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イケメンほいほい  作者: いけちぃ
共通ルート2
17/32

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立食パーティー万歳。

今日は社長のお守りから解放されて美味しい物を食べられる。

何て素晴らしい日なんだろう。

一張羅のスーツで気配を消してひたすら食べる。

ああ、物凄く幸せだ。

「おい」

一通り挨拶は済ましたし、普段も黒子秘書なので自分の顔を覚えている人間など極少数だ。

声を掛けられる心配もない。

「無視するな」

突然肩を掴まれて皿を落とす所だった。

力付くで振り向かされたのもあって料理が零れていないかも心配だ。

「本当にいい度胸だな」

「うわぁ、俺様専務様だよ」

「何だと?」

口を押さえたかったが塞がっているので不可能。

油断が過ぎた。

「えーっと・・・桐山さんもいらしてたんですね」

「お前、まさかとは思うが名前を思い出してたんじゃないよな?」

とんでもないと頭を振って否定する。

そのまさかですとは口が裂けても言えない。

「まあ、いい。社長は一緒じゃないのか」

「此処で落ち合う予定です。多分、その辺にいると思いますよ」

「秘書だろ」

「いざって時の保険で来ただけです。今日はただ飯が目的です」

残念な物を見る目をされた。

そりゃそうですよねー。

自分でもこんな女がいたら同じリアクションをとるだろう。

「大体何だ、その服装は」

ドレスコードなんてあっただろうか?

ちゃんと正装して来たつもりだが。

「もっと着飾って来い」

「はあ、精一杯しましたよ」

「ドレスは無いのか」

「あぁ、はい、着ません」

「着ろ」

「嫌ですよ。社長がいるのに着たくありません」

惨めになるのは確実だ。

何故って顔をしているが、その内分かる。

社長が現れたら憐れみを抱いて納得するに違いない。

説明したくないので黙秘を貫く事とする。



何故か隣を離れない専務様の元には代わる代わる人が挨拶にやってくる。

空気を読んで離れようとすると睨まれるか巻き込まれるので大人しく食に専念した。

「どれだけ食べる気だ」

「帰るまでですが何か」

「もういい」

左様で。

失望が見え隠れしたけれど、考えると不愉快なので無視だ。

「おい」

まだ何か用ですか。

「鳳巳とはどうなんだ」

いきなりで随分不躾ではないだろうか。

腹も休めたいので一度皿を置く。

隣の俺様は会場を眺めたまま、こちらに視線を向けては来ない。

「どうもしてません」

「そうか」

会話終了の為、席を外して会場の外へ出た。


有名一流ホテルだけあって非常に広い。

トイレに行きたいが迷子になる自信が有るので従業員に案内してもらった。

だから当然、帰り道に困りましたとも。

現在進行形でうろうろしてましたよ。

肩を叩かれ声を掛けられるまで。

「やっぱり佐藤さん」

「鳳巳先輩」

「こんにちは。期待してたけれど、本当に逢えるなんて運命だね」

大袈裟すぎだ。

確かに一般人な自分ではパーティー自体が不釣り合いだが、運命感じるほど低い確率とも思えない。

あの無駄に顔の広い社長の秘書なのだから。

「今から向かわれるんですか」

「まぁね」

「・・・良ければご一緒しても?」

下心満載なのに驚いて直ぐ頬を緩める鳳巳に罪悪感が疼く。

迷子なのでお願いしますと素直に言えば良かった・・・



この人、まじイイ男!

紳士でエスコートに長けていて会話術も完璧。

たった数分隣にいるだけなのに、お姫様気分に酔わせてくれる。

魅惑的な美しい男にそんな風に扱ってもらえたら、そりゃもう最高に優越感で満たされるね。

惚れるっつーの!

リアル王子様!

