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Grand Road ~グランロ-ド~  作者: てんもん
第七章 ~ On the Real Road.~
95/110

第四十七話 『大河 〜集結2〜』

今回から、予約投稿は、朝8時に変更します。

よろしくお願いします。


 アリアムが最後にゲートを抜けると、そこは広大な通路の端に突き出た踊り場だった。ゲート周辺を警戒し確保していた第一隊に頷き指示を解除、次の指令を下してゆく。陣地を確保していた第二隊に号令をかけ、階段を降りて広場で整列、簡易点呼。すぐに隊列を整える。同時に、ゲートの不可逆性も確認する。思ったとおり、こちらからは星のゲートに跳べないようだ。よかった。そうでなければ安心して全軍で移動できない。これも仲間たちの操作だろうか。感謝しなければ。

 そうアリアムが思ったその時、

「おいでなすったようだぜ、アリアム」

 リーダーの言葉に目を向ける。通路の先から大量の機械体の群れが溢れ出すところだった。何かを運ぶ為のものだろうか、巨大な通路は、高さが人の10人分を軽く超え、横幅も数十人が一斉に行進できるほどの広さがあった。

「いいか、お前ら! 目標はあくまで敵の本体だ! 本体を片付ければ敵は必ず動けなくなる。敵を全滅させる必要はない! お前達には、最高級の発掘武器を配布している。あの程度の敵はお前達なら一欠片の問題なく突き崩せる! 雑魚にはあまり時間をかけるな! 幸いここは十分に広い。突撃縦隊五列を中心に一点突破、敵中央を突っ切るぞ! 中列三隊後列二隊は64人大隊、16人中隊、4人小隊に訓練どうりに分隊し、ダイヤ型を死守、死角を消して欠けることなくついて来い!!」

 全ての兵の雄叫びを受け、アリアムが両手に短鉄棒を構え、走り出そうとした矢先。

 前方の敵たちが文字通り吹き飛ばされて破壊され、粉みじんに砕かれていた。

「!?」

 急停止し警戒態勢を取るアリアムたちに、少年たちの声がかけられる。

「アリアムさん、オレたちです!」

「おれらだっての、そう警戒なんてしねーでくれよ!」

 ナハトとカルロス、そしてコールヌイと先発隊に志願した兵士5人がそこにいた。

「ナハト! カルロス!? なんでお前がここにいる?! まあいいコールヌイもちゃんといるな、お前ら! 無事だったか!」

 わずかに驚きながらも嬉しそうに両手を広げ、アリアムが皆を迎えた。


「コールヌイ! お前、この野郎……ッ」

 近づいてきた黒衣を脱いだ影頭に、アリアムが歯茎を剥いて唸っていた。

 唸られた方はケロリと真顔で、「申し訳ありませんでした、陛下」と頭を下げる。

 そのあまりの傲岸無恥な反省の無さに、二の句が告げずにアリアムはため息をつく。

「……ったく。いやまあ、無事で良かったけどな」

「ご心配をおかけ致してしまい、申し訳ありませんでした」

「ああ、仕方ねえ。今のはさっきよりは真摯に聞こえたから許してやる」

 そして、真剣な表情で質問した。

「それで、シェリアークの奴は、今どうなってるんだ?」

 その質問に、コールヌイは目線を伏せて唇を噛む。

「おい、コールヌイ!」

「その説明は、オレからしていいかな、アリアムさん」

 ナハトだった。スラリとした少年が、コールヌイを庇うように一歩前に踏み出した。

「……ナハト」

 アリアムが視線で先を促した。

「シェリアークは、肉体を敵に完全に乗っ取られてしまったんだ……」

 ナハトも、歯を食いしばり、拳を握って悔しそうに話し出す。

「な……に……?」

 アリアムが目を見開いて怒りを見せる。

「アリアムさんが怒るのも、無理はないと思う。……あれだけ偉そうに任せてくれって言ったのに、オレは役に立てなかった……」

 アリアムの怒りの視線を受け止めて、ナハトは逸らさず言葉を続ける。

「それでも、まだ終わってないから。だから、まだ謝る言葉を口にはしない。憎んでくれていい。でも、まだ、オレも、コールヌイさんも、諦めてなんかいないから。まだ手段はきっとある。そのためにファングが今、頑張ってくれているんだ」

