第三十八話 『讃歌 4 〜その熱だけは無駄でなく〜』
『……』
三日月の形に口角が歪む。ナーガの叫びに対する返事は、黒き風だった。隠されたフードから僅かに覗く口元が壮絶な歪みを形作り、乱れた風が黒き粒子とともに吹き荒れて一行の進行を阻害していた。
歩みを止めて睨みつけ、全員で武器を構える。風になんらかの命令でも含まれていたのだろうか、追ってきていた機械体どもが、同じく立ち止まり、一定距離で回りを囲んで止まっていた。少年の体から、少年の声で、少年では有り得ない低音の嬌声が響きわたる。
そして、少年の声はナニールの声色で語りだした。
『待たせてしまって申し訳なかったなお前達。少々取り込んでいたのでな。さあ、詫びだ、礼を尽くして迎えてやろう。 む?』
ナニールの体が傾いた。台詞の途中で、ナニールの周辺の床が唐突に円の形に凹んで沈む。バキバキと音を立てて亀裂が走り、ナニールの足首を割れた金属が蠢いて這い上がり、ツタのように痩身の少年の体を絡めとった。
「……油断しましたね、先輩直伝流星棍・陣壊縛! これで解除するまで、あなたはそこから動けはしない!」
カルナだった。黒髪の少年神官が、床に振動と共に棍を押し当て、気合を込めて睨んでいた。
『ほう、やるではないか。ひとの台詞の最中に仕掛けるなど、腹黒い天才の後輩だけあって、余計に黒くて良い感じだ。気にいったぞ、名前は忘れたがクローノの金魚の糞』
「ありがとうございます、褒めていただいて光栄です。が、忘れてくれて結構ですから。あなたが先輩を罠にかけた方ですね……あなたが先輩を陥れた人ですね? あなたがいなかったら先輩が追われずに済んでたら先輩にもっと色々教われたのに教われたのに、ブツブツブツ」
金魚の糞、は文句無いんだ? 誰かの呆れた声がした。
『はいはい、怖いからその辺で黙っていてくれないかカルナ君。でも、上出来だ、そのまましばらくソイツを抑えていてくれたまえ!』
即座に物質化を解除して脱出しようとするナニールに、寸前でナーガが【拘束停滞】のコードを掛ける。
『……莫迦の一つ覚えだぞナーガ。この程度の同じコードを繰り返しても、もはや我には通用せぬと分からぬか』
『そうだね、きっとすぐに解除されてしまうだろうね。しかし、それでもわずかの時間はかせげるはずさ。 さあ今の内だ少年たち! 封印解除コードを有する封印候補者全員で、サブシステムまで突っ走れ!! こちらは気にしないでいい、脇目もふらず一直線だ! ここからは打ち合わせ通りそれぞれの判断で行動を開始する! カルナ君ももういい、君も行くんだ!』
「少年『少女』って言ってよもう!」
怒りながらもラーサが走る。
それに続いて床から棍を引き抜いたカルナ、ナハト、カルロスが急いで続いた。
「ムハマド! あんたもお行き! 引率は任せたよ!」
「はい了解です! 任されました!」
「いまだ、行け!」
デュランが大剣から炎を伸ばし、振り切りながら道を作った。爆炎が駆け抜ける。炎が敵を溶解させ、遮る者のいない道が一瞬だけだが現出する。
