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イケメンほいほい  作者: いけちぃ
分岐ルート(俺様・チャラ男)
28/32

チャラ男ルート3




「ねえ、佐藤さん、俺、言ったよね」

それは突然だった。

秘書を全うしてる最中、鳳巳はふらりと現れた。

「アンタは俺のだし、別れないって」

社長と別行動になった途端の出来事。

「お、鳳巳先輩・・・お仕事ですか」

「お仕事ですよ」

俺はね、と含んだ声音。

いやいや、私もですよとの言葉を飲み込んだ。

「それで?」

何を促されてるのか分からない。

出会い頭の発言を思い返しても「そうですか」としか言いようがない。

「何を言えば正解ですか」

聞いた方が早いと判断した事で鳳巳が顔を歪めた。

「佐藤さんは潔過ぎて怖い」

「左様ですか」

「俺は佐藤さんを誰かと共有する気はない」

いやいや、共有されてるつもりはない。

共有発言は何処から来たのか疑問だが、何より不愉快で眉間が寄った。

己の所有権は己にしかない。

「まさか、許すとでも思ってたの」

何故か鳳巳の機嫌が更に悪くなった。

「俺には佐藤さんを独占する権利があるよね。俺だけの権利のはずだけど、まさか違うの?」

あぁ、誤解されたらしい。

鳳巳が言うところの共有に異論があると捉えられたんだろう。

いや、異論はあるけれども。

「違わないですけど、先輩の発言の意図が掴めません」

「・・・俺はキミが好き」

「あ、ありがとうございます」

戸惑ったものの、少し考えて自分も好きだと告げる。

「恋愛対象としての?」

「そのつもりでいますけど」

愛だ恋だの経験値皆無でも好意の基準は定めてある。

至ってシンプルだけれど。

「じゃあ、俺の気持ちを慮ってよ」

駄々っ子か。

突っ込みたいのを堪え記憶を遡る。

確実にヤンデレ降臨していたあの日。

怯える縮こまった相手に、それはもう愉しそうに過剰なスキンシップをしていた鳳巳。

半裸にされ至る所に唇が触れ、いくつもの場所でチリリと痛みが与えられた。

最後は満足気に笑う鳳巳に深く口付けられて解放されたけれど、仄暗い光を宿したままの瞳がずっと見開いていた。

決して目を逸らせなかったのは、そうした瞬間の末路が恐ろしかったからで。

あの日から鳳巳は一切ブレてないようだ。

普通に会話をしても瞳の病みは治ってない。

「先輩は今お時間ありますか?」

出会い頭の会話では仕事中だったはず。

苦笑して無いねと返す彼は意図を知りたいのか僅かに首を傾げる。

仕草が一々可愛くて困る。

「私もそろそろ戻ります。出来れば直ぐにでも話す時間が欲しいので連絡頂けますか」

「俺から?佐藤さんの予定空ける方が大変でしょ」

「いえ。呼んで下さい。可能な限り直ぐに鳳巳先輩の元に行きます」

僅かに驚いて頷いた鳳巳と別れて仕事に戻る。

思慮した結果、早急に誤解を解いて正しい認知をするのが己の為だと確信した。





呼び出されたのは深夜、ホテルの一室。

上半身裸で濡髪をタオルで拭いながらスウェット姿のお出迎えは残念な思考に拍車をかけた。

ブラボー!

これぞ正に乙女の夢!

鳳巳先輩の艶めきは国宝級の尊さである!

いや、馬鹿か、落ち着け。

真面目なお話し合いが目的だ。

色めき沸き立つな、自分。

「どうぞ」

促されてセミダブルのベッドに腰掛けるも、先輩の裸体をガン見固定だった。

エロいー、ヤバいー、エロカッコいいー。

靭やかで綺麗な身体は腹筋割れてて恐れ入る。

ちょっと、こう、腰回りとか腹筋のお触りを許されないだろうか。

「何か飲む?」

ガシガシ乱暴に髪を拭いてる姿にときめく。

断りの返事に詰まるくらいに動揺してる。

首筋から鎖骨のラインがエロくて目が離せない。

「佐藤さん」

「うわっ、はい!すみません!!」

嘗めたいとか思ってました!

