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――街から離れた森の奥に、鬱蒼と生い茂る茨に覆われたお城がありました。
そこには、孤独な薔薇の姫君がいました。
けれど、茨に覆われた城には誰も近づくことができないでいました。なぜなら、城には呪いが掛けられていたからです。近づく者には茨がまるで生きているように襲いかかり、容赦なく引き裂きます……。
何人さえも近づくことのできない城の呪いを解き、茨を裁ち切ることができるのは、真実の心を持った王子様の剣だけなのです。
そして、姫君を深い眠りから覚ますには……
一夜の夢のごとく、美しく飾り立てられた舞台。
水銀灯が私たちをはじめ、人々を導くように夜の闇を照らしている。その中でも人の視線を集めているのが、メリーゴーランド。蒸気で回転しながら上下にも動く、金やさまざまな色で彩飾された木馬たち。大人はきれいに着飾り、同じくおしゃれをした子供を連れて並んでいる。乗っている人は上部の灯りに照らされ、まるで舞台に立つ役者のようにも見えた。
移動遊園地の印象は……つくられた、日常から大きく遊離した世界。
露店でお菓子やホット・ワインを買う人たち、アイスリンクで滑る人たち。寒さも忘れたかのように、みんな笑顔を浮かべている。
「きれい、だね」
「そうね。ジョージ君」
私はジョージ君に視線を移して答えた。ジョシュア君は、虚空を眺めているかのよう。おば様はいつもの笑みを湛えていらっしゃる。服装は夜の闇に溶けこむような、抑えめの深紅のバッスルスタイル・ドレス。ダイヤのイヤリング。それを縁取る黒とベージュのタフタが彩りを加えている。風に舞うリボンの付いたボンネットの帽子には、ドレスと同色の薔薇の造花があしらわれていて、何より美しいのは、ドレスと調和の取れた口紅の色……。けれど、いやらしさをまったく感じさせない。それはおば様の面差しが、どこか少女のようだから。
「ねえ、ジョージ!」
私の横にいたビクトリアが彼の名を少し大きめの声で呼んだ。
「何? ビクトリア」
「私と一緒にスケートで滑りましょうよ」
「ああ、いいよ」
ビクトリアはジョージ君の返事とともに、彼の腕に自分の腕を絡めて歩いて行った。そして、少し歩いたところで振り向き、敵意ある瞳を私に向けた。