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イケメンほいほい  作者: いけちぃ
分岐ルート
11/32

11のいち





休業日だからと約束を取り付け、大量のアルコールと共に彼の自宅へ押し掛けた。



到底素面では話せない。

故にお酒の力を借りた訳だが、どう切り出していいものか分からない。

襲われそうになりました。どうしたらいいでしょう?

いやいや、そうじゃない。

問題はチャラ男先輩が想像以上に自分に執着してる事だ。

それをどうしていいか分からない。


「ミィナ、聞いていい?」

様子がおかしい事にきっと気付いてたんだろう。

黙って待ってくれた續木は目で頷き先を促す。

「鳳巳先輩が暴走気味なんですが、どうしていいか分かりません」

「・・・暴走・・・?」

「話が出来ない状況に陥りまして。そんな時はどうすべきでしょう」

「・・・どんな状況?」

「・・・・・車中で押え込まれた状況」

正面に座る續木の表情が一気に強張った。

物凄く恐ろしい顔をして睨んでる睨んでる!

場を和ませたくてへらりと笑ってみたけれど、空気がピリ付いたので更に怒らせたらしい。

「どうして」

「うん?」

「・・・付き合ってるのか」

「いやいや、付き合ってません」

否定の言葉で續木の表情が曇る。

これは、つまり、付き合ってないならどうしてそんな状況になったのかを説明しろと。

そういう事だろう。

「この前は最初から機嫌悪かった」

「理由」

「あぁー・・・振り回してくれるな的な事を言われた気がする」

色々ぶっ飛んだ所為で曖昧ではあるけれど、思い出せる限り正確に出来事を説明した。

出来る限り感情を挟まないよう気を付けて。

結果、彼は地の底まで落ち込みどんよりしてる。

何故だ。

怒りは何処へ行った。

「大丈夫?」

反応が無い。

俯いている為、表情も窺えない。

「・・・楓が悪い・・・」

かなり待った挙げ句の一言は重かった。

気付いたら正座してるくらいに緊迫している。

「軽率で不誠実」

「は、はい。すみません」

「・・・謝るな」

無理です。

酷く傷付けてしまった気がするから。

なんか、こう、こんな子に育てた覚えは無いのに何故・・・的な自己嫌悪に近い空気が漂っているのだ。

謝りたくもなる。

「楓は・・・された事の意味を解ってるのか」

「・・・・・知る必要あるんだ」

思わず漏れた言葉だったが、續木に頬を叩かれた。

と言っても触れる程度の優しい物だけれど。

責める視線と行為で愚かしい事を口にしたと伝わった。

「どうして・・・気にならない」

どうもこうも無い。

他人から向けられる感情は全て自分を通り越して別の誰かに向いてるのだから。

そうと分かっていて相手を慮る事の馬鹿らしさ。

傷付く己の惨めさ。

苦しくて滑稽だと気付いた瞬間から認識を改めたのだ。

自分に関係ないのだから気になるわけがない。

「楓にとって俺は何」

「恩人で親友」

「俺が好きだと伝えたら」

「嬉しい。物凄く嬉しい」

「・・・異性としてでも・・・?」

口を閉ざしてしまった。

考えた事がなかったから。

彼と自分は舞台が違う。

今でもそう思っていた事実に気付かされる。

「楓はずっと変わらない」

哀しげな瞳を前に言葉が出て来ない。

親友だと告げながら自分がしていたのは拒絶だ。

傷付かない距離で彼を利用し続けて来たのだ。

自覚もないと来た。

「責めていない」

そんな言葉まで掛けさせて、一体何様だ。

「甘んじて来た。追い詰めなければ楓は傍を離れないと知っていた」

違う。

彼はそうしないと知っていたから傍にいられたのだ。

「・・・楓・・・」

伸ばされた手が頬に触れ目尻を辿る。

何度もそうされて續木が涙を拭っているんだと気付いた。

ああ、卑怯にも泣いているのか、自分は。

身を引いて續木の手から逃れた。

「思い出したくなかった」

人の想いと向き合う事など。

幸福だった時など遠い昔過ぎる。

有るのは痛みと恐怖だけ。

今更引き戻して欲しくなかったのに。

「俺は・・・嬉しい」

續木にしてきた仕打ちと後悔、愚かな己への怒り。

自覚と共に押し寄せる痛みで思考がぐちゃぐちゃになる。

「やっと俺を見てくれる」