その道を目指し、五人が連なり、【停滞】と金属の蔦で固められているナニールのそばを抜けてゆく。拘束されたナニールが、面白そうに視線だけを動かしそれを追った。
通路の先、かすかに見え始めていた防護扉に向かい走る彼らに、左右から新たな敵が殺到した。応戦しながら進みゆくその光景を、ナニールの瞳が冷ややかにじっと見つめていた。
『……そうか、なるほどな。計画通り(・・・・)というわけか』
『そうさ、君が予想よりも早く目覚めるかもしれないということは分かっていた。だから、君を足止めするために、君が出てきやすいように、ずっと苦戦するふりをしていたのさ! 耐えながらゆっくり進むのは、骨が折れたよ全く。だが、ここまで全て計画通り。連携演習までして備えてきた陣形だ。ただの人間たちに押さえ込まれた感想はどうだい、ナニール?』
ナニールの周囲には、剣を構えた生き残りの兵士たちが等間隔で立ち並び、それぞれの剣に組み込まれたエーテルエンジンを駆動させ、五芒星の形で掲げられた光と共に封印の弱まりを遅らせていた。それが彼らに与えられた真の任務、そのものだった。
『ふむ……なるほどな、良い陣形だ。だがその割には、傷が多いようにみえるな? 少なくとも、苦戦していたのは嘘ではないのではないか? なあルシア?』
ルシアが鼻をならして前に出た。
「フン、だったらどうしたってのさ? それでも今現在、アンタが拘束され動けず、コードを持った者達がサブシステムに向かっているのは確かなことさね。正直きつい演技だったけど、油断して出てきてくれたアンタのお陰さ。それで帳尻。終わりだよ、ナニール!」
『油断、かね? だといいのだがな、そう、全てが上手くいくものなのかねルシア? ぬううううう!』
ナニールの全身が青黒く光り【拘束】のコードを分解しだし、それを兵士たちが必死の表情で押さえつける。本来なら二重の五芒星となるはずだった。それが一重。半分だ。仕方ないとはいえ、訓練した陣形を百パーセント使えなかった兵士たちの顔に悔しさがこもる。
力無き者たちが必死で締め付ける光を歪め、縛られた者が、愉悦で口元を歪ませたまま引きちぎろうと暴れだす。兵士の一角が耐え切れずに膝をついた。力の弱った方向に、ナニールが瞬時にベクトルを移動する。
「させん!」
『!』
コールヌイが、ナニールの進行方向に大量のクナイを投げていた。ナニールが停止して全て避ける。符を貼り付けたそれらは全て、無常にもナニールの先方をすり抜けた。口元が歪む。どちらの口元も浮かんだ表情は、【笑み】。
そこに風が飛んだ。仕掛けられたルシアの風がクナイを穿ち、その軌道を『正しく』歪ませる。後ろに繋がっていた糸が衝撃で煙のように広がった。ナニールを中心とした空間ごと絡め取り、クナイの先を錘にしてクモの糸のように瞬時に球状を形作る。糸は、クナイの柄尻から繋がれた炭素ワイヤーだった。風が渦巻き糸を絞る。コールヌイが手元の糸束を操作して一気に強く引き締める。同時に繭のごとく扇状に編みこまれたワイヤーの束が、ナニールの全身に糸巻き車のように絡まった。
無数の原子の糸に覆われたナニールを、そのまま千切れろとばかりに締め上げる!
