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楽しんでいって下さいね。
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――だめよ。だめ……ビクトリア。お父様がお怒りになるわ。
――あなたってば、いつもそうね。ベアトリス。そうやって人の 言いなり。いいこと? よくお聞きなさい。黙っていれば、お父 様やお母様、そして、あの門番にさえわからないわ。
でも……。
でもは無しといつも言ってるでしょ? ほら、見ていて。これを 目に垂らすと瞳が大きくなって美しく見えるの。だから昔のご婦 人たちは、殿方の目を引くためにこれを使ったのよ。
でも、私たちはまだ〝婦人〟じゃないわ。
そんなこと、あなたに言われなくともわかっているわ。だから、 少しだけ点したの。さあ、次はあなたの番よ――。
あれから視界が悪くなった。
ピントの合わないカメラのように目がちゃんと物をうつさない上、日の光を眩しく感じている私に、彼女は、「あなたの顔ったら、青白くなっちゃって。いいわ。カーテンを閉めてあげるから、目をつむって寝てなさい」
そうしたあと、貴婦人のような立ち姿で私をあざけるように笑い、腰まである長い髪を手で後ろに払うと、走り去って行った。あざやかなスカーレットのリボンがそれに伴い揺れた。
私とビクトリアの性格は違いすぎる。当然……といえば当然なのだけれど。私たちは血が繋がっていない。私のお母様が亡くなったあとに、お父様が迎えた女性の連れてきた娘だから。
最初に引き合わされた時、彼女は私を猫のような目で見ていた。そして、お父様にはワインレッドのドレスの裾を両手で持ち上げ、形式通りの挨拶……。その時から何か、合わない感じはしていた。
彼女の服やリボンの色から、靴、アクセサリーまでが〝今〟のお継母様とそっくりで、白や薄い水色を好む私に、「あなたは本当に子供ね」という視線を向ける。
いま、私のお母様の部屋はビクトリアのお母様が使っている。あの部屋には薔薇レリーフを施した美しい宝石箱があり、その中にはお母様の家に代々受け継がれてきた、ルビーやサファイア、エメラルドの指輪が入っている。それらをビクトリアのお母様はまるでご自分の物のようにお使いになるから、お祖母様は目も合わさなくなった。
そして、私がお母様から貰ったエナメルの髪留めも、ビクトリアの手にある……。