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蝋人形の館  作者: kazuha
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 病院は嫌いだ。やることが何もないから。ここに来てからもう4日経つかな。怪我はなかなか酷いらしく、右腕と左足はまだ動かない。そのうち動くようになるそうなので心配はしていないが。

 心配症のお母さんも昨日やっと私から離れて、今は家でゆっくり寝ているだろう。今日はやっとひとりでいられているのだ。とてもゆっくりできている。

 午前も10時を過ぎた刻だった。外は清々しく晴れていて見える庭の木は萌えていた。芝の上では子供たちが走っていてそれを追いかけるお父さんみたいな人が少し悲しそうな顔をしていた。

 ノック。2回なるその音はこの風景に似つかわしくないほど重いものだった。

「はい?」

「読売新聞の幹原(みぎはら)と言うものです。取材させて欲しいのですが入ってよろしいでしょうか?」

 新聞? あのことをネタにするのだろうか……。思い出したくないそれは私の記憶を傷を抉るように走る。ただ、私にはまだやらなければならないことが1つある。

「どうぞ」

 ゆっくりと扉が開けられ、ヒゲを剃り忘れたようなやつれた顔をした幹原と名乗ったその人が入ってきた。幹原はベットに一番近い丸椅子まで来て会釈をし、私に名刺を差し出してきた。確かにそこには読売新聞と書かれていた。

「幹原です」

 もう一度名乗り続ける。

「私はあの少女行方不明事件を取材させて頂いているものです。話せる範囲でいいので話して頂けませんでしょうか」

 警察にも話した。しかし、私には何一つ情報をくれなかった。

「私がいまから話すことはもしかしたら夢かもしれません。全く信じられる内容ではないかもしれません。それでもいいですか?」

 今の今まで緊張しさらに怯えもしていたその表情が少し緩んだ。

「ありがとうございます!」

 一礼。それから姿勢を戻すのには時間がかかった。私が座るよう促してやっと起き上がり丸椅子に座った。

「ただ、1つ条件があります」

 私がそう告げると彼の顔にまた緊張が戻ってきた。

「あなたの知っていることを私にも教えてください」

「え?」

 不思議そうに頭を傾げるので私は気持ち悪さに笑みをこぼした。

「情報交換ですよ。警察にも同じことを言いましたが、私にはなにも教えてくれませんでした。ここテレビもないんで私に関する報道もなにも知りません。その程度で構いません。私が知っていないことを教えてください」

 まだよくわかっていないのか、彼は少し悩んでかしらを頭を縦に振った。

「じゃぁ、まずは私からですね」

 私は全てのことを話す。毎晩悪夢に襲われたことも。怪しい骨董品屋のことも。屋敷の構造のことも。ネックレスのことも。麻里のことも。ドレスの変わったフランス人形のことも。あの屋敷で起こったことも。なにもかも。

 この話しを聞いて幹原は驚いたように口をあんぐりと開けた。当たり前だ。夢で起きた現象なのだから。私はまた、嘘をつくなと怒鳴られるに違いない。そう覚悟していた。

「同じだ……」

 私は耳を疑った。同じ? なにがだ。

「なにが同じなんですか?」

 そう聞くと我に帰るように頭をふり、私を見直した。

「私には娘がいました。今生きていたら24歳。23歳の時に、行方不明になりました」

 幹原。そうだ思い出した! 幹原と言えば、この行方不明事件の一番はじめの犠牲者。

「娘が毎日のように変な夢を見る、怖いと警告を出していたのにも関わらず、私はそれを無視して居なくなってしまいました」

 なんとも、自業自得と言ったら可愛そうだが少しは信じてあげた方がよかったに決まっている。

「最低な方ですね」

「重々体感しました」

 私は発言を後悔した。さすがに言い過ぎだと。

「私が知っているのはここまでです。気がついたら病院にいて、お母さんに号泣されたぐらいしか覚えてないです」

 幹原は取っていたメモノートを閉じ、私を見る。

「では、今度は私ですね。栄子さん。あなたが発見されたのは森の道路でした。栄子さんがその屋敷に閉じ込められた日のことです。その晩、丑三つ時になんとなく栄子さんの部屋を見に行ったお母様が栄子さんが居なくなった部屋を見て119番。警察は200人総出で栄子さんの捜索に出ました。発見されたのは4時。探していた警察官が見つけました。ひどい怪我を負った状態でした。初の生還者として今や全国区のニュースです」

 それはそうだろう。私さえ抜けられるとは思わなかったのだから。

「因みに、私もその骨董品屋を訪ねようとしたことがあります。しかし、そんな店おろか、そこには建物はなく、ただの墓地でした」

ーーーーそんなはずがない!

「今ので確証を得ました。栄子さんが行かれた場所は私が何度も足を運んだ場所です。小さな墓地でした」

「だって、そこに……!」

「なにもないんですよ。そこには」

 意味がわからない。

「さらに、証言されたように、あの森にその屋敷があるのならばきっと蝋人形にされた行方不明者が見つかる筈なのです」

「なかったと?」

「はい。これは警察の会見で知りましたが、生還された栄子さんの証言で森をありとあらゆる方法で散策したみたいですが、建物もなく、逃げようとして捕まった人形もなかったそうです。これが私の知っていることです。他に聞きたいことはありますか?」

 あれはなんだったんだ。確かに屋敷だった。確かに夢だった。確かに怪我を負った。それが全て虚像無蔵だということなのか。

「それじゃぁ私は……」

「今では襲われた恐怖や薬物による幻覚を線に対処されています。いわゆる証拠として無効だということです。唯一の手がかりとしてはそのフランス人形ということです」

 だろうな。私自身、夢なのか現実なのかわからないのだ。だけど麻里は助けてあげたかった。死んでいるのかもしれないけど、元の場所に戻してあげたかった。

 幹原はこれ以上話すこともないようで一礼して出ていった。私はこの喪失感に涙を流した。

 後日、その内容の新聞記事が私の手元に届いた。見出しには少女行方不明事件、初の生還者の証言は夢!? と書かれていた。まぁそうだろう。私の体験したこれはなにひとつ残っていないのだから。赤い宝石のネックレスは買った当初のように魅力を感じなくなった。いや、もしかしたらその時には人形の毒牙にやられていたのかもしれない。

 前に思ったあの屋敷が七つの大罪を表しているということ。その中の『色欲』を表していたのではないだろうか。私も麻里もあの人形を手に入れようとした。

 あくまでひとつの考えだ。私に言えるのはそのフランス人形を見たら、惚れるなということだけだ。

 その人形はもしかしたら、貴方のカバンの中に入っているかもしれない。

 入っていたら、私の仲間になってしまうかもしれないから。


ーーーーまた、私はペルシャ絨毯の上に立っていた。

 最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

 夏のホラー2013の作品ということでかなり力を振り絞ってやってます。個人的には微妙な仕上がりですが……。まぁ、肝まで冷えていただければ幸いです。

 それでは、まだ少しある夏休みを堪能下さい。

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