「……これでも……効かんか。だろうな」
鋼糸で切れたフードから、シェリアークの顔をしたナニールが無傷のままに現れた。
よく見ると、ナニールを覆った原子ワイヤーは、全てがナニールの皮膚から数センチの空中で止まっていた。締め上げられた、本来の威力であれば敵の身体を細切れに細断する鋼の繭は、ナニール本体までは届いていない。
コールヌイが目に見えた様にホッとする。身体はちゃんと無事のようだ。
必殺の技を無効にされたコールヌイだが、それですら全て予想の範疇だった。そうでなければ彼がこの作戦を良しとするはずはなかったろう。要はサブシステムが解除されるまでの間、その存在を拘束できさえすればいいだけだ。
『危ないな、もう少しで傷がつくところだったぞ、良いのか? コールヌイ。眠りから覚めることは既に無いとはいえ、これはお前の大事な者の体ではないか?』
少年の顔で、少年の声で、揶揄するように困った顔で指摘する。
「ちゃんと傷つけないよう、切れない厚さに鋼糸を潰して紡ぎ直しておるよ。心配してもらって光栄だがね。私が……いや、この己が、若を傷つける危険を少しでも冒すなどと、どこの無知蒙昧が思うのかね」
コールヌイの両眼が、押し殺せない怒りで爛々と光を反射して、光っていた。そして、提案する。懇願にあふれた願いを無理やり抑えて提案する。
「お願いだナーガ殿。ナーガ殿には悪いが、【若の相手】は己にさせて頂きたい。この為に……この為だけに選ばれてもいない自分が、潜り込んででもついてきたのですからな。もしも駄目だと言われるのなら、」
体に吸い付く黒衣をめくる。下着に似せて腹に巻かれた弾薬が、決意の重さを示していた。
誰もが予想外だったのだろう。全員が息を止め、目を見張ってそれを眺めた。
ずっと、付けていたのか、それを。船に乗っていた間もずっと。
誰にも相談することなく、黙ったままだった事への怒りより、その決意の重さに全ての者が痛みを感じた。
『コールヌイ、君は……。分かった、ここは君に任せよう。ただし、援護だけはさせてもらう。そこは譲ってもらわないと困るんだが、それでいいかい』
「了解した。お任せする。……かたじけない」
「ちょっと! 二人だけで納得してんじゃないよ! この作戦には、他のみんなの命もかかって……!」
『良い心がけだがな、コールヌイ』
ルシアの怒りに割り込んだナニールが、揶揄するように語り掛ける。
『我はナニールだ。シェリアークは永劫の眠りについた。いくら命をかけようが、説得の言葉なぞ、届きはせんぞ』
「黙れ……貴様に何が分かる! 貴様に若の、自分たちのこれまでの、いったい何が解ると言うのだ!!」
永の年月、冷徹を自らに強いてきた男の、誰も見たことの無い表情がそこにあった。悲しみでもなく、苦しみでもなく、怒りでもない、ただ、【重い】。そんな表情がそこにあった。誰もが絶句し、一人を除いて納得する。そう、仲間の中で唯一人、【失いしものを取り戻すことができる位置に居て、その為だけに参加していた男】の、それはそういう表情だった。誰もが二度と取り戻せないものを抱える中で、その【位置】にいる者の行動を、止められる者など、いるはずがなかった。
それを受け、それでも嘲笑できるただ一人の者が口を開く。
『そうかな? 本当にそうか? だがコールヌイ、我は奴の記憶も継いでいるのだぞ? 意識など無くとも、奴のことは我が一番理解しているかもしれんなあ? お前では無く、この我が。悔しいか?さぞ悔しかろうな痴れ者が』
カカと嗤い蔑む声が空間を静かに滲み、染み渡る。
「それがどうした道化者」
『・・・・・・』
笑みが、止まった。
「星の恨みに操られ、どこまでがおのれの憎しみかも判らぬほどに混ざりきり、曖昧な意識のままで同胞を駆逐しようとしている、そんな哀れな人形などに言われたくは無いのだよナニール。若の真の願いも痛みも苦しみも知らず、記憶だけ知識として知ったのみで、それで理解したなどとは笑わせるにも程がある。世界を憎み、全てを憎み、おのれの弱さをついぞ認めなかったお前などには、到底【理解】できはしないであろうよ。たとえ、記憶を共有しておろうともな」
