵との付き合いの始まりでもある。

因みに、彼がショタっ子だと気付いたのは随分後になってからだ。

親友の續木 聖生が教えてくれなければ知らないままでした。








「カエデ、ご飯」

真淵は本日もふらりと会社にやって来た。

アポもなければ時間も定まっていない。

挙句、それで通ると思ってるどうしようもない大人だ。

「知らん。忙しいから帰って下さい」

「お腹空いた」

「そうですか、はい、さようなら」

同窓会以降、不愉快に振り回されてばかりで苛々してるのだ。

この見た目ふわふわ、優しげな男前に構ってる余裕はない。

しかし、パソコンとの睨めっこは強制終了させられた。

いつかのように両脇に手を突っ込んだ真淵に抱き上げられたからだ。

「パンケーキが食べたい」

笑顔で零し、抱っこ状態のまま歩き出した。

いやいや、待った。

どんな状況?

「ちょ、祥太!ストップ!!」

数少ない同僚は見て見ぬふり。

真淵は全く聞く気が無く歩みを止めない。

ナニ、この羞恥プレイ。

これで人目に晒されるなど耐えられない。

いや、その前に積み重ねてきた社会人としての信用が消えるだろう。

こいつは良い。

ショタっ子じゃなくとも見目麗しい王子に変わりはないのだから。

王子が何したって世間の見る目は実に寛大。

モブに対しては・・・言わずもがなだ。


「何をしてるんです」

絶対零度の声にゾッとする。

背中と腰をがっちり抱かれている為、声の主は確認できないが鬼畜弁護士様こと飯沼だと判る。

ついでにどんな顔をしてるかも。

あの貼り付けた微笑の圧力3割増しに違いない。

「イヌ?どうしてイヌ、ここに居るの?」

「貴方こそ何故居るんです?それに彼女を何処へ連れて行く気ですか」

「お腹空いたから」

「でしたらどうぞ、お一人で。彼女は置いて行ってもらいます」

「・・・嫌」

嫌じゃないだろう。

お前は幾つだと殴りたい。

と言うか、今ので腕の力が強まって締まるっ。

痛っ、くる、苦しいっ!

訴えるべく肩をバンバン叩けば力が弱まった。

次いでやっと降ろしてもらえたのでホッとした。

「ごめん、カエデ、痛かった?」

不安げな真淵に顔を覗き込まれて怯む。

美形のアップは心臓に悪い。

「大丈夫ですか?全く、野生児には困ったものですね」

今度は何故か飯沼に肩を抱かれていた。

「迷惑だと言ってやればいいんですよ」

「い、いや、あの、」

「遠慮する必要などありませんから」

真淵を睨んでいたかと思えば、目が焼かれるくらい眩しい微笑を向けられた。

落差が激しいっ。

それを目の当たりにする方の身になって欲しい。

クラクラする。

「カエデ」

はいはい、少しお待ちを。

精神を立て直すのに時間が掛かる。

「カエデ」

僅かに苛立ちを含んだ声。

視線を上げると露骨にムッとした真淵がいて、目が合うと嬉しそうに綻ぶ。

もう溜息しかない。

「行こ」

伸ばされた手を取らない選択肢は無かった。

勿論、実際に手を繋ぐという意味じゃない。

誘いに応じるってだけだ。

真淵の手は飯沼によって叩き落とされてるし。

「飯沼さんも良ければ御一緒しませんか?」

お馬鹿な気分屋の相手をしていて下さい。

と言うのが本音で下心だ。

「いいんですか?」

かなり驚かれたが、それも当然だ。

顧問弁護士かつ同僚になってからそこそこ経っているが、飯沼との交友記録はゼロ。

偶に誘われても全て断っている。

ああ、でも、手作り弁当で餌付けされてるからゼロではないのか。

「是非。お願いします」

「喜んで」

この時の笑顔が凄かったです。


うっかり勘違いしそうになって踏み止まりました。


王子ってやっぱり半端ないですねー・・・・・






弁護士様を同席させて事無きを得た数日後。

またもや気分屋の襲撃を受けた。

ヤンデレ予備軍警戒中の鳳巳とのお茶会で。

何度も言ったのだ。

ついて来るなと。

先約があって非常に迷惑だと。

それでも頑として譲らず、結果、こうなった。

「・・・・・」

「・・・・・すみません・・・」

無言で圧力をかけて来る鳳巳に何度目かの謝罪。

上機嫌でケーキを頬張る真淵は全くお構いなしだ。

だから来るなって言ったのに。

睨めば目が合って、笑顔と共にフォークに乗せたケーキを差し出された。

これを食べろと?

