表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ソラヌムドゥルカマラ  作者: 佐伯亮平
8/27

8





 食休みを終えた私達はテニスコートへと移動した。ジョージ君とビクトリアがテニスに興じる中、私はジョシュア君を目を横へ滑らせるようにして見た。彼は熱心に本へと視線を落としている。タイトルには〈論理学〉とある。

「……あの、難しそうね。その本」

「……そう見える?」

「ええ。いつも、そのような本を読んでいるの?」

「……そうだよ」

 彼は本から顔を上げることもなく、笑顔の一つも見せない。私は何だか不安になってしまった。何か、悪いことを訊いてしまったのだろうかという思いが、心に重くのし掛かる。

「あ、あの、ジョシュア君はお菓子あまり好きじゃないの? さっき、紅茶ばかり飲んでいたから」

 私は話題を変えるように言った。

「ああ。甘い物は苦手なんだ」

「そう……」

「……君、随分と抑圧されているね」

 私が話題に窮していると、ジョシュア君からそう話しかけてきた。

「抑圧?」

「感情を抑えているだろう? ビクトリアは気が強いから」

「……」

「あまり感情は抑え込まない方がいいと、僕は思うけどね」

「……それは、私のことを……心配して?」

「忠告だよ」




 夢の中にいる。そんな気持ちだった。前に窓から見た時、ジョシュア君は私を見て茂みへと消えたから、話してもらえないとばかり思っていたのに。館へ戻った私は浮き足立つような思いで自室へと歩き出した。

「ちょっと待ちなさい。ベアトリス」

 その声に私は足を止めた。

「どうかした? ビクトリア」

「おば様とお菓子を作ることだけど、あなたは来ないでね」

「……え? どうして?」

「あなたは疑問なんか抱かなくていいの。私の言うことを黙って聞いてればいいのよ。解ったのなら返事は?」

 私に強制するような目を向けながらビクトリアは言った。

「……」

「返事は?」

「……」

 私は震える体を抑えるように頷いた。

「そう。よかった。あなたの物分かりがよくて。おば様達には、私から上手いこと言っておくわね」

 ビクトリアはそう言って満面の笑みを浮かべ、去って行く。私はメイドに声を掛けられるまでそこに立ち尽くしていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