 アリアムは、意思をもって、深く深く深呼吸をし、そして言葉をつなぐ。

「お前たちを怒っても仕方ないし、憎む理由もねえよ。難しい頼みなのは最初から分かっていたことだ。そして、お前たちが手を抜く奴らじゃねえってことも解ってる」

「ありがと……」

「だが、まだ手がある、とはどういうことだ?」

「それは……」

 ナハトとコールヌイ、そしてその後ろにいた兵士たち5人が、交互に状況を説明した。ところどころ頷いて聞いていたアリアムが、最後にあんぐりと口を開ける。

「……ムハマドが、過去に飛ばされ600年経ったファングだった……だと?」

 そして精霊科学を創り出し、全ての歴史を調整してきた暗躍者だったということを聞き、

「……マジ、かよ………」

 頭に右手を添えため息をつきながら、アリアムは息を吐いた。

「はい。全て事実であります」

 コールヌイが念を押して保証した。

「……なるほどな。状況は把握した。信じられねえ事も多いが、信じざるをえねえから信じて対策を立てていく。まあ、つまり、今ファングがシェリアークの肉体を乗っ取った奴を抑えてくれていて。その間にそいつの本体を潰せれば、望みはある、そういうことだな」

「その通りです、陛下」

「んじゃ、答えは一つだ。そいつを倒すにも、シェリアークを救うにも、もちろん星と未来を勝ち取るにも。まずはその本体とやらの所に行くしかねえ。で、そいつがどこにあるか、ルシアたちは分かったのか?」

 最後の言葉は、頭の上を飛んでいる、【カムイ】の化身・幻影の鳥に向かって訊いていた。

『イマダ、セイカクナ位置ハハアクデキテ無イモヨウ。シカシ、方向ノミデアルナラバ、判明シタヨウデストノコト』

「でかした! なら、俺たちもしばし編成を練ったのち、急いで同じ方向に向かうと伝えてくれ」

『承リマシテ、リョウカイデス』

「ついでに、その【思念の小瓶】の雫の力、ここにいる兵士全員にも掛けられるか? 掛けられるならお願いしたい」

『少シ薄マッテモヨイノデシタラ、可能デスデス』

「無いより良い。やってくれ」

『リョウカイ致シマシタデスヨ』

「聞いた通りだ。お前たちには、もう一度、頼まなくてはならないな」

 背後の兵士達に【雫】をふりかける為飛んでゆく鳥を見送り、振り返ったアリアムが頭を下げる。ナハトもコールヌイも首を振った。

「頼まれたからやるんじゃないです。これはもう、オレの意思でもあるから」

「自分も、同じくでありますよ、陛下」

 二人を交互に見つめた後、アリアムは、

「それでも、頼む。感謝する」

 そう言葉に出して伝えていた。

 そしてアリアムは、後ろに並ぶ兵士に告げる。

「任務、よくやってくれた……残ったのは、お前たち五人だけか」

 兵士たちがうなだれて「申し訳ありません!」と叫ぶ。

「そう悔やむな。謝る必要はない。亡くなった者たちの無念が残念だっただけだ。まだ終わった訳じゃない。俺たちでその無念を晴らしてやろう」

 兵士たちが泣きながら頷いていた。

 アリアムは、先遣隊の生き残り兵士五名を、突撃部隊最前線に再編成した、一番槍隊五隊それぞれの突撃隊長に任命した。一番槍中の一番槍だ。危険な任務だが、兵士達は嬉しそうに拝命した。

「お前たちは、たった一日だが、凄まじい密度の経験をした。それを活かして欲しい。全ての隊の命をお前たちに預ける。必ず守れ。そして、敵の奥深くまで貫いてやれ! 頼んだぞ」

