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イケメンほいほい  作者: いけちぃ
分岐ルート(鬼畜弁護士様)
31/32

弁護士様ルート1

※共通ルート2、15からの続きになります。




「楓さん」

此処は会社で同僚がいます。

何故、名前呼びなのか。

「・・・お疲れ様です」

聞きたい事はあれど面倒なので問う気はない。

「1週間振りの第一声がそれですか?」

それだよ、常識模範返答だろうよ。

「僕に逢えて嬉しくはないのですか」

不満げに右眉を上げている弁護士様の麗しさは目の保養になる。

知識も非常に重宝しているが、別段嬉しくはない。

この絡まれ方に迷惑しているのが本音だ。

「ご不満でしたら他へどうぞ」

「貴女への不満を何故他に持っていくんです?貴女が責任を持つべきでしょう」

責任て何だよ。

持つべき責任が解りません。

「僕を無視ですか」

心で突っ込んでいたので無視ではない、とは言わずにチラリと視線だけ送って再びパソコンへ向き合う。

「仕事の邪魔しないで下さい」

「邪魔?僕がですか?」

耳を疑うとでも言いたげな表情をしたかと思えば「貴女は要領が悪いですからね」と言葉が続く。

無能な貴女を哀れんであげましょうとの副音声が聞こえたのは気のせいじゃないだろう。

「・・・御用件をどうぞ」

「それらを満たしている最中ですよ」

「雑談したいなら、相手を変えるか就業終わりにして下さい」

「では、終わり次第、僕の部屋に来るように」

行きたくねー!

返答を控えたが、あの調子では行くのが当然って感じろう。

他の女子社員が声を掛けても一瞥して通り過ぎる様は、今し方ねちねち絡んでいた奴と同一なのか疑いたくなる。





ドンッと何やら置かれた音がした。

当て付けでまあまあな強さで叩き付けられたらしい。

「いい加減にして下さい」

開口一番はお怒りの言葉。

さらりと流れる美しい御髪に意識がいって、うっかり絡まれると面倒な弁護士様に見惚れてしまった。

三拍遅れで彼の発言に反応して首を傾げる。

「僕の部屋に来いと伝えたでしょう」

「終わり次第とも言われました」

「働いているのは貴女だけですよ」

この人に指摘されると無能と言われてる気がする。

恐らく、きっと、被害妄想だろう。

荒んでるなぁと思いつつ、彼の手元から漂う香りに刺激されて空腹が訴えてくる。

それは盛大に腹が鳴る。

勝ち誇った弁護士様は腹立たしいが、残念なことに彼の手料理には胃袋を捕まれている。





最近、残業合間に弁護士様の手作り弁当を頂くのが習慣化してしまった。

至福満腹かつ睡眠不足が祟って必ず寝落ちしているが、仮眠程度で起こされるまでがいつもの流れだ。

今日に限って違ったのは、起こされる前に目覚めた事。

お陰で混乱している。

超至近距離に弁護士様がいたから。

いや、これは、キスされている。

卑猥に響く水音は彼がわざとしているからで、口腔で舌が蠢きどちらか判らない唾液が混ざり合っている。

えーっと・・・・・・何事?

強く舌を吸われ、やっと離れていった。

濡れた唇を強めに拭って、覆い被さったままの飯沼を見る。

平然とし過ぎで怖い。

「眠る貴女も良いですが、起きている方が反応は好ましいです」

・・・・・・どういう事?

反応って何?いや、そもそも、この体勢は?

「バス停まで送りましょう」

神々しいまでの微笑みに放心していた。

帰宅準備を済ませた飯沼に起こされるまで、ソファで硬直してた程度に混乱を極めていた。

差し出された手を取って立ち上がった辺り、ダメージの重症ぶりが窺える。

「今日は何がお好みでした?」

「は?あー・・・ポテトサラダがドストライクな味付けでした」

「成程。楓さんは酸味が苦手なのですね」

「あぁ、はい。よく分かりましたね」

「当然ですよ」

会社の戸締まりをしながら交わす会話が今までに無い普通で穏やかな物だった。

弁護士様から毒が飛ばなかったからか、浮き足立ったままだからか判らない。

頭の片隅で、この人、普通に会話出来るんだなぁと思ったのは確かだ。

飯沼と別れ、帰宅。

就寝前に色々反芻する。

あ、夢オチね。

それが今回の出来事の結論だ。



「貴女の恋愛遍歴を教えて下さい」

本日もお手製弁当を黙々食べていた。

向かいに座る飯沼から妙な質問をされるまで。

咀嚼しながら、何言ってんだ、こいつ、と思ったのが顔に出たんだろう。

睨まれた。

「聞いておくべき事柄でしょう」

さも当然と断言するから納得したくなる。

あー、この人の手口はこれなのねー。

人外な麗人に善人全開で微笑まれたり、自信満々に断言されればころっとオチる。

色んな意味で、それは容易く掌で転がされる。

「不都合でも?」

「・・・リア充を妬む時間がないくらい仕事に忙殺されてました」

「想定以上、長期に渡って上司と淫らな関係を続けていたと言う事ですか」

いやいやいやいや、そんな発言してないだろう。

そんな解釈されるの?どの辺が?

「手近な相手で済ませていたと言う事でしょう」

あぁ、この人の中ではそーゆー認識なのね。

いや、もう、寧ろ、憧れるから!

