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イケメンほいほい  作者: いけちぃ
共通ルート2
18/32

15




暫くして落ち着いた鳳巳と共に会場へ戻り直ぐ別れた足で食事を再開する。

デザートも豊富なので續木も連れてきたかった。

「今度はスイーツか」

またこの人か。

「何だ、その顔は」

「いえ・・・邪魔だなと思っただけなんで」

「なお悪いだろ」

「仕方ないですよね」

「何がだ」

そんな怖い顔で睨まれても意見は変わらない。

俺様専務様がいると落ち着けないので美味しい料理を堪能できないのだ。

迷惑以外の何でもない。

追い払う口実に鳳巳の名前を出したら空気が重くなった。

「一緒だったのか」

肯定しつつ、ついでにわが社の社長もいると指し示せば首を傾げられた。

太腿までざっくりスリットの入ったドレスを着た人だと教えれば硬直して暫く動かなくなった。

「待て、待て待て。男性じゃなかったのか」

「いいえ、男性です」

また固まった。

実は女性でしたの方が受け入れ易いから、まあ、当然の反応だ。

「表向きには社長の奥様って事で認知されてます」

「だったら何故バラすんだ・・・」

「私がドレスを着ない理由ですから」

ぐったりしつつ成程と呟いた専務様。

そんなに衝撃だったんだろうか?

あぁ、自分も初めて知った時は信じられなかったっけ。

こんなにもダメージは受けなかったけれど。

「よくあんな変人の元で働いているな」

「アレでも優秀なので」

「お前は、だから着飾らないのか?」

「すみません。それは単に女子力が乏しいからです」

麗しい人を前に本当に申し訳なく思う。

隣に並んでいる事がおこがましいくらいだ。

「いや、すまん。責めてるわけじゃない」

「本当申し訳ないので、離れてても良いですかね」

「おい、どっちが本音だ」

どっちもですが?

丁度いいから口実に使ってみたけれど許されなかった。

何でもかんでも距離を置く為の理由に利用するなと言われたが、そこまで解っていて何故執着するのか。

自分だったらこんな性格の悪い奴は御免だ。





今日は午後出社だったはずが何故こんな所にいるのか。

それは当然、押し掛けて来た真淵に担がれ連れて来られたからですよねー。

多彩なアート作品や画材などが置いてある事から恐らくはアトリエだろう。

部屋に放り込まれて数十分放置されていますが、帰っても宜しいでしょうかね。

戻って来たと思ったら・・・何ですかね、その抱えてらっしゃる物は。

シーツとか縄とか手錠とか、見えたんですが・・・それで何をするつもりだ。

「モデルになって」

そう告げられたのは拘束終了後。

手と足には手錠。

御丁寧にタオルを先に巻いてくれたので痕は残らないだろう。

手錠のチェーン部分に縄が通され、真淵ががっちり握り締めている。

「それが人に物を頼む態度か」

首を傾げたかと思えばふわりと微笑んで一言。

「頼んでない」

ああ、そうですか。

無邪気過ぎて物凄く怖い。

「外せ」

「嫌」

嫌じゃねーよ、このままでどうするつもりだ。

「脱いで」

色々ふざけるなと言いたい。

そもそも繋がれてどうやってだ。

手錠を翳してやればまたもや首を傾げて暫くそのまま。

何を思い付いたのか、嬉しそうに目を細めて近くに置いてあったハサミを手に取った。

いやいや、キミ、それで何をする気だ。

「来るなっ、側に寄るな!」

逃げる為に椅子から立ち上がると縄を引かれバランスを崩した。

前のめりで転んだじゃないか、この野郎。

「弁償する」

そんな問題じゃないんだよ。

腹立たしくて側で屈んだ真淵の顎を殴ってやった。

両手拳で下から思い切り力の限りに。

ビクともしない相手に舌打ちしたのは当然だ。

あ、泣き出した。

声も上げずに涙を流すの止めてくれ、罪悪感がわくじゃないか。

「カエデ、殴った」

うん、まあ、そうね。当然の報いですよね。

「嫌われた」

またそれか。

苛立って今度は頬を引っ叩いていた。

あまりにも綺麗に涙するから現実味を帯びない。

画面を通してスチルを眺めてる気分がどうしても抜けない。

椅子に座り直して溜息を吐く。

「外せ」

要求はあっさり拒絶された。

嫌われたと泣くくせに何故だ。

話にならないので放置しようと決めた瞬間、布を切る音がする。

視線を下げると腹から切り裂き上がって来るハサミとそれを持つ真淵が目に映る。

唖然としてる間に前は全開。

しかも下着まで躊躇なく切られた。

肌寒さと込み上げる羞恥心に耐えられず身を捩って逃れようとしたけれど当然無意味だった。

バランスを崩して床に転がる羽目になっただけ。

もう、これ、どんな体勢でも上半身を晒す事になるんですけど。

とは言え堂々晒す気はないので俯せになるが、真淵に腰を持ち上げられて失敗したと思う。

背中に覆い被さって来た真淵の片腕は腰に巻き付き、もう一方の手は難無く晒された胸に伸ばされたからだ。

掌全体でゆっくり丁寧に触れられる。

抵抗しようにも押え込まれてビクともしない。

徐々に意識が恐怖に塗り潰されていくのが解る。

「っ、祥・・太っ!や、止めっ」

あの日の記憶も蘇り混乱しそうになるのを必死で止める。

それよりも今、真淵を何とかしなければ。

「こ、怖いっっ、祥太!怖い!!」

他にも色々叫んだ気はしたけれど、ピタリと動きが止んだ。

背中に張り付いていた体温が離れて体が宙に浮いた後、首を傾げる真淵の膝の上に座っていた。

切られた服を寄せて一応肌は隠す。

「怖いの?」

どうしてだと言わんばかりにハテナマークを浮かせる真淵に何度も頷く。

「どうして?」

お前に襲われたからだよ!