 名誉の、そして汚名返上の機会を与えられ、五人の兵士たちは震える大声でそれを受けた。

 そして、自らの経験を皆に伝えて連携するため、全力で敬礼したのち配置された部隊に向かって走っていった。


「アリアムさん……」

 振り向くと、カルロスがいた。彼がここに来ている経緯は先ほど聞いていたので、もはや驚きはない。

「……やったな、カルロス。聞いてたぜあの放送。できたじゃねえか、ちゃんと。自分の証明、ってやつをよ」

 嬉しそうな満面の笑みで、アリアムが少年の頭を撫でる。無造作に手を伸ばし、ぐりぐりと、ワシワシと力一杯撫ですさる。

「お、い! 撫でンな……ったく、もう……チクショウ……くそ、……さんきゅ、な……」

 カルロスが下を向き、口を尖らせソッポを向いた。後半は声が小さすぎてアリアムには聞き取れなかった。それでも、軽く赤い顔を見るになんとなく察せられた。執事が見ていたら発狂して嫉妬しそうな光景だ。

「……ハッ!?」

 ソッポを向いた少年の目の端に、死角からもの欲しそうな顔をした彼の執事が、そっと静かに頭の上に手を伸ばす姿がチラリと脳裏に再現される。

 生霊かよ!? 驚いて力一杯飛びすさった。

「やらせるか! お前には撫でさせんッ!」

「……おい、どうした?」

 呆れた顔でアリアムが訊く。少し離れて、ナハトとコールヌイも目を丸くして眺めている。いつもの癖で、無意識にここに居ない相手に反応してしまった。恥ずかしいなんてものではなかった。無意識の寸劇が癖になっているなどとは、震えて真っ赤になったカルロスには、口が裂けても言えなかった。

 察したアリアムが「ああ、なるほど。うむ、なんでもない」と呟いてフォローして、聞こえた少年がまたもリンゴの様になる。

 しかしまあ、少年が理不尽にも全ての怒りを執事に向けて溜めていたり。後で鳥から状況を聞かされたリーブスが、いつか絶対に同じように頭を撫でる!と人生の誓いを立てたなどということは、もはや別の話だ。


「それにしてもなあ、こんなスゲー状況にまでなっちまうなんてな」

 呼吸を整えたカルロスが、照れ隠しなのか、チャチャを入れるように語りだした。

「ここまでデカイ事態になっちまったら、これ終わったら燃え尽きちまって、その先何するんだかわかんなくなりそーだぜ。ったくよォ」

 鼻で笑ってため息をつく。それを見ながら、アリアムは意地悪い顔で加わった。

「そうかもな。けどカルロス、お前も凄ぇ成長してるじゃねえか。そんなら、これが終わろうがなんだろうが、なんだってできるんじゃねえのかよ?」

 うっすらと笑みを浮かべて、アリアムは強がり照れる少年を観察する。

「へっ、あんな程度、そんな風に言われるほど大したこっちゃねーんだよ。おれなんか……おれ程度なんか、まだまだダメで、ダメなんだ……」

 そう呟いた少年の表情を見て、アリアムは、少年が自信を掴む寸前で、それでも未だ躊躇していることを知る。ずっと、肯定されずに生きてきた者特有の反応だった。物心ついたその時からずっと罵られ、貶されて、見下され褒められることも無く過ごしてきた子供の心は、無意識に自分で自分を否定する癖がつくのだ。己で己を殺してゆく。それは解けない鎖のように己を縛り、逃げ出す勇気すらも奪い心そのものを殺してゆく。そのループから抜け出す事それだけでも、独りきりでは難しい。

 アリアムも己れの通ってきた道だった。だから手に取るように良く分かった。自信を持ちたい。でも、自分なんかが持ってもいいのか? 偉そうにそんなものをおのれが持ってもいいのだろうかと疑問が止まない。

 そう、無意識下で葛藤しているその姿を見た。だがこの少年は、自分よりもずっとずっと強く、そしてたくましかった。胸を張って自信を持っても良いのだと伝えたかった。

 アリアムが二十歳を超えるまで断ち切ることができなかったその鎖を、立ち直ることができなかったその悩みを、この少年はこの年で克服する寸前までたどり着けたのだ。その強靭さと眩しさは、逞しさは、とうてい自分などには及ぶべくも無いものだった。

