第三十六話 『讃歌 2 〜望みに届かぬ成果でも〜』
「ふう……スッキリした。よぉ、元気だったかオマエら」
目に見える全ての敵をなぎ倒した少年が、最高の笑顔でこちらに向かい歩いてくる。すかさずその顔にラーサのこぶしがめり込んだ。
「ふうスッキリした、じゃないわよ────ッ!なんも無かったような顔して気持ち良さそうにあいさつしてんじゃないわよこのスカタン! さっきのはいったいなんなのよバーサーカー!」
顔を押さえた少年が転げまわって唸りまくる。
ラーサがつかみ掛からんとする勢いで馬乗りになり食って掛かり、ポカポカゴスゴス、マウントから殴りまくった。それはそうだ、あんなもの、広いとはいえ閉鎖空間でぶっ放されたらたまらない。命があっただけめっけものだ。
「というか、なんで地上での戦いの時、あれやらなかったのよ?」
「ぐ。出す暇もエネルギーも無かった。気にするな。というか、出す前にやられたしな、あン時おれ」
襟元を持ち上げて半眼で聞いてくる仲間の少女に、律儀に答えを返しながらも自分で言って落ち込みまくり、それでも、今のカルロスは視線だけは外さなかった。見上げた成長といえるだろう。
準備に時間と気合が要るんだ。ちょうど怒りでそれが充実しまくっててな。というカルロスの頭を、またもラーサのコブシが襲う。少年が顔を庇った。痛くはないが……
(痛い痛い、やっぱり痛い!)
少女も成長していたようだ。自らの非力さ、力の無さを痛感し、それでも前に進むとき、人は高く飛べるのだろう。
(だからといって文字通り【腕力】まで成長しなくても良いだろがッ。必要ないだろ水晶使い!)
馬乗りになってさんざん拳を見舞いながら、ラーサが叫ぶ。
「だからってここでやるな──ッというか無駄遣いするな───ッ!!」
このあとが本番でしょうが! というラーサの指摘はとても正しい。
少年側にも言い分はいろいろあった。理不尽な暴力に文句のひとつも言いたくなった。
「ばかばかばかばか、無茶しちゃってもう! 弱いくせに弱いくせに! 無茶……してさあ……っ」
それでも、その瞳に浮かぶ雫の光を見てしまうと、もはや何も言えないカルロスだった。
(心配すんのか、怒るのか、どっちかにしろよ……ったくよォ)
「いや……ちょっと腹に据えかねる出来事があったモンでな、出しやすくて。お陰でかなりスッキリしたゼ、はっはっは、サンクス」
だっだら、巫山戯るしかねえじゃねェかよ。
「ざけんじゃないわよバカーッ!」
いま一度掴み掛からんとする少女を、ナハトとデュランが必死の勢いで羽交い絞めしなだめていた。
あんがとな……顔をかばったまま寝転びながら、カルロスが胸の内でそうつぶやいた。
そのときだった、天井や壁のあらゆるスピーカーから、声が漏れて溢れ出す。
────『良いワケあるかボケェ!! だったら、そんな結末だったなら、おれはなんで、なんでここに来た!?』
「へ?」
────『ええんやて。あんがとな、お前のお陰で、頭が晴れた。お前は世界を壊そうとする阿呆から、世界を救ったんや……胸張って帰れや』
『アベル────ッッ!!』
「……ちょ、これ、まさか」
倒れて寝転がったままの少年の顔に汗が差し、疑似重力に引かれるままに一筋流れた。
『さよならや、カルロス。お前に会えて良かったで、感謝しとる……達者でな』
『ちょっと待てコラァ───────────……………ッ!!』
プツン……ツーツーツー、ザー………
時差放送がいったん終わる。途切れ途切れだったが、最後まで聞けたようだ。
気まずい空気があふれ出た。主に少年の方からだ。少女の側からはニヤニヤ笑いの雰囲気がダダ漏れで伝わってくる。
「なん……だ、この、放送……は……ッ!?」
事態をだいたい把握した少年が、起き上がり真っ青になって問いかける。
少女、ラーサの爆笑がこだまして響いている。
「ああ……たぶんですが、クローノさんが盗聴していたらしきものをあちこちで放送しているらしく。いやあ、凄いですね、あの人の技術。不肖、このリーブスも、坊っちゃんとアベル君の華麗なる会話と決闘をつぶさにしっかり聴かせていただきました! 聴けてほんとに良かったです!」
ごちそうさまです。飛びかかったカルロスに首を絞められながらも、リーブスが感激で涙を流して苦しそうに答えていた。
「なん……だと……ッ?」
「ああ……映像も、見たかったですねえ……」
「うるせえ黙れ! 忘れろ忘れろ忘れやがれェ! あ、あ、あ……あんのクソ慇懃野郎ッ!!!」
絶対いつかシメる!
