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イケメンほいほい  作者: いけちぃ
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大口の取引先と契約を結んだ事で、常々考えていた顧問弁護士を雇うと決めた社長。

これで余計な仕事が減るわーと内心喜んでいた。


目の前でそれはもう、中性的な美しさを武器に微笑んでいらっしゃる人と対面するまでは。


「本日からお世話になります」

宜しくお願いしますと差し出された手。

握り返すべきか否か・・・出来る限り触れないよう握手のふりをした。

そしたら迫力を増した笑顔でがっちり手を握られた。

痛い痛い。

顔に似合わず握力が半端ない!

何だ、この人。

女嫌いだから遠慮したと言うのに。

「よ、宜しくお願いします」

頬が引き攣っても仕方ないと見逃して欲しい。

学生時代に散々目の敵にされたのだ、この鬼畜会計様に。

そんな人と共に仕事をする事になろうとは。

乾いた笑いしか出て来ない。







どうやら鬼畜会計様こと飯沼 悠嵐ゆらんは弁護士兼社員らしい。

さすが糞社長。

人を馬車馬の如く働かせる手腕に恐れ入る。

つまりは専門知識を持った後輩が出来たって事だが、これっぽっちも嬉しくない。

扱いに困るじゃないか。

「楓さん、おはようございます」

「おはようございます」

朝からブレない美しさに完敗だ。

直視出来ずにそっと視線を外しデスクに向かう。

社長のスケジュールに目を通していると気配がした。

顔を上げると飯沼が側にいた。

「業務の流れを一通り教えて頂けますか?」

何故自分に聞く。

教育係は別にいるだろう。

同僚を探すべく視線を彷徨わせるが飯沼に遮られた。

「申し訳ありません。彼女ではお話になりませんから」

笑顔で軽い毒吐くの止めて欲しい。

「僕に見惚れるのは仕方ありませんが、公私を分けられない人間とは時間を共有したくありません」

そう思うでしょう?

と、笑顔に含められた言葉に頬が引き攣る。

「では、同性に頼めばいいのでは」

「どいつもこいつも同じですよ」

「わ、私も俗物なので同じでは、」

「貴女以外は皆同じです」

外見も声も透明感のある美人なのに、どうしても威圧されてる気になる。

昔は猫が毛を逆立てて威嚇してる可愛らしい物だったんだろう。

随分質の悪い育ち方をしたようだ。

「引き受けてくれますよね」

「いや、無理です」

飯沼の眉がピクリと上がる。

外見で惹かれる相手を軽蔑してるくせに、お願いを断られると考えてない辺り性格が悪い。

「一応、社長秘書なので暇は無いです」

「秘書?貴女がですか?」

あぁ、今、考えが透けて見えた。

「私がですよ」

無遠慮な視線が突き刺さる。

上から下まで見たって何も変わりませんよ。

ほんっとう、失礼な人だ、昔から。

そして納得出来なきゃ引かないだろうから面倒で溜息が漏れた。

「社長のお供は目立たないのが適任なんです」

「目立たない事と外見は関係ないでしょう」

「・・・社長の引き立て役って意味です」

「ああ、成程」

得心行ったと頷く飯沼を殴らないのは心が広いからではない。

諦めているからだ。

モブなんてそんなもんだと。

「そんなわけで他を当たって下さい」

「わかりました。では携帯を」

「は?」

「出して下さい。登録します」

「いやいや、何当たり前みたいに言ってんですか」

「当たり前でしょう」

何言ってんだコイツ、みたいな顔をされた。

それはこっちの反応だ。

「社員名簿に全員の連絡先載ってますよ」

「会社支給の携帯でしょう?そんなもの知ってどうするんです」

「それで十分ですよね」

「まさか。それではデートの誘いが出来ないじゃないですか」

空耳であって欲しい。

アナタ、つい先ほど公私混同云々言ってませんでしたっけ?

それ以前に彼に絡まれる事で妬みを買いたくない。

「私は見世物になる気はありません」

不相応な物を手にする事がどれだけの嫉妬を生むかは体験済みなのだ。

どういうつもりかは知らないが、同僚以上の付き合いは御免だ。

毎日毎日、強烈なキラキラと仕事してるってだけでも結構な心労なのに。

浮かれて頬染める歳はとっくの昔。

色恋に労力割くほど体力も時間もない。

青ざめて逃げるのが最善かつ、一番身に合った行動だと言えよう。






珍しく会社にいたお昼時。

「楓さん、ランチをご一緒しませんか」

「すみません、この後、取引先と約束が有るので」

とのやり取りを数回繰り返した。

理由は様々だが、断る事に飯沼の微笑が深くなっていった。

怖いなぁ、と思い始めた頃。

「美味しい和食のお店を見付けたので行きませんか?」

「あ、今日は無理です。スケジュール調整が終わらないので」

就業時間後のお誘いを普通に断った。

瞬間、冷気が漂って彼を仰ぎ見た。

それはもう、美しい微笑で佇んでおられました。

「そうですか。では次の機会に」

優雅な後姿に見惚れるけれど、嫌な汗が流れる。

これは厄介な事になるんじゃないかと。

案の定、時間あらば誘いを受けるようになっていた。

それら全てを断って平然としてられるのは、理由に嘘が無いからだ。

もう1つ、意外にも飯沼が同僚に知られない配慮の上で声を掛けてくれていたから。

これには感謝しかない。



珍しく社長のお供から解放され、珍しく社内に人気がない午後だった。


資料に目を通しながら腹減ったなぁ、なんて思ってた矢先。

「楓さん」

美声と同時にドンっと机にデカい物が置かれた。

「お弁当を作りました。一緒に食べなさい」

「・・・ハイ」

指から追って行き、氷の微笑に辿り着きました。

目が笑ってない弁護士様に逆らう事は出来ませんでした。



弁護士でもある飯沼は個室を与えられている。

そこへ案内されて整然とした室内に昔を思い出した。

何て言うか、無駄が嫌いなんだなぁと妙な納得をしてしまう。

「いつまで呆けてるんです。早く座りなさい」

お言葉のまま来客用だろうソファーに座る。

先程突き付けられたデカい物は重箱だったらしく、目の前のテーブルで広げて準備をしているので持参した資料を読む事にした。

手を出すなと空気が語っているからだ。

気のせいでは無い証拠に、手伝わないのを咎める様子は無い。

おしぼりを手渡され、おにぎりを勧められ、取り分けられたおかずを口にして初めて資料から顔を上げた。

「うまっ!これ、凄い美味しいです」

「当然でしょう」

「何処で売ってるんですか?個人的に好みドストライクな味です」

「僕の手作りですから売ってませんよ」

「はい?」

「そんなに気に入ったなら毎日作って差し上げますよ」

「え?いや、これ、飯沼さんの作品・・・?」

「最初に言いましたよ。理解力の乏しい方ですね」

嫌味も聞き流すほどの衝撃だ。


「貴女の味覚向上に貢献して差し上げましょう」


え?

手料理御馳走は決定事項なの?

敗北感に打ちひしがれている間に話は勝手に進んだらしい。



男の胃袋掴む女性のスキルって半端ないわー。

今、身に沁みて実感してます。




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