 アリアムは、悩みに震え下を向く少年を、その彼に出会えた幸運を、誇りに思う。今ならおのれが助けてやれる。

 何度も自信を叩き潰され、それでもそのたび這い上がってきた少年だった。だがだからこそ、【自信】というものに対して、理由無く持つことができないでいることも、分かっていた。

 アリアムは照れと強がりの裏側に、ダメな自分という恐怖を抑え真に成長し始めた男の魂をそこに見た。そこまで来れた少年に、そこまでたどり着いた少年に、胸が詰まって熱くなる。嬉しいと素直に思った。自分の言葉の幾つかが、その助けになれたのだと思えて、万感の思いに満たされる。

 この少年なら、大丈夫だと安心した。安心できた。なぜなら、あとひと押しが足りないだけだと自分は解っているのだから。

 だから、苦笑する。だから男は微笑んで、もう一度相手の頭に手を置いて、静かに言葉を紡いでいた。

「カルロス。イイことを教えてやるよ」

「イイこと、だぁ?」

 アリアムは、カルロスの頭に手を置いたまま、振りほどこうとする力に負けず強く押し込みながら、言葉を続けた。

「冗談は良い。ホラも実現させるつもりなら問題ない。けどな、嘘は、できるだけ、使うんじゃねえぞ?」

「んなもんは誰も言ってねぇ!」

 そうだな。とアリアムは思う。嘘じゃなく、無意識に怖がっているだけだもんなお前。と。

「良いから聞けよ。生きてりゃな、絶対に嘘をつかない人生なんて、無理だ。嘘つくつもりじゃなくたって、結果的に嘘になっちまう事も多いなんてもんじゃねえほど多い。でもな。基本的には、嘘ってやつはな……誰かの為につくもんであって、自分の為につくもんじゃねえんだよ。人生にゃあな、誰かの為に嘘をつかなきゃならない時が、きっとくる。必ずくる。そういう時にな、信じてもらえなかったら、【嘘】には意味がねえんだぜ」

「わあってるよ! ……でも」

 っく、と、カルロスは小さく口の中で噛み潰し、

「それでも、まだまだな人間が、言ったことを自分ですら出来てない人間が、偉そうに言葉にしてもいいのかって……迷うときも、あるじゃねーか……。嘘を言うつもりなんて無くっても、嘘になっちまうんじゃねーかって、やっぱり苦しくって仕方なくて……怖ェんだ……」

 と、アリアムの手のひらに隠れた瞳で、本音を漏らして呟いた。かすれた声で、手のひらに隠れて上を向き、上を向いたままで震えている。押さえた手のひらに熱い滴が浸みてゆく。

(ったく、まだまだだよなあホントにこいつは全くもう……)

 仰向いたままつぶやいてアリアムは、面倒臭そうに、それでいてどこか嬉しそうに少年の頭から手をどけて、もう一度少年の目線と向き合っていた。

「カルロス。

お前は、完璧でないダメな自分が、偉そうに人に言うのを、格好つけて未だ無い未来を語るのを、悪いことだと思っているか? 実力がまだ無い人間が、自信の元が無いままにできもしない事を、夢物語を語るのは、ダメな事だと思っているか?

違うな。間違っているぜ。そいつは欠片も悪くなんてねえんだよ! そいつは、俺のいう【悪い嘘】の範疇じゃねえ。違うんだ。いいか。覚えておけよ。【真実】ってのはな、【相手が信じたこと】そのものなんだ。相手が最後までそれを信じたなら、それは真実なんだ。だからな、相手の真実を壊すな。相手の真実を自己満足で壊すことは、俺は悪だと思っている。たとえそれが正直者の行動でもだ。包むことで癒す嘘は、この世に確かに存在する。それをまずは頭に入れろ。そしてさっき俺が言ったことの本当の意味。今から教えるそれをちゃんと胸に刻み込め。

本当に大事な事、死ぬまで忘れちゃいけねえことはな。最後まで貫けないなら、嘘をつくな。ってことなんだぜ。相手に、見せるんだ。相手を魅せて見せつけるんだ。自分を信じても大丈夫だと。人の前に行くつもりなら、少しでも上に立つつもりなら、自分のするべき最大の仕事は、見ている奴に安心を届けることだと思い知れ。相手が安心してくれるなら、それは嘘でも嘘じゃねえ。相手に不安を届けることこそ、悪い嘘だと考えろ。嘘には、それ自体には良いイメージは無い。つかなきゃつかない方がいい。それでもな、どうしても嘘をつかなきゃならない時が必ずある。そんな時があったとしたら、手前が死んで墓に入るまでつき通せ。嘘をつくならそれくらいの覚悟をしてから嘘をつけ!

