親父の誤算
「こら、親父!元に戻せ!!」
俺は動くたびに揺れる2つの膨らみ、視界を邪魔する髪の毛に違和感を感じつつ親父に食って掛かる。
「ふははははははは、斗真よ。女になった程度のことでわしを捕まえられんとは、お前もまだまだだな」
「うるせー!」
確かに女の細い体じゃ、腕力も脚力もいつもの半分も出せていない感じがする。
格闘家親子の俺と親父。
最近俺が自分の強さに慢心しているとか何とか言って、親父は太古の秘薬を使って俺の体を女に変えちまいやがった。
しばらく非力な女の体で万全じゃない状態の時の闘い方を学べだと!?冗談じゃない。あの親父の性格からして、最近俺に対して負け続きだったことへの腹いせに決まってる!
元に戻る薬は親父がどこかに隠しており、男の制服も捨てられてしまった俺は、仕方なく用意されていたブレザーにチェックのスカートの女子の制服で高校に向かった。
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「・・・・と、いうわけで、今日から斗真くんは女の子になりましたー」
担任の百合先生がこともなげにクラスのみんなに説明する。
このあっけらかんとした性格。もはや腹を立てる気にもならない。
というか、それどころではなかった。昨日まで男として通っていた学校にスカート、ハイソックスを履いて女の姿で現れなければならないこの恥辱!何と表現できようか!
「と、斗真・・・です。よ、よろしく・・・・」
恥ずかしさで耳まで真っ赤に染めて、うつむき加減でペコリと頭を下げる。
うーん、クラスメートに目を合わせられないよ。
しばらくの沈黙が流れる・・・・・。
な、なんだ。みんなどんな顔してるんだ。
落とした目線をおそるおそるあげてみる。
チ、チラッ。
「かわいーーーーーーーー!!」
第一声を上げたのは女子の西野だった。
か、かわいい?
「ほんとにこれがあの斗真くん!?きゃーーーーーー」
「でかしたぞ!斗真ーーーー!!」
「結婚してくれーー!」
「うおーーーーーーーーー!」
教室内が大歓声に包まれる。
その朝のHRは大盛況で幕を閉じた。
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俺が、かわいい・・・・?
その晩家に帰った俺は、今まで恥ずかしくてろくに見られなかった自分の姿を鏡でまじまじと眺めた。
確かに・・・・か、かわいい・・・・か、な。
自然と口角が上がってくるのを抑えられない。
試しに微笑んでみる。
ニコッ・・・。
「・・・・・・・・・・・・」
俺の中で、何かが目覚めた。
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1か月後。
「な、なんだ斗真!?髪なんか編んで」
「べ、別にいーだろ親父。あた・・お、俺は今は女なんだぜ?クラスの女子たちが女の子なんだから綺麗にしろって言うからさー」
「てか、お前はじめはあんなに嫌がってたスカートも、最近は家でもよく履いてるじゃねえか」
「適応だよ、テキオー。俺だって慣れない生活でこれでも頑張ってるんだからな!」
「お、おう。悪かった。そーか、ならいいんだがな・・・・・・」
親父はこの時気づくべきだったのだ。息子(娘?)の部屋に、小物やらぬいぐるみやら、女の子の持ち物がものすごいスピードで増えていっていたことを。
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更に2か月後。
「お願いだ!このとーり!!斗真ちゃん、男に戻ってくれ」
「いやよ、あたし。もう女の子として生きていくって決めたの」
「そんなぁ!小さいころに俺と誓ったじゃないか!!世界一の格闘家になるって」
「格闘技なんて、そんな汗臭いもの誰がやるもんですか。あたしは女の子として生きてるほうが楽しいの。元に戻る薬もこないだあたしが全部捨てちゃったし、いい加減あきらめたら?」
「そんな殺生な!」
「じゃああたし、今から彼氏とデートだから。じゃあねパパ。こないだみたいについてきたらぶっ殺す!」
メイクをばっちりきめたあたしは鼻歌交じりで愛するカレの元へ向かっていった。
玄関先で途方に暮れる親父。
その夢は完全に潰えた。
「あ、でも、男の子の孫うんでくれるかもよ?」
親父にどこからか天の声がささやく。
「い、いやだああああああああああああ!!」
親父の叫び声が町中にこだました。
<END>