『さて……それはどうかな?』
初めて、笑顔も笑い声も無しでナニールが声をだした。
「……ナニールよ。我らは既に、お前の過去も、お前が星の負の側面に利用されていることも、知っている。知っているのだ。お前も……そうなのではないか? お前ならば自分の状況にとうの昔に気づいているのではないか? 気づいていてなお、利用されたままでいるのではないのか? それが、一番【楽】だからな。そんなお前のような者などに、これ以上、かける言葉も交わす言葉もありはしない。お前はもう、救えない。救われるつもりの無い者は救えない。ならばせめて若だけでも救い出す! 救ってみせる! 若の笑顔を必ず戻してさしあげる。若を、【お前と同じもの】などにはさせんよ。決して……断じてだ!!」
『・・・・・・』
扉に向かい走り続け応戦しながら、離れた場所で気遣わしげにこちらを気にする少年たちに、声を張り上げ、告げる。
「カルロス君、ナハト君、カルナ君、ラーサ嬢にムハマド君。……行ってくれ。我が弟子ファングよ、こちらは気にしないで良い。彼らの方のフォローを頼む。ここは必ず、何としても食い止めておく。頼……いや、【任せた】ぞ」
『……!! ……師匠! 無茶です師匠!』
「そうよコールヌイさん……! だって、ナーガさんだからこそ、その役を任せても大丈夫だと思ったのにっ。ナーガさんでなきゃ、いくらコールヌイさんが強くても、生身じゃきっと死んじゃうよ!ここはあたしたちみんなで力を併せて……!」
視線が、ラーサの言葉を止めていた。
「私が。己が、任せて欲しいのだよラーサ嬢。申し訳ないが、ここは譲れんのだ。ずっと……何もできず過ぎ去ったあの日からずっと、一度も勝てずとも生きながらえてきた命の意味を、ここで創りたいのだ。己はこの為に、この瞬間のためにここに来たのだ。時代を超えて、世代を越えて。この為にこのチームに、密航してでも無理やりついてきたのだからな。だから、お願いする。後生だ皆よ。ここは、任せてくれんか。負け続けてきた己の生の最後に、ただ一度だけの勝利を己に……若に笑顔を取り戻す機会を……この通りだ!!」
その乞い媚びる視線に歴戦の勇姿も、人生を重ねた壮年の男の強き面影も、無かった。情けない懇願の中に、ただひとつの大事なものを見つけた男の、若く我儘な矜持だけがそこにあった。
「……ったく、しょうがないね、このチームは勝手者ばかりだよホント! あああ、いいよもう、フォローしてあげるから、ぬかるんじゃないよコールヌイ! ラーサ、あんた達もだよ! 一番大事なところを任せるんだ、こっちなんか気にしないで、そっちを必ずやり遂げな。抜かったら承知しないからねほんとにもう!」
ルシアが折れて、怒りながらもそれを認めた。
「……ししょー……分かりました! あんたたち、良いわね!? ナハトさまもいいですね!」
「了解です」
「ったく、仕方ねーな、任されてやるよ」
「分かった。ディーも、無理しないで」
『……お母さん、皆さん、師匠も、お気をつけて。システムを全力で開放したら、必ずフォローに戻りますからね! それまで、無茶しないでくださいね!』
「……」
さすがにこの先のミッションは、宇宙船にいるファングにも、同時中継でフォローするだけの余裕が無いのだろう。ファングからの中継画面が空中から消える。外郭の外、船にいる者すらもが悔しそうに応える中で、ムハマドだけが、静かな笑みをたたえて全てを受け止め眺めていた。その笑顔の意味を、誰にも知らせず悟らせぬまま。
『……行かせると思うのか?』
揶揄も油断もそぎ落とした平坦な声で、ナニールが力を増す。電子力とでも呼ぶべきオーラが、紫電をまとい狂いだす。荒れ出した電流で、絶縁体にする為、単原子鉄に鍍金されたカーボン繊維が、放出されるエナジーの抵抗力に負け、ブチブチと切れだしていた。鉄の原子だけが残される。見るみる内にそちらも酸化を遂げて崩れ出す。
『邪魔をさせると思うのかい?』
「そういうことだ」
「右に同じということです」