「何が?」

「思、考が邪になってました」

「佐藤さんてさぁ、俺を好きだよね。少なくとも身体は」

その通りなので頷く。

会う度に興奮してればバレて当然だ。

何故か溜息が聞こえ、隣に腰掛ける鳳巳。

膝が触れる距離は近すぎる。

ここで仰け反ったら逆鱗に触れる気がして堪えるも、流石に目のやり場がない。

彼の目を見るのが一番マシだろう。

顔を上げたと同時に唇が塞がれて総ては停止した。

生温く濡れた感触が口腔で蠢いていると認識した瞬間にやっと意識が戻った。

これ、まあまあな時間、キスされてた感じです。

唾液の交ざり具合、唇の触れ合う深さ、いやらしく響く水音。

羞恥で死ねる事態だ。

鳳巳から溢れ出る色香が何よりも身に毒ですけどね。

動揺し過ぎてビクンと大きく揺れ動いたお陰か、ゆっくり離れてくれた。

見せ付ける如く、唇からの糸引は即死レベルだ。

遠慮無くベッドへ俯せで倒れた。

真っ赤で情けない顔面は曝せません。

「ねぇ」

首筋に鳳巳の指先が触れて体が震えた。

「気持ち良かった?」

既に応答済みだろーよ、馬鹿正直な己の体が!

指先に応じてピクピクしてるんだから、鳳巳だって判ってるはずだ。

「せ、先輩、は、話したくて来たんです」

勝手に反応する体に半泣きながら、未だに伏せたままで懇願する。

決してなし崩し的に致したくて来たわけじゃない。

「良いよ。好きに話しなよ」

背後から伸し掛かられ項に唇が吸い付いた。

思わず声が洩れて感じているのが丸分かりだ。

これはいかん。

いつしかの彼の言葉が脳裏に浮かぶ。

肉欲に溺れて雁字搦めにされるなど、恐ろしい未来は望んでない。

「しゃ、ちょうとはつき合ってませんっ」

「ふーん」

「前に話し、た、交際歴に嘘はないです」

甘噛が加わった。

あぁ、正直者の体が恨めしい。

「本当にっ、週末デートの認識はなかった、です!」

強く噛まれ呻き声を上げると執拗に嘗められる。

始まりは覚えてないけれど、仕事の一貫で続いてる日常のローテーションだ。

止め時を失ったのは自分だけで、社長が続けていたのは確実に竜崎のせいで。

違和感を覚えない抱かないのも竜崎が何も言わなかった事が大きかった。

忙しく考える余裕もなかったし、当たり前になってた為に指摘されるまで気付かなかった。

それが自分の真実だと必死に伝えた。

決して社長が本命でもなければ二股など事実無根。

何故か先輩と交際する事になってはいるけれど、恋人の認識で良いんですよね?

既成事実作ろう運動が止んでる隙に体勢を戻してチラリと鳳巳を窺った。

「うん、間違ってないよ」

ホッとした。

漸く会話が出来る雰囲気を纏ってくれている。

ついでに服を着て頂けると有難い。

心配するふりで促せば従ってくれたので更にホッとした。

「昔から気になってたけど、竜崎は佐藤さんの何なの」

「えぇっと・・・生きる糧?ですかね」

「竜崎がいなきゃ生きていけないって聞こえるんだけど」

いや、そう言ってます。

断言してもいいものかと顔色を窺うが、誤魔化しても意味ないと考え直して肯定した。

「成程」

短く思考し納得したらしい鳳巳が頬に手を添えてきた。

誘惑を含んだ微笑に引き込まれる。

「君は俺のモノ」

その物言いは同時に「貴方は私のモノ」て事になるが解ってるんだろうか。

「好きだよ、佐藤さん」

とろりと揺れる瞳に狂気が薄れていてホッとした。

「とても好き」

代わりに紡がれる言葉の甘さに体温が上昇した。

顔が熱いので赤面露呈は確実です。

驚くべきは、彼の言動にこんな反応をした己である。





週末デート。

こんなに心踊るイベントがリアル降臨するとは人生分からないものである。

「ほら、佐藤さん、こっち」

ふらふら余所見歩きしていたせいか、鳳巳に手を差し出された。

これは、手を繋ごうとお誘いだろうか。

他にないわなぁ、と思いつつ大人しく手を置いた。

微笑まれた!