と、怒鳴っても通じないだろう。

こいつにはそんな意識がないからだ。

「無許可かつ強制的にされたから」

冷静にと念じながら答えた声が震えてしまう。

「・・・イヤ・・・?」

「物凄く嫌」

即答してやった。

どれだけ怖いのか身を持って体験して欲しいくらいに腹立たしい。

自由人だからと諦め許せたのは服を切った所までだ。

・・・いやいや、どんだけ許容してるんだ、自分!

普通は拘束された時点で駄目だろう。

「触りたい」

「嫌です」

ならばどうすれば良いの?

と首を傾げ、仕草と表情で問うて来る辺り真淵らしい。

いつもなら折れてましたとも。

今回は笑い話にもならないが。

「出来る事なら二度と会いたくない」

顔色が一瞬で変わった。

手早く手錠を外し、シーツで全身覆ってくれた。

しかも泣きそうな顔で苦しげに謝った。

あの真淵が「ごめんなさい」と言ったのだ。

「カエデ、嫌わないで」

懇願までされて驚きのあまり反応出来ない。

自由奔放な真淵は何事にも囚われない。

人もそうだが発想もぶっ飛んでいる。

それが自分から見た真淵だ。

そんな男が何故自分などに縋っているのか全く理解できない。

と言うか、頭が正常に機能していない。

「ごめん。ちょっと、」

冷静になる時間が欲しいと続ける前に物凄い強さで両肩を掴まれた。

痛い。骨が悲鳴を上げている。

抗議するべく相手を見て勘違いされていると気付いた。

「違うって!拒絶じゃないから!!」

嫌わないでの返事が「ごめん」なら、そりゃ誤解されて当然だ。

瞳を潤ませながら情けない顔をしているくせに掴んだ手は緩む気配が無い。

これは脅迫じゃないか。

意に沿わないと武力行使だと、そういう事だろう。

何てえげつない野郎だ。

「冷静に考えさせろ」

「・・・嫌わない?」

「あー、はいはい、嫌わない。離してくれたら嫌わない」

適当かつ投げやりだったが無事解放された。

この子の思考はさっぱり分からない。




客観的に考えて、真淵に下心無しとの結論に至った。

他は自由人だからで全て片付いてしまったので、唯一の問題点を検討したのだ。

取り乱したのは襲われたから。

襲った側にどんな意図があったのか?

最初のお願い通りにモデルの強制だろう。

となれば襲われた前提が変わってくるわけで、怯えた己が滑稽にさえ思えてしまった。


鳳巳の一件で過敏になり過ぎた。

いやいや、あの状況なら当たり前だろ。


との自問自答を繰り返し面倒になった。

相手は真淵だし、もう良いやと。

それを見計らったように現れる真淵に流石と感心してしまう。

ふらりと職場に訪れ気ままに連れ出す強行をしなかったから、貴重な休憩時間を割く事にした。

「何の用」

自販機の甘ったるいココアを持ったまま背を丸め座っている様で明らかに落ち込んでいると判る。

こんな真淵を見るのは高校以来だ。

あの頃はヒロインに一喜一憂して、それでもよく笑ってた気がする。

まあ、正直、お菓子あげれば容易い子としか見てなかったけれど。

2人分空けて横に座ると泣きそうな顔でこちらを見て来る。

口を開いて、結局何も言わずにぎゅっと口を引き締める。

おぉー、凄く我慢してますねぇ。

「嫌われてないか、確認しに来たの?」

「・・・カエデ、嫌わないって言った」

「あぁ、まあ、言ったね」

ならば何しに来た?

と聞いたら更に落ち込むだろう。

これ、笑ったら駄目だろうか。

あんなにも人を振り回していた奴が、たかが自分なんかの言動でこうもしおらしくなるとは。

数秒後には吹き出して大笑いしたので無駄な葛藤だった。

そりゃ真淵もきょとんとするだろう。

戸惑い不安に瞳を揺らしながら笑い終わるのを待っていたので、とりあえず謝っておいた。

「嫌っても怒っても無いよ」

告げると恐る恐る距離を縮めて来た。

顔色を窺いながら隣へ納まった真淵は安堵の表情で笑う。

ぎこちなさは残るけれど、いつものふわふわとした柔らかな笑顔だ。

「カエデ、触っていい?」

おい、ついさっきまでの反省は何処に行った。

待てを覚えただけ良しとすべきか。

当然お断りしたが、眉を下げ落ち込んだだけで強行しなかった。

今までを思えば相当な進歩だ。

相互理解を深める手段を手に入れたと言ってもいい。

「カエデ」

視線を向けて気付く。

近い、物凄く近い。

膝と肩が触れ合ってるくらい近い。

押しやる前に真淵が胸に倒れ込んで来た。

「重い!」

「眠い」

いやいや、知らねぇよ。

ずるずる下がっていく真淵に膝枕を提供する事になった。

「・・・おやすみぃ・・・」

甘えを含んだ声を最後に眠りに落ちた真淵。

捨て置いて行こうかと考え、手付かずのココアが置かれているのを見て溜息を吐く。

休憩時間中はこのままでいよう。

ふわっふわな髪を撫で回して堪能したら放置すればいいだけの事だ。








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