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氷は私が動く度に音を立てる。立ち上がった瞬間、氷は蜘蛛の巣のようなヒビになった。
そう……それは一瞬のことだった。ジョージ君は私の身体を遠くへ押しやり、割れた氷から水中へと落ちて行った。
「ジョージ……君」
「キャアアアアアアア!! ジョージ!! ジョージ!!」
「兄さん……」
私のかすかな意識の中で、騒ぎを聞きつけた使用人が屋敷の者を呼びに行く声が聴こえた気がした。
地面に落ちたジョシュア君の本が、起きた現実をすべて表している……。
私はただなすすべもなく、使用人たちがなんとか割れずに残った氷を足場に、ジョージ君を池から救い出すのを見ていた。
どれだけの時間が過ぎたかわからない……。いつのまにか現れていたおば様の顔にゆっくり視線を移した。おば様は表情一つ崩されずにその場を見守っている。……なぜ、表情を崩さないのだろう? 私は違和感を感じた。ジョシュア君は先程から、今にも怒りが爆発するのではないかという風にビクトリアを睨みつけているというのに……。
もちろん、ビクトリアは泣くばかりで、彼の視線に気づいてはいない。小さい声でジョージ君の名を呼びながらしゃくりあげている。
「早く毛布を!」
使用人達が焦るように言いはなった言葉に私は立ち上がった。おば様が足早に毛布を持ち、彼の名を呼びながら駆け寄る。
ジョージ君は使用人に抱えられているが、両腕はだらりと垂れ下がり、息をしていないように見えた。
「ジョージ! お母さんよ! 目を覚まして!!」
おば様は彼を抱きかかえながら名を呼び続けた。しかし、彼はあの美しい瞳を開かない。
「……ジョージ」
ビクトリアが二人に歩み寄ろうとした時、ジョシュア君が足早に彼女に歩み寄り、手の甲で頬を打った。ビクトリアは地面に倒れたあと、頬を手で押さえながら彼を睨み付けた。
「ジョシュア、やめなさい……」
「……はい。母さん……」
彼は怒気を抑えるような声で言った。