しみじみと残念そうに言う執事に、目を剥いたカルロスが、ぶり返して方向転換した怒りのままに真っ赤な顔で叫んでいた。
「坊っちゃん、言葉遣いがお悪いです。せっかく皆さんが坊っちゃんのことを見直してくれた直後ですのに」
世界中で話題ですよきっと。ヨヨと嘘嬉し泣きで感激しながらのたまう執事に、絶句したカルロスが向き直った。無意識に話題を変える。すり変える。
「……あ? ああ、なんだお前、またその呼び方に戻しやがったな? 出発直前に呼び方変えたろーが! おれに相応しい呼び方によ! あれしろ。あれしやがれってんだ。さあ、リーブス。口直しだ。あの時のおれの呼び方をもう一度するのを許してやるゼ。許してやるからさっさとここでのたまいやがれ!」
完全なる逃げ、論点どころか話題まですり変える気だ。それでも主人想いのリーブスはそれに乗った。そう、彼は執事、執事は主人の危地を見捨てないのだ。笑顔で首を絞められながらもリーブスが小首をかしげ、
「え、あの時……? ……ああ!分かりました……では、お言葉に甘えまして、ん、んん……坊ちゃま!!……グェェッ!」
「よけい悪くなってんじゃねーかテメーッこの、このッ!!!」
カルロスが泣きそうになりながらも、ままならない執事の首を強く強く締め上げた。
「……やあっぱ、カルロスはカルロスよねぇ」
どこかから深いため息が聞こえていた。
「ラーサもサンキュな。治療と術後ケア、助かったぜ。お陰でだいぶ本気で動けた」
ひとしきりリーブスをいじめた後、カルロスは珍しく素直に感謝を示す。
クローノには、いつか仕返しするそうだ。
「ふ……ふん! 大したことないわよあれくらい!」
「真っ赤になってるよ、ラーサ」
「ナハトさまのいじわる!」
茶々を入れたナハトが、真っ赤になった少女からコブシで胸を叩かれている。
微笑ましい光景だった。少しだけ、皆の力が戻っていた。
「……まぁ、なんにせよ。全員無事で良かったゼ」
そのカルロスの一言に、騒いでいたラーサたちのトーンが沈む。
「あ? どうしたよ」
「坊っちゃん……実は……」
カルロスはこれまでの顛末をようやく聞いた。つい先ほど、先発隊の兵士たちが半減したことも、全てを。
静かに聞き終えたカルロスは、残った兵士たちの前に立つ。正面きって声を上げる。
「カルロス=ローエンだ。遅れちまったが、合流して作戦にあたる。よろしく頼む」
兵士五人が頷いた。そこへ少年の質問が飛ぶ。
「で、だ。アンタたちの名前を教えてくれ」
「?」
残った兵士五人が、不思議そうに顔を見合わせた。名前など、無くとも連携には支障ない。支障無いように即席であれど訓練したのだ。だが、少年はその説明を聞いても繰り返す。
「教えてくれ、名前だよ。あんだろ、アンタたちにもよ」
「はあ、それはまあ、ありますが……」
代表して一番正面の少しだけ背の低い兵士が答えた。
「それを、おれに聞かせてくれ」
なぜ?と兵士が尋ねようと口を開けかけ、カルロスの次の台詞を聞いて絶句した。
「死んだ五人の名前もだ、一緒だぜ」
「!? どうしてなのか、質問してもよろしいでしょうか……」
「仲間だからだ」
「!!」
五人が瞳を瞠っていた。
「共に命張って作戦をする以上、仲間さ。いまここにいない五人の顔は覚えようがねェ。けど、名前だけは絶対に忘れねェ! 絶対にだ!! おれは認めた奴の名前を知らねーままにしたくねぇ。心の中に残してェ。それだけだ」
「認めた……やつ……」
「そうだ。あんたたちは自分の意思でここにいる。ここまで来た。途中で途絶えたとしてもその価値も尊さも変わらねぇ。だからさ、共有しようぜ同胞。あの放送を全部聞いたんだろ? それでもアンタたちは立ちあがり、その気合入った顔をしてくれてるんだろ? なら、おれにとってアンタらは必要な、敬意を払うべき仲間だよ」
ありがとうな。少年の頭を下げたお願いに、兵士たちが顔を紅潮させながら、一人一人名前を告げて、手を出していた。
「さあて、無事合流できて挨拶も済ませたことだしよ」
カルロスが声のトーンを変えて言う。
「そこ、仕切ってんじゃないわよトサカチビ」
ナハトがまあまあと取り成す中、カルロスが視線を前に向けた。
皆の視線も同様だ。その視線の群れの先で、また、先ほどと同じくらいの浸透圧で、敵の大群が生み出され、押し寄せ始めていた。
ナハトがふざけて声を上げる。
「さあ大変だ、大変だよね。ここを乗り越えてあの向こうにたどり着かないといけないんだから。あの奥に、オレたちの目的であるサブシステムがあるんだからさ」
