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「……大丈夫でございますか!? お嬢様……! お嬢様……!」
通りかかったメイドが私の元へ駆け寄ったかと思うと、そう声をかけて走り去って行った。少し経って、そのメイドと男性は来た。館の執事だった。彼は私を抱きかかえ、ゆっくりと部屋へ運び込んだ。
「お加減のほどはいかがですか? ベアトリス様」
「……少し気分が悪くなってしまって」
「そうでございましたか。いま、医者を手配しましたので直に来るでしょう」
そう言って、執事はハンカチーフで私の口を拭った。
医者は私の目や口の中、脈、腹部の触診を行ったが、何ら肉体の異常は見つからないと首をかしげた。もしかしたら精神的なものかもしれないと横にいるお祖母様に伝えた。
私の目の前で医者が、鞄から出した阿片溶液を野菜の溶けきったスープに一滴落とした。おばあ様がスプーンでそれを私の口へ運んで下さる。それを二度か三度見た後、私は眠りの世界へ落ちていった。
声が聴こえる。
どれくらい寝ていただろうか? 私は天井を見上げた。気分は少しよくなったようだ。のろのろとベッド上に起き上がり、カーテンを少しだけ開けて外を見ると、隣の邸宅の更に少し向こうにある邸宅の窓のカーテンが、さっと閉められた。
「……」
実は、この体験は初めてじゃない。まるで外を気にしているかのようにすぐに閉めてしまうものだから、いまだに男の子なのか女の子なのか分からない。
私は狐につままれたような気持ちで声のする方を見た。そこには、ビクトリアと隣の双子の男の子のうちの一人が遊ぶ姿があった。もう一人は、いつものように隅で本を読んでいる。
私はビクトリアと違い、いつもこう。ただ、遠くから見ているだけ。そんなことを思いながら本に集中している男の子を見る。その男の子は顔を上げ、私を見ると本を閉じて茂みへと消えた。