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街は相変わらずのざわめきの中、人で溢れかえっている。
私はボンネットのリボンに触れた。……本当はあまり外に出たくはないのだけれど……前々から、そろそろアンティーク店に行きたいと思っていたので、今ここにいる。
夢のような世界は、私の心を少なからずとも癒してくれる。とは言っても、ハイ・ジュエリーを扱う店ではなく、シルバー・アクセサリーや雑貨のお店。名前は、〝アッシェン〟。おじいさんが一人でやっている。
けれど、私は驚いていた。まさか、ビクトリアが私と一緒に出かけたいと言うなんて……。
馬車から降りた私たちと付き添いの執事がお店へ入ろうとしたとき、後ろから鳩のように高い声で「すみません!」と聴こえた。
私たちが振り向くと、顔に愛らしいそばかすを散らした女の子が薄ピンク色のお花の入った籠を抱えて立っていた。
「どうしたの?」
私は小さな少女に声を掛けた。
「あの、お花はいかがですか!?」
「そうね。じゃあ、二輪ほど貰おうかな」
「ありがとう、お姉ちゃん!」
執事から受け取ったお金を嬉しそうにポケットに入れると、女の子は走り去って行った。私はそれを見届け、店へと入った。
……世の中が、平等じゃない……ということは薄々と感じていた。けれど、それは人が悪いのではなく、この世界が悪いからなのではないかしら……? こんなことを思う自分は、皆から信心が足りないと責められるのだろうか? 創造主に無礼ではないかと……。
私は考えを振り払うように、目の前に広がる夢の世界を見た。
精密に彫られたモノグラムのロケット・ペンダントや水晶の砂が落ちていくサンド・グラス、赤い硝子を砕いたカレイド・スコープ……この美しい物を、あの女の子が手にすることは……一生ないだろう。
「ベアトリス」
「何? ビクトリア」
「あなた、そのサンド・グラスが欲しいの? それともカレイド・スコープ?」
「……そうね。サンド・グラスにしようかなって」
私が言い終わる前に、彼女はそれを手に取った。
「本当。確かにきれい、ね」
そう言った次の瞬間、サンド・グラスは彼女の手から滑り落ち、床の上で粉々に割れ、中身の水晶は無残にも辺りへ散らばった。
「……!!」
「ビクトリア様!! お怪我はございませんか!?」
「大丈夫よ。ありがとう。それより彼女を見てあげて。ごめんなさいね。ベアトリス。手が滑っちゃって。でも、硝子だから仕方ないわよね」