13
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これまで私は、人がよしとしないであろう感情の高ぶった経験があまりなかったように思う。けれど、サンド・グラスが割れた時、言いようのない……怒りを感じた。何かが、心の奥底から覗き、見上げるように……。
私は考えを振り払うように目を閉じ、深く息を吸う。教会内に漂う乳香は、少なからず心を鎮めてくれる。再び目を開いて、私は薔薇窓を見上げた。太陽の光を受けて、厳かな存在感を放っている。……決して、華やかでも、艶やかでもない。けれど、美しい薔薇……。
しばらく見たあと、私は辺りを見回した。ジョシュア君は、私の座る長椅子の二脚となりに座っていた。そして彼もまた、さきほどの私のように薔薇窓を見上げていた……何かを求めるように。私は神父様のお話など聴こえなくなったかのように、ジョシュア君を見つづけた。少しだけ見て、視線を元に戻そうとしたのに……なぜか、それができない。時間の流れを遅く感じる中、ジョシュア君は私の方へ振り向いた。
いつもと変わらない、無機質な瞳……けれど、ステンドグラスの色を映しているせいか、少しばかり赤く見えた気がした。
私が神父様に告解したいとお祖母様に言うと、執事を残して先にお帰りになられた。馭者台で待つ執事を見て、私は再び静まりかえった教会に入り、四方八方に並ぶ長椅子の間を通り抜けて、神父様の待つ告解室に入った。
「こんにちは」
神父様は、低めだけれど、優しい声で仰った。
「こんにちは」
「では、改心を呼びかけておられる神の声に心を開いてください」
「はい」
「主はこう仰いました。『敵を愛し、あなたがたを憎む者に親切にしなさい。悪口を言う者に祝福を祈り、あなたがたを侮辱する者のために祈りなさい』と。そして、頬を打つ者あらば、もう片方の頬を向けよとも」
「はい……」
「では、神のいつくしみに信頼して、あなたの罪を告白してください」
「……私は、怒りを感じました。これまで生きてきて、あれほど強い感情を懐いたことはありませんでした」
「主はあなたを試しておられるのです。今の状況を与え、それをあなたが受け入れられるか、を」
「……」