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Grand Road ~グランロ-ド~  作者: てんもん
第七章 ~ On the Real Road.~
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第四十八話 『大河 〜突撃〜』

 そしてアリアムは、離れて待っていたナハトも含めて向き直り、兵士の前で背中を向けて誠実な顔で最後の語りを語りだす。

「いいかお前ら。確かに今は星の危機で、世界の危機だ。大変な事態ですげえ時代だ。けどな、こんなもんはな、ただの通過点、手段に過ぎねえのさ。こんな程度を人生の目的にはすんじゃねえ。こんな程度の代物は目標にすらならねえよ。お前らの人生は、これから先がまだまだちゃんとあるんだぜ。長い長い道のりがな。こんな程度のピンチなんぞ、ちゃっちゃと片付けて、さっさと手前が主役の大事な人生に戻りやがれ。

いいか? 通過点を目的にはするんじゃねえぞ。人生でやりたい事をまず決めろ。人生かけてやりたい事を、人生使ってやるべきことをな。仕事や金儲けなんぞ、その為の手段でしかねえんだよ。手段を目的にしちまうから、満たされねえし、ゴールも無えから笑って満足して死ねねえんだ。勘違いしてんなよ? いまここは、お前らにとって、ただの手段だ! 自分の人生の目的を阻む障害を排除してるに過ぎねえんだよ。お前らなら、もっともっと先へ行ける。お前らなら、もっとずっとデカイ何かをやり遂げられる! ちゃんと見せてくれやがれよ? こんな所で、これ終わったら何すんだとか阿呆なことぬかしてんじゃねえや、情けねえ! 次また同じこと抜かしたら、嘲って失笑して軽蔑してやるから覚悟しとけやこの野郎ども!!」

 そう言って、悪戯をする子供のようにニカリと笑い、そして後ろの兵士たちを振り向いて、叫ぶ。

「お前らもだ! 気合を入れろ! こんな程度の通過点なんぞ、簡単に突き破って突き進み、そして皆で家に帰るぞ! 休憩は終わりだ。行くぜ手前ら、準備はいいか、隊列組めえ!!!」

 突き上げた拳と同時に、通路を揺るがす雄叫びの群れが何度も何度も響きわたった。

 そして、ライラもそれを聞いていた。

 組み込まれる部隊も無いままに、ゲストのように付いてきただけで、手伝う作業すらない現状で、じっと立って見つめたまま全ての言葉を聞いていた。魂に刻むみたいにそれらを胸に押し込めて、そして、一歩を踏み出した。

 今までの彼女なら、遠くで眺めるだけで満足していた場面だった。眺めているそれだけで参加している気分になり、足を止めて嬉しいと感じていたはずだ。

 だが、今は違う。彼女は自らの意思でここに来た。

 ならばそのままでいるだけではいけなかった。遥か遠くの舞台の下で、見ているだけでは何かを為したことにはならないと気付いていた。それではここまで来た価値が無いのだと。自らで選んだのなら、あの眩しい舞台の上へ自分で登っていかなくてはいけないのだと。

 解っていた。理解していた。どれだけ怖くて震えても、それでも決意をしたならば。

【助けてくれた人に、人たちに、助けられた自分が、助けられた価値があるのだと伝えなければ、示さなければいけないのだ】と。

 だから、歩む。これまで接点すらない部外者の自分が、カルロスたちが話し合っている世界の中心のようなその場所に向かって、兵士たちの一群を離れ一歩一歩近づいてゆく。震えながら一歩一歩、小さくそれでも足を出す。

「……ライラ?」

 アリアムが気付いた。そして、その少女の決意も瞬時に悟る。

 まっすぐな目と目が合った。少女の意を汲み、アリアムは少女を招き寄せ、仲間たちに紹介する。

 抱きしめたくなるほど震える体を精一杯にそれでも伸ばし、ライラは己れの名前を告げる。カルロスが驚きながらも、にまりと笑った。ライラも静かに笑みを返した。

「このライラも、封印者候補の一人かもしれない。もう一度婆さんに見てもらえればハッキリするはずだが、俺は確かだと思っている。つまりは切り札の一枚だな。だが、だから連れてきたって訳じゃねえ。本人からのたっての願いだから、連れてきたんだ。彼女の決意だからだ。彼女が自ら変わろうとしたから、連れてきたんだ。彼女には戦闘能力はまるで無い。だが、きっと俺たちの力の一つになる。だから、頼むぜ皆。全力でこの娘を守ってやってくれ」

