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彼女は人生のすべてを謳歌している。いま、この時しかない美しさが集約され、ためらいも、戸惑いもなく、ただあるがまま咲き誇る薔薇のように。
そんな彼女を前に、私は、自分がエフェメラのような存在であることを思い知らされる。
手紙を書こうと思い、ライティング・デスクの引き出しを開けると便箋は一枚を残すのみだった。私は自室を出て、お祖母様に便箋を分けていただくべく居間を横切ろうとした時、ビクトリアがロビーにいた。台の上で腕を左右に広げる彼女の寸法を、仕立て屋さんが測っている。私の視線に気づいたビクトリアは勝ち誇った笑顔を浮かべる。何も見なかったように私は視線を前に戻し、お祖母様の部屋へ向かった。
「お祖母様、私です。いらっしゃいますか?」
部屋に着いた私はドアをノックして言った。
「お入りなさい」
中から聴こえた返事に私はドアを開けた。お祖母様は窓際に置かれた椅子に座り、優しい微笑みをその顔に湛えている。
「どうかしましたか?」
「あの、手紙を書こうと思ったのですが、便箋を切らしてしまったので」
「そうですか。それなら丁度いいのがありますよ」
お祖母様はそう言って、ライティング・デスクに歩み寄り、引き出しから便箋をお出しになる。辺りへ便箋からアイリスの香りが微かに漂う。
「ありがとうございます。お祖母様」
礼をのべた私の頭をお祖母様は二、三度なでて下さった。
部屋に戻って、ただ思うがまま下書きの紙に綴ってみたけれど、書き終えた物を読み直し、私は不安に襲われた。――こんなことをしても、どうにもならない、と。彼の様子からしたら、きっと受け取ってもらえないだろう、と。
私は数あるビスクドールの一体のうち、服から机の鍵を取り出し、引き出しにその紙をしまった。