16
「……まだ決めてないの。ジョージ君は?」
私は嘘を吐いた。サンド・グラスのことが頭をよぎる。
「僕はもう決めてるよ! スケート靴さ! 近くの池が凍ったら、みんなで一緒に滑ろうよ!」
「楽しみね」
私はとりあえず、そう答えた。
「何だか、ジョシュとベアトリスは似ているね」
「……え? なぜ?」
「その、どこか遠くを見る瞳とか……さ」
ジョージ君は、そう静かに言った。
「……ジョシュア君は、いつから、あんな風なの?」
「物心ついた頃からだよ」
「そう……」
「ところで、体調の方は大丈夫なのかい?」
「え?」
「お菓子作り、来なかったろう?」
「……ええ、大丈夫よ。ありがとう、ジョージ君」
取り繕うように私は答えた。とっさのことだから大丈夫かと内心では落ち着かない。
「残念だったな。君の作ったお菓子が食べれなくて。またの機会を楽しみにしておくよ」
彼はそう言ってウィンクをした。
「……ジョージ君は、優しいのね」
「そうかな?」
「うん……とっても優しい」
「君のお母さんは、優しくないの?」
また、私の顔を覗き込むようにしてジョージ君は訊いた。
「お継母様は、私にもヴィクトリアにも興味がないみたいなの……あと、お人形みたいで、本当に生きているのかわからなくなる時があって……」
「そう……」
「……それに、本当のお母様じゃないから……」
スカートの端を握って私は言った。
「……そうだったんだね」
「……今のことは誰にも言わないで……」
「指切りする?」
「……うん」
私の返事を聞いて、彼は私の小指に自分の小指を絡めた。
「十字を切って誓ったからには死んでも良いし、針も自分の目に突き刺すよ」
「うん」
「決まりだね」