良いか。間違えるな。嘘をつくことそのものは、悪じゃないんだ。嘘で幸せになることもあるし、事実を知って不幸になることだってたくさんある。

悪いのは、【軽い】気持ちで、バレてもいいやとつく嘘だ。嘘をつくなら相手の為だ。誰かの笑顔を多くして、誰かの涙を減らす為だ。決して自分一人の為に軽い気持ちでつくんじゃない。忘れるな。ハッタリでもな、格好つけただけだとしても、目的を、誰かの安心を最後まで貫き通せば、それは【嘘じゃない】。始まりが格好つけからだったとしても、そこに意思と熱さえあるならば、死ぬまで格好つけ続けたなら嘘じゃねえんだ。嘘じゃねえんだよ!!」

 アリアムの顔が近い。両肩を強く持ち、被さるように伝えている。

「……」

 強い、言葉だった。強い視線と力だった。熱がこもって響いていた。

 カルロスは目を見開いて、言葉も無いまま聞いていた。

「カルロス。お前は俺が、完璧だとでも思ってるのか? 違えよ。俺もな、嘘ばっかりだよ。言ったことの半分だって出来ていねえ」

「……」

「けどな。俺はその嘘を、嘘のまま放置しない。真実にする為に全力を尽くす。一生かけてもな。嘘を吐く時はそれくらいの覚悟をもってついている。それだけさ。それだけのことなんだ」

「……」

「だからな、どうでもいい所で見栄張って、必要無い軽い嘘は、つくな。いいな? わかったな?」

「……」

 目の前の男は、話している内に熱が入ったのか、いつの間にか歯を噛みしめて、カルロスの肩を両手で掴み、痛いくらいに挟んだままに目線を外さず喋っていた。

「忘れるなよ……!」

「……わかったよ」

 アリアムは、見たことも無い程真剣に話していた。伝えていた。

 これだけは伝えておかないといけないと、心底思って発していた。

 カルロスは、その言葉そのものも勿論そうだが、その真摯な真剣さに、体の奥底、心の芯まで痺れが止まらず震えていた。

 自分の為に言ってくれている。

 それが判って、その言葉の全部が終わるまで、何一つ言葉を返せないままに、震えながらじっと心に刻んでいた。

「……わかった。死ぬまで、忘れない」

 相手の言葉が終わっても、しばらく言葉を返せなかった。そして静かに息を吸い込んで、呟くような小さな声で応えていた。眼差しを開いたままで、ゆっくりと頷いて目の前の偉大な男に答えを返した。

 少年の返事を聞いて、男の顔がくしゃりと崩れ、太陽みたいな笑顔を見せる。

 少年は、絞り出すように魂から返事をしていた。自分の声とは思えない程に、紡いだ言葉には重みがあった。

 それは、誓約そのものだった。

 事実、彼は死ぬまでそれを忘れなかった。

「そんじゃあ、仕切り直しだ。よくやったなカルロス。恰好良かったぜ」

 パンパンと、笑顔のままにアリアムが、肩から離した手を振って、右の手のひら全体でカルロスの背中を叩く。

「………………サンキュ」

 痛みを堪え、カルロスが素直に褒められた礼を口にする。さっき言えなかったお礼の言葉。聞こえなかったその言葉が、アリアムにちゃんと伝わった。伝える言葉で確かに言えた。

「よく出来ました」

 アリアムが再度破顔し笑い出した。それは、心の底から安心した男の笑顔だった。



           第四十七話 『大河 〜集結2〜』  了.


           第四十八話 『大河 〜突撃〜』に続く……


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