25
昼下がりの静まり返った部屋。窓から射し込む光の中を舞う埃。薄暗い空間は私の心を落ち着かせてくれる。
この空間と同じように、彼らの住むお屋敷も静まり返っている。まるで、誰もいないかのように。その雰囲気は、冬の気配と重なっている。
冬になると思い起こすことが、私にはある。ここから遠く離れた北欧の極地、湖水に囲まれた場所――フィンランド、カレリア。そのような場所があるとお母様は思い出すように仰っていた。
白い氷に閉ざされた場所は、無垢、なのだろうか……。
この世は嘘と欺瞞に満ち、愛ほど不確かなものはなく……表層で織り成される、人間の歴史……。美しく、儚く、残酷な、世界。
その世界の中で、愛を求めてさ迷い、翻弄され、そして、突き放される。愛の儚さに私の心は打ち砕かれていく……。
この世界のすべてを覆うように降り積もった雪とともに、池は凍りついている。
私はあつらえられたスケート靴を履き、少しばかり緊張しながら、氷の表面にそっと足を踏み出し、両手を横に少しばかり広げ、身体のバランスを取りながら滑っていく。
ジョージ君はとてもうまく滑り、ビクトリアも上手い方だと思う。そしてジョシュア君は、たまにこちらを見ながら分厚い本に視線を落としている。
いつもと同じ光景に笑みを浮かべていたらビクトリアが私の方へと寄って来た。
「あなた、本当に下手ね。邪魔にならないようにもうちょっと向こうで滑ってもらえないかしら?」
彼女はジョージ君に聴こえないように小声で言うと、私の手を取り、池の中心から離れた場所へと引っ張って行く。つまるところ、私をジョージ君から離したいだけなのだろう。ある程度離れたところまで来た時、私は彼女が手を離すと思った。
「……ビクトリア?」
「……」
名を呼んでいることなどまるで気づいてないかのように、後ろを振り返ったあと、彼女は微かな笑みを浮かべ、私を突飛ばした。
「……!!」
一瞬にして冷たい氷の上へ叩きつけられたかのように私は倒れた。辺りに響き渡る鈍い音……。耳にピシ……ピキ……という音が聴こえてくる。
「大変よ!! ベアトリスが……ベアトリスが転んだわ!!」
「何だって!?」
「駄目よ! ジョージ!! 近づいては駄目!! さっき、氷にヒビが入るような音がしたわ!」
「けど、ベアトリスを助けないわけには行かない!」
「ジョージ!! 行かないで!!」
「兄さん!!」
ビクトリアとジョシュア君の叫び声と同時にスケート靴の滑る音が近づいてくる。
「大丈夫か!? ベアトリス!! ゆっくり、ゆっくり、落ち着いて、ここから離れるんだ」
「……ジョージ君。氷が危ないから……早く、離れて……私のことはいいから」
「ベアトリス……そんなことを言っては駄目だよ。大丈夫だから」
彼は安心させるようにそう言いながら、ゆっくりと私の身体を起こす。
「ジョージ!! ベアトリスはもう駄目よ。早く戻ってきて!!」
「兄さん。ビクトリアの言う通りだよ」
「二人とも黙っていてくれ!!」
彼はそう、早口で激昂した。




