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イケメンほいほい  作者: いけちぃ
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休みが欲しい、長期の休みが。

冷静に考える時間が無いと取り返しの付かない事態に陥る気がする。



「ですから有給休暇頂きます」

「却下」

「申請済みの処理済みです」

「処理済みって、許可した覚えないから」

「当たり前です。無断で決行しましたから」

糞社長の秘書を長年勤めて来たのだ。

あらゆる手段を熟知している。

当然、社長を出し抜く事も容易い。

「・・・何かあった?」

「美形に襲われました」

「は?!」

そんなに驚く事なのか。

「未遂ですけど」

今度はへなへなと机に突っ伏した社長。

落ち着きない人だわー。

「驚かせないでよ」

「そりゃすみません」

「アンタ、隙が多いんじゃないの!」

「そうですかね」

今度は怒っている。

忙しないなぁ、こんな時は面倒だからスルー。

「それで、それと休みとどう関係してるの」

「仕事に忙殺されて嫌な流れを招きそうです」

「ふーん。色気づいちゃって」

「これ、そんなに楽しげな出来事なんですか」

恐怖と混乱しか感じなかったけれど。

そういう物なのか。

納得していると社長は何故か焦って訂正を入れて来た。

決して楽しい事ではないと。

危険な事なので男とは2人きりになるなと。

如何なる相手でも己が女である事を忘れるなとまで言われた。

最後に失言だったと謝罪までされたが、どうでもいいので殆どを聞き流した。

「とりあえず3日間、連絡しないで下さい」

「分かったから携帯の電源は入れておきなさい」

「はいはい」

勿論、電源は切りますとも。

疲れ切った社長を尻目に社長室を出てデスクに戻る。

休みの間のスケジュール調整はきっちり今日中に終わらよう。

呼び出す理由を徹底的に潰して心置きなく休日を過ごさねば。




終業時間が迫って同僚達が帰宅する中、会社へ戻って来る人物がいた。

最近では外出が多くなってあまり遭遇しなくなった鬼畜弁護士様だ。

「楓さん、また残業ですか?」

何故だろう。

時間内に仕事も終わらせられない無能がと罵られてる気分になるのは。

「・・・お疲れ様です」

「まだ掛かるのですか?」

「・・・はい・・・」

側に来た気配はするけれど顔を上げられない。

パソコンへの打ち込みを理由に無視していたけれど、いつまで経っても傍らにいる。

自分のオフィスへ行けと念じてしまう。

「急ぎでないのなら明日にしたら如何です?」

「休みなので」

「そうなのですか?聞いていませんが」

「まあ、言ってませんから」

チラリと視線を向ければ眉を寄せ不愉快げだ。

うん、そんな顔される理由が無い。

「一言あって然るべきでしょう」

鼻で笑ってしまった。

「何です、その態度は」

何ってアナタ、そちらこそだ。

「知らず弁当を作る所でしたよ」

「それでしたら結構ですとお断りしてます」

「僕の手料理を好きなのでしょう?」

それは否定しない。

だが、食べたいと懇願してるわけじゃない。

普段は社長について行動している為、会社にいる事の方が少ないが定期的に狙ったように彼は重箱と共にやって来る。

しかも人が居ない時ばかりなので断る口実も無い。

そんな訳で餌付けをされ続けている。

「休みだと言うなら作りに行って差し上げますよ」

「は?いやいや、結構です」

「遠慮なさらず」

遠慮じゃない!

笑顔で押し通そうとしているが断固拒否である。

「1人になりたいので邪魔しないで下さいよ!」

「邪魔?僕がですか?頭は大丈夫ですか」

「・・・・・」

もう、本当勘弁して下さい。

この人の絡み方にはストレスしか感じない。

「飯沼さん」

「何です、気が変わりましたか」

さも当然だと言いたげな態度は彼だから許される。

「変わりません」

「我が儘ですね。全く、貴女の気が知れない」

あぁ、言葉が通じない。

溜め息1つで諦めた。

「話を続けるなら私に惚れてると見なしますよ」

「それの何が問題なんです」

「頭が問題です」

「心配してくれるんですね。確かに、貴女に惹かれているなんてどうかしてます」

その通りだが言葉にしてくれるな。

もう仕事所じゃない。

帰ろう。

即刻帰り支度を始めよう。

これ以上この人の毒にやられると理性が崩壊しそうだ。

「帰るんですか?結構。では食事に行きましょう」

聞こえない。何も聞こえない。

コンビニでも寄って食料を調達しよう。

「荷物をお持ちしますよ」

さり気無く鞄を奪おうとする弁護士様より早く身を引き立ち上がる。

美しい微笑が追い掛けて来るが恐ろしい。

全くこれっぽっちもときめかないのは苦手意識が根強いからだろう。

「楓さん、置いて行かないで下さい」

一緒に行くなんて言ってません。

「以前お話しした和食のお店はどうです?」

「・・・飯沼さん、お願いします。1人にさせて下さい」

「それは1人になりたくないと言う事でしょう。傍にいて欲しいと懇願してるんですか?」

してねぇよ。

こいつ、この鬼畜弁護士、脳内変換機能が正常に作動してない。

「構いませんよ。いくらでも一緒にいて差し上げます」

「いえ、本当に!言葉通り受け取って下さい」

「ふむ。仮に言葉通りの意味だったとして、僕が貴女に従う必要がありますか?」

えー・・・つまりこちらの意思は関係ないと?

「私が貴方を受け入れる必要も無いかと思いますが」

「ええ、その通りです。拒絶しても構いませんよ、勿論。僕としては合意があればより良いと言うだけですからね。貴女の選択肢はふたつ」

2本の指を上げて目を細める飯沼からの提案。

「ひとつ、僕と和食のお店に行く。ふたつ、実力行使の元、貴女の部屋で僕の手料理を食べる。どちらでもお好きな方を選んで下さい」

正気の沙汰とは思えない提案に逆らう事など出来ない。

チャラ男先輩の一件があるからだ。

今までのように自分は蚊帳の外なんだと考えは改めなければ。

それを除いたとしても、彼等は誰もが有言実行なのだ。

特にこの人は、異性に対して誤解を招く言動をそもそもしない。

つまりは本気だと言う事だ。

「わ、和食の店でお願いします」

「ええ。楽しみですね」

「・・・・・はい・・・・・」

鬼畜弁護士様の笑顔に屈した。

最悪の最善が合意する事だけとは。

相当ダメージを負っていたんだと、この時、正確に把握した。






ひたすら勉強・仕事漬けの日々で楽しみと言えば映画鑑賞と乙女ゲームだけ。

何て色気のない人生か。

ちょっとした人間不信で付き合いも最小限に止めていた所為で今回の事態を相談出来る友人もいない。

結局頼るのは彼しかいないのだ。

それが危険を招くと分かっていても。



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