目が潰れる!

・・・鳳巳先輩の本気が怖い。

「佐藤さんは今日も可愛いね」

えぇ、貴方の方が可愛いだろう。

いや、格好いいが正しいけども。

「覚えてるかな、高校時代はこうやって一緒に並んで歩いたよね」

確かに鳳巳先輩とはよく一緒にいた記憶がある。

「手は繋いでなかったけどね」

「・・・先輩にはお世話になったと思ってます」

意外だと隠さず言動で示す鳳巳に笑ってしまう。

そんなにも彼等に酷い態度をとってたのか。

思い至らない時点で駄目人間決定ですよ。

「先輩のお陰で生徒会続けられましたから」

ありがとうございますと告げると暫しガン見されたものの、無邪気100%の笑顔で攻撃された。

なんたる貴重なスチルを、ありがとうございます!

「まあまあ好かれてたの知れて嬉しい」

「先輩は基本公平だったし悪感情を抱く要素は無かったです」

寧ろ、何故、彼が好意を抱いてるのか理解不能。

しかーし、否定出来ない好意に圧迫死しそうで恐ろしい。

「そのわりにバッサリ俺を拒絶したじゃん」

ムッと唇を尖らす幼い仕草にギャップ萌えですよ。

この人、ちょくちょく出してくるからキュンとする。

手繋ぎで歩いている状況がデートぽくて大いにときめいてます。

「その辺の話、ミィナから聞きました」

身に覚え無しで大変申し訳ありません。

良い機会だ、事実確認をしよう。

「私的には先輩を拒絶したつもりはありません」

「関係無いから踏み込むなって態度は拒絶じゃないの?」

「・・・心折れますね、普通」

「折れたから根に持ってんだけど」

おお、更にムッとした。

口調も乱れつつあって可愛いですなぁ。

「大体、何なの?何で俺は拒まれて、續木はミィナ呼びで親しげなわけ?」

「友達なので」

「知ってる」

いやいや、何故聞いた。

文句が言いたかっただけなのか。

「私、父親と拗れた関係なんです」

「うん?」

「そーゆー色々で追い詰められた高校生活でした」

「・・・モブとか王子発言はそのせいなの?」

「あぁ、いえ、えー?」

どうなんだろう。

要因は様々で影響は乙女ゲーム。

確かなのはそれだけで、よく分からない。

「佐藤さんのお母さんは早くに亡くなってるんだよね」

「はい」

「お母さんが生きてた頃はどんな子だったの」

「どんな・・・」

首を傾げてしまう。

思い出すには遠すぎて、漠然と幸せだったとしか分からない。

「全然覚えてません」

先輩こそどうだったのか問い返す。

「俺は普通」

いや、普通じゃない、絶対。

そもそも普通とは?

ならば私も普通だろう。

「佐藤さんはちょっと変わってると思う」

いやいやいやいや、貴方が言う?

チャラ男王子様ってだけでお腹いっぱいですよ。

幼少期が物凄く気になるじゃないか。

「何?」

「いえ、凄く可愛かったんだろうなと」

ガン見しつつ想像して納得していたら、またもや鳳巳先輩は真っ赤になった。

いやいや、何で?

自由な手の甲で口を隠しつつ、潤んだ恨めしい瞳で睨まれた。

いや、もう、乙女!可愛いかよ!

とどめにぎゅっと繋ぐ手に力が込められて、悶え死んだ。

呼吸再開までにまあまあな時間を要した。




週末初デート。

人目は気になったものの、ご飯は美味しかったし、手を繋いで歩く初体験も新鮮かつ楽しかった。

ただ、乙女鳳巳先輩には敵わない。

この日を思い出す時は真っ先に可愛い彼が現れて、その度に息を止めて悶える事だろう。

それはもう、仕事に支障をきたす破壊力を持っています。




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― 新着の感想 ―
[一言] 更新、凄く嬉しいです…!!! 今回もとても面白かった。 先輩可愛いです。身悶えしてしまいました。 話の作り方と展開が本当に癖になってしまいます。 いつまでも、応援しています。
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