低く響く声と微笑みを向けられた途端、涙は溢れて止まらなくなる。

情けない事に子供のように泣きじゃくって最後は寝落ちした。






目が覚めて最初に感じたのは違和感。

直ぐに頭痛が襲って来て違和感など忘れてしまったが、それがいけなかった。

泣き過ぎて瞼が重いし体も怠い。

頭もぼやけて兎に角全てが鈍くなっている。

だから、気付くのがかなり遅くなった。

「おはよ」

耳元でする声と主に左半身から接して伝わる体温。

一気に脳が覚醒した。

「翔太!何してんの?!」

「抱っこ」

「ミィナは?」

「知らない」

いやいや、不法侵入したのか、お前は。

って、そうじゃない!

この体勢!

真淵の膝に乗ってるし、横抱きにされてるし、何なの、この羞恥プレイ!!

そりゃ体温も感じますよ。

ピッタリ密着してるんですからね!

意味が分からん!!

妙な生々しさに耐え兼ねて降りようとしたが真淵の腕が巻き付いて来て動けない。

「痛くない?」

「はあ?状況の事言ってんならイタいに決まってる」

「カエデ、泣いてた」

言葉を詰まらせたのは記憶の最後が号泣する自分だったから。

「だから抱っこ」

ふわふわの髪同様に柔らかく笑う真淵に言いたい事を理解した。

つまりは寝落ちしても泣いていたらしい。

それを見てこの様に抱いたら泣き止んだと。

人肌に飢えてるのか、自分!

引くわー・・・浅ましくて普通に引く。

「降ろせ」

「イヤ」

嫌じゃねぇよ。

「寝顔、可愛い」

「うわぁ、悪趣味ですねー」

「掴んでた。ぎゅって」

「・・・・・・」

示された胸元の衣服が皺になっている・・・もう、最悪だ。

園児じゃないのに何やってんの?

「目、真っ赤。腫れてる。面白い顔」

はいはい、生まれてずっとこの顔ですが何か。

イケメンに何言われても敗北しかありませんよ。

「可愛い」

額に柔らかな感触と温もり。

「可愛い、カエデ」

また同じ感触。

考えずとも額にキスされてると判る。

見上げた真淵はニコニコしているが、こちらは笑えない。

「・・・二度としないで」

きょとんとし瞬きを数回。

ふわふわの髪を左右に揺らして「イヤ」だと言い切りやがった。

それはもう、見惚れる位の愛らしい笑顔でね。

今までなら絆されて自由人相手だからと諦めていた。

胸がざわついても主役級イケメンだから当たり前だと考える事を放棄してた。

これ以上、自分を軽蔑したくない。

だから、お願いだから、優しく髪を撫でないで欲しい。

「いい子、いい子」

いい子は人の気持ちを無視して利用しない。

「一緒だから、怖くない」

「・・・傷付きたくない・・・」

「可愛い。オレの」

いえ、違います。

ぎゅうっと強く抱き締める真淵の心を知るのが恐い。

知りたくないから抱き締めるのもキスも全部して欲しくない。

「オレの。カエデ、オレの」

熱のこもった言葉も、向けられる瞳もいらない。

「聞きたくない」

「可愛い、可愛い。オレの物」

耳を塞ぎたかった。

実際そうしていたのかもしれない。

気付いたら誰かに腕を引かれて真淵の拘束から逃れていた。

あぁ、やはり助けてくれるのはいつだって續木だ。

「弱みに付け入るな」

「ミナ、邪魔」

「・・・楓が冷静になってからにしろ」

「好機。バーカ」

「・・・巫山戯るな・・・」

ムッとしている真淵とピリ付いている續木。

滅多にお目にかかれない光景だけど観賞して楽しむ余裕無しだ。

原因が自分なのに喜ぶ悪趣味は無い。

しかし、これってどう収めれば?

私の為に争わないで!

的な脳みそお花畑発言するべきなのか?

嫌だ、絶対嫌だ。

「あの~・・・お腹空いたので食事しても良いですか」

悩んだ末、現実的に己の現状を加味して伝える事にした。

ええ、ええ、分かっていますとも。

2人して空気読めよな的な視線を注がなくとも!

色気も何も無くてぜーんぶ台無しにしたのも分かってますよ!

分かっていても、それしか無かったんですよ!



どうせ恋愛経験ゼロですから。

やっと彼等の好意に気付くような最低野郎ですから。

格好付けれるかっての。

今更なんで今回は彼等に諦めてもらう事にした。







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