ナーガとデュランが少年達との間に入り、左右から挟みこむように武器を構えた。【拘束】術式が五芒星のラインをさらに太くして、ナーガの気合で輝きを増す。後ろではリーブスが援護するように幾重にも思考誘導ナイフを纏わせて、四方に向けて構えていた。
「皆……かたじけない、感謝する」
「いいよ、そんなのは。それより……必ずシェリアークを呼び覚まさなきゃ承知しないからね。負けたら終わりだってこと、忘れるんじゃないよ!」
コールヌイは改めて、電子力で輝きながら沈黙を守るナニールに向きあった。
「若……多少荒療治になりますが、起きて頂きます。後でお恨みになられても結構。しかし必ず、笑顔を取り戻していただきますので、お覚悟してくださいませ……!!」
コールヌイが、宣言と共に黒衣を脱ぎ捨てて、素顔と全ての武装をさらす。現れたその姿は、全身が暗器の群れで覆われていた。コブシに鉄爪、ひじ膝かかとに仕込みクナイ、腕には強化自動弓、両腰に下がるは大小四振りの剣の群れ。体に巻くは、何百もの炸裂弾と千を超える数のセラミック投針、そしてプラスチック爆薬の腹巻。他にもワイヤー含め、もろもろ全て身に着けている。何十kgあるというのか。コールヌイでなければ、重みで歩くことすら困難だろう。片足代わりの黒杖も、重々しい音を立てて重みを支えた。いつの間にか、セラミックコーティングを施して強度を高めてあるようだ。
これを最後の【いくさ】と自ら定めた、これまで誰も見た事が無い、元黒衣の男の姿がそこにあった。誰もが初めて目にするそれは、コールヌイの正真正銘全力の姿。
ただ一個の人間戦車。ただし戦車百台分。それが、彼のリミッターを外した最大戦力の姿だった。
『……なるほど。力比べというわけか。ただ独りの【人間】が、封じられ能力が半減したとはいえ、精霊体である我に挑むか。良かろう、しばしの間遊んでやろう……くるがいい』
ナニールが半眼で言い放つ。怒りなのか、それとも別の感情なのか。それは少年の声のまま、地獄のような響きを伴い、耳に届いた。
少年たちの足音と破砕音が遠ざかる。その音の群れを聞きながら、コールヌイを除いた大人たちはくるりとナニールに背を向ける。
決着が着くまで、この闘いに、どのような邪魔も入れるつもりは無かった。
体でバリケードを形作る。義務や正義ではなく、自らの意思でこの場に赴いた者たちの顔に、凄まじく壮絶な笑みが浮かんだ。周囲で包囲を狭めてくる無数の機械体の群れの真ん中で、誰もが不敵に笑い、構えていた。
◇ ◇ ◇
少年少女たちは走っていた。後ろ髪ひかれながらも、前を向いて全力で走っていた。押し寄せる金属の敵の群れ、その嵐の中をかいくぐり、巨大通路の出口に向かって走っていた。
『皆さん! その前方の扉が一番の近道です!』
ファングの声に導かれ、ナニールの妨害に遭うこともなく、扉までたどり着く。巨大な扉の横にある通用口に取り付けられた電子錠の開錠に、ムハマドがファングと連絡を取り合いながら立ち向かい、他の皆は後ろから襲い来る敵を排除しながら作業する場を守りぬく。
扉が開いた!
なだれ込むように扉を抜け、先を目指す。
ファングから中継され呼び出した地図を、ラーサが水晶で確認しながら指示を出し、幾重にも重なる通路を左に右に折れて折れて突き当たる。潜水艦の扉のような分厚い壁に取っ手があった。先にたどり着いたナハトが、横のセンサーのボタンを押し、指先を針で軽く衝く。あらかじめ聞いていた通りに、滲んだ血潮をセンサーに擦り込むように塗りこんだ。
重々しい音を響かせて、引きずるように扉が開く。その先にも何重にも同じ扉が。その度に塗りつける血の役を入れ替えて、そして最後の扉が開いた。
「……あった!」
安堵したように誰かが叫んだ。天井高い部屋中に、はびこる冷気と無数のパイプ。その中心に、パイプオルガンのような形を成した、巨大な塔が存在した。
サブシステム【カムイ】、その全景が、人間の前に500年振りにその姿を現し、明滅した。
第三十八話 『讃歌 4 〜その熱だけは無駄でなく〜』 了.
第三十九話 『讃歌 5 〜秘心〜』に続く……