いやぁ、恐ろしい・・・泥沼に片足突っ込んだ。

「どうかした?」

「いえ、物凄く丁寧に扱ってもらえて心が揺れてるだけです」

ぐったりしながら正直に話したら思い切り吹き出された。

フェロモンの欠片も無かったけれど少しだけ安堵する。

これ以上続いていたら間違いなく鳳巳に堕ちていた。

「ほんっと!佐藤さんて最高っ」

見苦しくない程度で笑いを抑えながら目に涙を浮かべる鳳巳。

この人も俺様も笑いのツボが全然解らない。

まあ、好都合なので構わないが。

「そういえば今日は1人なの?」

一頻り笑って落ち着いた鳳巳の質問に違うと頭を振る。

連れの社長の所在を聞かれたので、丁度視界に入った美女を指す。

好色ジジイ共から無遠慮な視線に晒され、それでも物怖じしないスタイル抜群の露出狂妖艶美女を。

一晩お相手願いたいと男なら誰もが思うエロい肢体だよなぁ、とか考えていたのがバレたのか鳳巳は眉を寄せていた。

「佐藤さんてさぁ、レズだったりする」

「はあ、そんな性癖持ってませんねー」

「でも今あの人を嘗め回して見てたよね」

あぁ、それが本当なら完全にアウトだ。

ちょっと凹むと何故か頭を撫でられた。

「冗談だよ」

「いえ・・・オッサンの自覚はあるので以後気を付けます」

「誇張して言い過ぎただけだって。落ち込まないの」

ね?と目を合わせ微笑されれば赤くなるのは当然。

またもや色香に惑わされて急いで視線を下げる。

「お、珍しい反応」

愉しげな声にまで動悸が乱れるのだから本当にヤバい。

冷静になろうとした所へ空気が騒がしくなるのを感じた。

「何で・・・竜崎」

鳳巳の呟きで顔を上げ納得する。

今回の同伴者は竜崎なのか。

こちらに歩みながら優雅に手を振る女装装備の社長に完敗な己をどうかと思う。

色んな感情ごちゃまぜで溜息を吐けば僅かに遅れてやって来た竜崎に笑われた。

無精髭を剃って身形を整えると彼もやはり一級品だ。

「何処にいたの、随分捜したわ」

食べ過ぎてトイレに行って迷子になりました。

などと流石の自分でも言い辛い。

「綺麗な男まで連れちゃって」

意味有り気に社長が竜崎に視線を流す。

つられて見れば目が合って、瞬き後に竜崎の腕の中にいた。

何故だ。どんな早業だ。

離れようにも肩にガッチリ腕が回っているので無理。

そもそも不快ではないので抵抗する気も無い。

「あぁ、久し振りのナマ楓ー」

「るぅちゃん、言い方」

ちょっと何でか卑猥に感じて嫌だ。

「しかも煙草臭い」

「ははっ、すまんすまん」

「軽い!心籠って無い!」

「怒るな怒るな」

「怒って無いよ、呆れてるだけ」

「はははっ」

本日は非常にご機嫌だ。

解放も早かったから近くでじっくり眺める。

「ん?」

大人の色気満載だよなぁ、格好良い。

「惚れ直したろう」

正しくその通りなので頷いた。

竜崎は嬉しそうに頭を撫でてくれるので大人しく感触を追った。

この人に撫でられるのは心地良くて好き。

「もういいでしょ」

社長がご機嫌斜めだ。

竜崎に一瞥されて怯んだが引き下がる気配はない。

人目を考えろと言っているけど、その言葉、そっくりそのまま投げつけてやりたい。

「もういい。どうせ聞いてないんでしょ」

「ははっ、だったら止めとけよ」

「お前が止めればいいんだよ!」

珍しく声を荒げた社長に腕を引かれる。

同時に竜崎へ蹴りを入れてる強者振りに少し尊敬した。

本当に2人は友達なんだとも思う。

それで思い出した。

「あ、先輩、すみません」

忘れていたわけではないが、意識を向ける余裕は無かったので非礼を詫びる。

「全然いいんだけどね、聞きたい事はあるかなぁ」

でしょうね。

「コレは竜崎だよね」

「はい」

「あんまり聞きたくないんだけど、コレとはずっと続いてたわけ?」

「えーっと・・・はい」

敵意が伝わってくるので下手な事は言えない。

偽ったりはしないけれど、言葉は慎重に選ばないと恐ろしい結末が待ってる気がする。

「男性経験ゼロに嘘は」

「無いです」

張り詰めた空気が緩む。

「正直だなー、楓」

「るぅちゃんは黙ってて」

明らかに挑発しているし、一々反応しそうだから面倒だ。

ここは社長に連れて行ってもらおう。

視線を向けると竜崎の腕に手を回した社長。

こんな時は何て話の分かる人なんだろうと感心する。

「帰る時は連絡しなさい」

「はい。るぅちゃん、また今度ね」

ひらひら手を振ってエスコートに徹する竜崎にも感謝だ。

拗れた人間関係を修復できる器用さが無いと、あの人は知っているから大人しく引いてくれたのだ。


「ご質問は?」


鳳巳との会話に集中したくて再び会場を出る事にした。




相関関係を簡単に説明した後、未だ首を捻ったままの鳳巳。

何が納得いかないと言うのか。

「佐藤さんとこの社長に見覚えが・・・」

成る程。当然だ。

だってあの人も同じ頃に高校にいた。

自分が入り浸っていた保健室の先生として。

説明するとすっきりした顔をしていた。

「じゃあ、竜崎と社長は恋人か何かだったり」

「ではないです」

「やっぱりねー。センセ、佐藤さんラブだったしぃ?てか現在進行形だよね」

「はあ、そうですか」

「どう見てもそうだよ」

否定しようもないので沈黙。

鳳巳も掘り下げる気はないようなので、そろそろ戻ることを提案する。

自分と違って彼は仕事の一環で来ているだろうから。

「このまま一緒に帰るって言うのは?」

「はあ、まあ、構いませんよ、私は」

食べに来ているだけなので。

言外にお前は無理だろうと含ませたので彼は苦笑で返してきた。

「いい加減、ちゃんとしたデートがしたい」

お姫様体験をした今なら思う。

この人ならきっと女性が思い描く理想のデートを実現してくれるに違いないと。

「先輩に想われる人は幸せですね」

真っ直ぐ目を見て告げると数秒後に真っ赤に染まる鳳巳がいた。

それはもう、ボンッと音がしたんじゃないかって勢いで。

「えーっと・・・何事ですか」

「佐藤さんがそれを聞くの」

口元を手で覆い隠す様や弱弱しい声で相当ダメージを負っているのが判る。

そっとしておくのが親切心だろうか。

「先に戻っていいですか」

聞きながら足は既に会場へ向かっていた。

未だ動揺したままの鳳巳に腕を掴まれなければ、勿論一人で戻って再び料理を平らげていた。

「付き合って」

その様で凄まれて、ごめんなさい、可愛いとか思ってしまいました。

チャラ男先輩の面影は何処に?

警戒しまくって怯えていた自分は一体何処に消えた?


あぁ、恐ろしい。

お姫様商法、心の底から恐ろしい。





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