 ナハトもコールヌイも、少女の決意の瞳を眺め、頷いて応えていた。

「……お互い、とんでもねェところまで来ちまったな?」

 近づいたカルロスが慣れないウインクで、無言の共感と賞賛を小声に乗せてライラに贈る。

「……だよね」

 ライラが苦笑で応えながら、俯いて小さく舌を出し横目で眺めた。

「けど、」

 カルロスが真っ正面からライラを見つめる。

「よく来たな。歓迎すんぜ、ライラ。あそこからここまで歩いたお前を、おれは尊敬する」

「……うん! 頑張るよ。よろしくね、カルロスくん!」

 ライラが花の笑顔を見せる。ナハトが近づき自己紹介を始めていた。それを眺めて、アリアムは優しい笑顔でそっと離れた。


 少年たちが先導し隊列を組み直している傍らで、元リーダー、ブランドンがアリアムの真横に立った。兵士達を遠目に見ながら小声で静かに語りかける。

「相変わらず、ケムに巻いて良いこと言うのが得意だな、アリアム」

「わぁるかったな煙に巻いてて」

 真剣な顔を崩さずに、アリアムが苦笑に聞こえる声を出す。

「ふ、お前らしいと言っただけだ。怒るなよ」

「おう。気を悪くしちゃいねえって」

 軽く軽口を言い合って、そしてブランドンが静かに続けた。

「俺たちは、お前の覚悟と頑張りを見た。だからお前がどれだけ成果を挙げていなくても、少なくともここにいる奴らはみんな、お前を心底受け入れてる。それまで受け入れて無かった奴も受け入れた。だがなぁ」

 リーダーが渋い表情かおをアリアムの方に向けた。

「シェリアーク、奴はダメだ。

お前が弟を大事に思う気持ちは、解る。だがな、奴のしたことは、もはや取り返しがつかないレベルのことなんだ。いくらお前の頼みでも、いくら奴の心が半分以上操られていたのだとしても、同じことだ。ここで奇跡が起きて、奴の命を助けられたとしても、俺たちは、国民たちは奴をもう受け入れられない。それはもう、どうしたってどうしようも無いことなんだ、アリアム!

だから、頼む。無茶をするなよ? 俺たちにとっては、お前の命の方が大事なんだ。奴を生かすことを目指すのは良い。それが簡単に叶うなら、止めはしない。だが、そいつが無理だと、命がけになると解った時点で、頼む。奴を救うことは諦めてくれ! 星の未来を救えたならば、あとは自分の命を優先してくれ! 俺たちにとっちゃあ、例え万が一奴を救えたとしても、お前を失っちまったら、敗けなんだってこと、忘れないでくれ! 頼むぞ、アリアム……!」