殺気まで漂わせる相手の前で?

死なす気か!

「あーん」

「・・・いりません」

「カエデ、あーん」

もう嫌だ。

テーブルに突っ伏して現実逃避だ。

「どうしたの、カエデ、病気?」

何も聞こえない。

うん、明日の予定を確認しよう。

確か新規取引先との打ち合わせが・・・俺様専務様の所だった・・・

撃沈だ。

「いい子、いい子」

涙に耐えていると大きな手に頭を撫でられる。

絶妙に優しい手付きで感触を追ってしまった。

凄く気持ち良い。

うっかり顔を上げて真淵を確認し、ふわりと微笑まれ心臓鷲掴みにされた。

胸キュンスチル画像を正面から生で拝んでしまった所為で。

女らしからぬ呻き声を上げつつ耐えていたら、今度は物凄い痛みが頭皮を襲った。

抜ける!髪が消え失せる!

原因は鳳巳が手加減無しで髪を掴んで引っ張り上げて下さったからだ。

「佐藤さん、今日は俺とのデートだよな?」

いいえ、そんな認識は御座いません。

などとこの状況で言えるはずない。

「男同伴の挙句にイチャつくとか、頭湧いてんの?」

だから不可抗力だし何度も謝ったじゃないか。

顔に出たのか、舌打ちした鳳巳が更に力を強めてくれた。

このドS野郎め!

「カエデ、痛がってる、放せ」

「お前は帰れ」

「カエデと一緒に帰る」

意識が逸れてくれたのは有難いけれど、この状況のまま煽ってくれるな。

せめて解放されてからにして欲しい。

じゃないと禿げる。

「お、鳳巳先輩、ホント痛いです」

「あ?俺のがずっと痛いんだよ」

「すみません、禿げます。抜けます。マジで勘弁して下さい!」

懇願してやっと放してもらえた。

盛大な舌打ち付きだったが。

「こんなん連れて来るなよ」

睨まれていると言うのに、真淵は懲りずに手を伸ばして頭を撫でようとする。

これは流石にまずい。

身を引いて届かない位置まで椅子を移動させた。

シュンと落ち込んだかと思えば、次の瞬間には嬉々としてケーキを食べ始める。

これだ。

この身勝手な振る舞い。

彼がどんな人間でも興味は無いが、巻き込むのは止めて欲しい。

多大な被害を今、被った。

「佐藤さん」

「は、はい!」

「埋め合わせは当然だよねー」

いやいや、被害者なのに何故。

鳳巳の目が怖いので不満など言えないけれど。

「次の休み、俺に頂戴」

なんてお高い代償か。

顔が引き攣ってしまう。

「いつになるか分かりませんよ」

「ナニそれ?下手な言い訳でもする気?」

「違います。多分、暫く休日なんて貰えないと思います」

「・・・意味わかんない」

ですよねー。

同意を込めて溜息だ。

「同窓会の時にやっと1日休みをもぎ取ったので、数か月先は無理です」

「佐藤さん、週休2日じゃないの?」

「ええ、そうですよ。そのはずです」

「・・・休みの日は何してるの」

「主に仕事です。昼には確実に呼び出しを受けますねー、ハハ」

乾いた笑いに鳳巳からの同情を感じた。

余計な首を突っ込んで来ないのは、この人のいい所だ。

「まあいーわ。近い内に連絡する」

「ご希望に添えるかは知りませんよ」

投げやりな返答にも何故か満足げだ。

チラリと真淵を見て、ティーカップに口を付ける。

一連の動作が美しくて見惚れてしまう。

「本当、直ぐに顔に出るね」

「あぁ、すみません。またオッサン化してました?」

「してた」

声を立てて笑う姿は無邪気そのもの。

「そんな佐藤さんも好きだけどねー」

これには普通にときめいた。

色仕掛けよりもよっぽど攻撃力がある。

まあ、それも相手が鳳巳だからだろう。


ギャップ萌え。


これがきっとそうだと思う。






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