奔放を許されるなら謳歌してみたい。

あの犯罪誘発エロボディを堪能して、他にも色々いたせる相手がいたなら、リア充過ぎて爆発してやったのに。

「お気に召さないなら聞かないで下さいよ」

「知る必要があると言ったでしょう」

そうですねー、事実誤認してますけど。

訂正は面倒なので致しません。

「真淵祥太はどうです?随分と親しいようですが」

「特には」

「他に貴女に触れた者はいないのですね?」

肩を竦めると勝手に納得していたので、この話題は終了した。

美味しい御馳走に意識を戻すとしよう。





目覚めは最悪だ。

また弁護士様が上に乗っかっている。

「随分と早いお目覚めですね」

平然と呟いて顔を寄せて来るのは何故だ。

前回同様、続けようとする神経の図太さは尊敬ものだ。

勿論、横を向いて口付け回避した。

思いっきり顎を掴まれ戻されましたけどね。

「大人しくしなさい」

したら唇奪われるじゃないか。

どうして従うと思うのか問い質したい。

いや、そもそも、これ何なの。

右手で飯沼の唇を塞ぎ強く押し返すと、その分だけ重みが軽くなった。

覆い被さる相手が少し離れただけだが、会話をする意志があるだけマシだろう。

「夢オチじゃなかった・・・」

「何です?」

独り言に反応されても知らん。

それより、精神的ダメージ回復が必要だ。

前回も現実だった。

「貴女の欲求不満解消に協力してるんですよ?夢オチとは何です」

すっごい御不満に睨まれたけど、現状異常事態ですから。

「欲求不満は否定出来ませんけど、協力を仰いだことはないです」

「僕の務めでしょう」

いや、違う。断言されたけれど断じて違います。

「これっぽっちも同意出来ません」

今度は何言ってるんだと顔をされた。

もう、この人のこの顔、結構うんざりする。

会話不成立スタートみたいな合図になってるからだ。

「上司とは手を切る約束でしょう」

いや、だーかーらー、始まってすら無いから!

「そもそも、何で飯沼さんが?」

「何でとは?」

「自分でどうにかするんで」

「そんなに樋浦社長がいいんですか」

そうじゃねーよ!

論点がずれるのは何故だ。

いや、待て待て、このまま社長と続ける流れにすれば解放されるのでは?

名案だと口を開いた瞬間、飯沼の舌が入ってきた。

蹂躙の言葉が相応しい程に一方的に攻め立てられ呼吸も儘ならない。

最中に気付いた事がひとつ。

このキスを知っている。

衝撃を受けながら、身を起こした飯沼の唇をぼんやり眺めた。

「足りませんか」

物欲しげに見えたのか、再び唇が触れる。

今度はゆっくり執拗に中を動き回る。

一ヶ所ずつ確実に反応が良い場所を探り当てていく。

見事な粘着振りに全身が敏感になっていると自覚した。

さらさらな髪が頬に触れただけで甘く痺れるのだ。

これは、本格的に危険だ。快楽に酔い潰れる。

「ああ、やはり意識がある方が好ましいですね」

事も無げに呟かれた内容は自白ととっていい。

幾らか驚いてもいいはずだが、成程ねと納得してしまう。

そりゃ知ってるはずだよ、キスされまくってんだからと。

「弁護士様、御上手ですね」

「貴女の手解きですよ」

女嫌いな割にはきっちり経験してるのねー、と含んだ音色に気付かれた。

ついでにカウンターが来たけど、身に覚えがない。

「ワタクシに、そんなスキル、御座いません」

「気持ち良くなる場所を事細かく教授して頂きました」

どうやって?

まさかの、反応でイイトコロを探り当てた的な事だろうか。

いやいや、弁護士様がそれをする意味が何処に?

欲求不満解消で寝込みを襲う行為も理解しがたい。

「もう結構です」

「そうですか」

あっさり上から退いた飯沼に安堵しつつ身を起こす。

キスって本当に気持ちいいんだ。

なんてアホな事を考えていた間、弁護士様は帰り支度を整えていた。

何故か手を差し出されて首を傾げる。

「行きますよ」

言うや腕を掴み歩き出す飯沼。

いやいや、強制連行で引きずられてますが何故だ。

「まだ仕事があるので1人で帰って下さい」

「何を言っているんです。貴方の欲求不満解消に付き合うと言ったばかりでしょう」

「はあ?!」

うっかり心の声が漏れたのは仕方無い。

全く噛み合わない会話の果てに終わったはずだ。

「もう結構です」

そう言っただろーよ!

「ええ、ですから行きましょう。どちらかの家にしますか?それとも部屋をとりましょうか」

意味を理解して慄いた。

こいつ、何を言ってるんだ、本気かよ。

いや、本気だから怖い。

・・・貞操危機回避はどうやったら出来るでしょうか。






当然逃げた。

タクシーつかまえてる最中に走って逃げた。

当然だ。

翌日、何故か、激怒している弁護士様に出勤早々連行されたけど。

放り込まれた個室は相変わらず几帳面に整理整頓されている。

「一体どういうつもりですか」

いやいや、こっちのセリフよ。

「何故逃げたんです」

あれでついてく人いるの?

ならば弁護士様とはとことん合わないのだろう。

「仕事戻っていいですか」

「話は終わっていませんよ」

「弁護士様とする話はありません」

悠嵐ゆらんです」

「はい?」

「悠嵐と呼びなさい」

・・・この人、本当、会話出来ない。

「お昼の休憩時間に話しましょう」

「いいでしょう。お昼にまた此処に来て下さい」

引き下がってもらえて何よりだ。

仕事モードがなかったら盛大に舌打ちした程度には苛立ったから。









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