 ブランドンの血を吐くような真剣な願いの言葉に、アリアムは、

「ああ、……解っているさ。俺は、もう誰も見捨てたりしねえ。王として、途中で投げ出したりなんて、絶対にしねえよ。安心してくれ、リーダー。絶対、だ」

 と、静かに笑って請け負った。瞳が静かに細められ、遠くを見るように柔らかな笑顔を見せる。

 ブランドンはその目を覗き込むようにじっと見つめ、そして「頼んだぞ」と呟いた。


       ◇   ◇   ◇


「見つけた……」

「本当ですか!?」

 通路の真ん中で杖にかしずく状態から顔を上げたルシアの台詞に、リーブスが目を輝かせて確認する。

 ルシアは遥かな過去を思い出しながら、静かに頷き応えていた。

 500年の昔、一度だけここに来た時に、対象のエリアにマーカーを仕掛けまくったことがあった。その内の一つがまだ生きていたのだ。

 運がいい。もしかしたら、罠かもしれない。だが、それでもそれしか目印がない以上、そこを目指してゆくだけだ。

「……ああ、まず間違いないね。それにしても、よくもまああそこまで移動させたもんだよ、あんなでかい代物をね」

「だが、それでも見つけたんだな。さすがだ、ルシア」

『そうだね、貴方が居てくれて助かった、ってところかな。本当にね』

 デュランとナーガも目を輝かせて誉めそやす。

 それはそう、その通りなのだ。この広い【月】の中で、闇雲に探して見つかるなどとは誰であろうと思えはしない。たとえどれほど巨大な代物だったとしても、本気で隠されて見つけられるものではない。なによりも時間が無いのが致命的だった。なにせこの【月】のサイズは、どれだけ星としては小さかろうと、それでも直径300kmを超えるのだから。

「おだてても何も出ないよ。そんなことより、【カムイ】! みんなにこの位置を伝えておくれ!」

『了解シマシタノデスヨ』

 【カムイ】が【ガイア】の本体の位置と、そしてこちらの正確な位置を他の【カムイ】へ伝え始めたその時だった。

「ルシアさん!」

 リーブスの鋭い声が静寂を破る。デュランとナーガも瞬時に振り向き武器を構えた。

「……また、アンタらかい……」

 ルシアの声が苦々しくもこだまする。その視線の先、通路の奥に佇むは、卑屈に嗤う壮年時代のナニールの姿。

 ナニールレプリカ。

 つい数時間前に見たものと同じ顔たちが、ニタニタと卑屈な嗤いを上げながら湧き出していた。

 同じ顔同じ顔同じ顔。下卑た目線が濁りのように、数十もの数で連なっていた。


       ◇   ◇   ◇


「……おいでなすったみたいだぜ」

 先程のリーダーの言い方を真似て、アリアムが姿勢を正す。

「アリアム……?」

「急げリーダー! どうやら囲まれているようだ」

 アリアムが、隊列を整えた兵士たちの前に急いで戻り、声を上げる。

「用意はできたなお前たち? 敵の姿がしばらく見えないと思ったら、どうやら気づかれずに包囲する作戦できていたらしい。強そうなやつらに囲まれているようだ。全く、慎重策といえば聞こえはいいが、強そうな癖して臆病者のやり方だな。ここから先、出てくる奴らは手ごわいだろう。だが! 俺たちなら、必ず突破できる。お前たちならやれる! 鳥から【雫】も受け取った。良いか、昨日からの訓練だけじゃない。日頃の辛い訓練全てを思い出せ。お前たちはそれを乗り越えてここにきた。ならば、互いに信頼感で結ばれてすらない、連携の取れない程度のやからなんぞに負けるかよ! 自信をもって蹴散らすぞ!! 隊列、構え! フォーメーションワンからフォースまで、状況次第で組み替えて進む。聞き漏らしたら置いていく。止まるなよ?」

 アリアムが前を向き、天も突けよと右手を上げた。

 兵士たちもそれぞれの武器と防具を構えて上げた。その中に弓矢の類は一つもない。全ての武器が地下内での局地戦に特化していた。近接戦闘オンリーに特化されて訓練された、最強無比の一軍だった。

 ガチャリと重々しい音が一つして、軽装鎧に重めの盾を装備した一団が最前列に躍り出る。同じ高さに揃えられた槍と剣が掲げられ、全ての武具に【雫】が光る。

 それを合図にしたかのように、四方八方から無数の機械体が湧き出で始めた。これまで見てきた全ての種類だけでなく、見たこともない新型もある。そしてその中には、アリアムが初めて目にするナニールレプリカの姿もあった。

 相手の邪悪な歪んだ笑みに、アリアムの豪快な笑いが拮抗する。どちらも譲らず笑みを深めた。静寂、そして、

「全軍、突撃───────────ッッ!!!!!」

 凜!と音のするように。

 鳥の指し示す先に向かって、若き王の右手の先がまっすぐ前に降りおろされた。

 地鳴りのような足音が、一糸乱れず一つ響いた。



         第四十八話 『大河 〜突撃〜』 了.


         第四十九話 『流れの先に繋がるもの 〜人と泥〜』に続く……


この続きは、またしばらく間を空けることになると思います。

申し訳ありませんが、お待ちください。


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