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けれど、もう一つの物は二人が来る前に部屋から持ち出した。ビクトリアには、絶対にわからない場所に隠してある。お母様が若い時に使っていた、小粒だけれど、可愛らしい、淡いピンクの真珠の指輪。いつか、私に下さると言っていたから。……あれはビクトリアだけじゃなく、他の誰にも渡せない。
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広いお庭を埋めつくすように咲く、プリムラ・ブルガリス――可憐な白い花をつけてお母様を喜ばせていた。けれど、今はそれも森番によってすべて刈り取られ、別の植物――ベラドンナが植えられている。お継母様が花汁をお使いになるから……と。ビクトリアはそれが入った小瓶をこっそり持ち出して遊んでいる。この前の時のように……。
夜明け前の、闇のような色をしたベラドンナの花。それは古くから〈悪魔の草〉と呼ばれ、ワルプルギスの夜を除き、悪魔や魔女はその毒草の手入れを怠ることがない……そして、ジェットのように漆黒の色をした実は、私たちのような子供であれば五、六粒たべると死んでしまうと本には書かれてあった。ビクトリアは、そんな妖しい雰囲気の漂う花に魅せられ、虜となっていた。
漆黒の実は、魅惑的な瞳を輝かせ、さも私が一番美しいと言いたげな笑みを浮かべる婦人を思わせる。想像したあと、お腹からこみあげるような物を感じた私は、草の上に食べた物をすべて吐き戻した。