「そうですね……まずはその味方のシステムを再起動させないと始まりません。坊っちゃん用意はよろしいですか」
「む、長い戦いになりそうだなナハト……だが、負ける訳にはいかないな」
『その通り。ボクらには勝つしか道は無いからね』
「当ったり前でしょ、さっきからセリフが分かりきったことだらけ。だけど、気合を入れるためなんだから許してあげるわ」
「ですね。ちょうど持ってきたお茶も切れたことですし」
「先輩のサポートを無駄にする訳には参りませんし」
「なんと言っても目的地は、すぐそこですからな」
「さぁてと、それじゃ、皆で征くとしようかね。バカ息子、サポート頼むよ」
『はい、お母さん!』
全員が緊張を取り戻し、武器を構えるその前に、カルロスが一人、先に足を踏み出した。
「アンタ! このごに及んでまだ協調性ってもんが……!」
ラーサが誤解して声を上げる。だが、そうではなかった。
「ワリーが……ちょっと先頭に立たせちゃくれねーか」
カルロスがちらりと横向きで頭を下げる。面食らったラーサたちが口ごもった。
「……何か、理由があるんだね?」
ルシアの言葉に頷いて、少年は振り返らずに答えていた。
「ああ……ここに来れなかった奴の代弁を、してやらねーといけねーんでよ。ワリーが、頼むよ。おれに先攻……一番槍をやらせてくれ」
「……アベルかい?」
「分かってんじゃねえか婆さん……っとぉ、ルシアルシア。怒るなぃ。ここはもう相手の心臓部だろ? なら、ここで叫べば聞いてるはずだ」
アーディルのやつがな。もちろん、ガイアもナニールも。
「……」
「頼むよ」
「……仕方ないね。三分だけだよ。たぶん、ヤツラと戦端が開くのもその辺りだ。口上が終わったら、突撃するから用意して待ってるよ。……皆も、それでいいかい?」
全員が頷いていた。
「サンキュ……じゃ、ちょっとばかし先に行ってくらぁ!」
カルロスが、敵の大軍団が迫る正面に立っていた。仲間たちから50メートルは離れていた。もう、相手の形がちゃんと分かる。細部まで見える距離しかない。既に邂逅まで三分を切っているだろう。いい頃合いだ。
「よォ、聞こえているかよガイア、そして惑星アーディル」
返事は無い。当たり前だ。言葉が通じているはずがない。ただ、大軍勢が押し寄せる音が響くだけ。それでも、
それを前に緊張しながらも口元に笑みを浮かべ、少年が深呼吸して鞭を格子状に構えた。受けの構えだ。そして受け取った言葉と、自分の答えをしゃべり始めた。
「聞こえてなくても聞いてろよ、おれの、人類の一部分の、気持ちの全てをぶつけてやるぜッ」
「アーディル……惑星か。でっけえなあ。 お前から見れば、おれたち人間なんて、本当に小さくて、矮小で単調で、単細胞で微生物で、ただの本能と欲望の塊のバカに見えるのかもしれねーな……」
自嘲気味の、この少年らしくない諦観の表情で、構えたまま静かにカルロスが呟き始める。
「お前におれたちの先祖がした仕打ちを考えりゃ、お前の恨みも……理解できるなんて言えねェし言いたくねーが、否定なんてできやしねえよな。……憎いよな。恨んでるよな。異邦人の癖にでけー顔してんじゃねえ!って思うよな」
少年の言葉が続いてゆく。
「せっかくおれらの事も受け入れようと思っていたら、気づいたら自分の子供たちを根こそぎ滅ぼされ、奪われていた……クソみてぇな酷ぇ話だ。そうだ、お前には権利がある。おれたちをあざ笑う権利がある。だからな」
少年が顔を上げ、迫り来る機械たちを正面から見据える。
「好きなだけあざ笑えよ嘲笑え、お前たちは星の敵でも生命の敵でも無かった、ただの人類の敵だ。生命の敵ではなくなった、星の怒りと恨みの塊ども。好きなだけおれたちを罵って嘲笑うがいいゼ。揺り籠を自分で破壊して泣いている、バカでションベン垂れなクソガキ共を」
大群が迫る。もう細部までが見て取れる。
「そうだ、おれたちの先祖は確かに、お前に泥を蹴りかけた。お前の優しさに気づかずに、気づかないまま踏みにじった。そのせいでこの星も人類も、黄昏を迎え、そのうちどころか今にでも終わりを迎えるかもしれねーよな」
少年が、歯を剥いた。
「けどな……それが、なんだ。だから、どうした。それで滅びを受け入れろってのか。おれたち現在に生きてる人間に直接関係ないことで、滅ぼされなくちゃならねーってのか?……冗談じゃねーよクソくらえ! おれたちは諦めないゼ。諦めてやらねえよ。絶望しつくしてやらねェ。歩く事を止めねェ。信じることを止めたりしねェ。足掻く事を無くさねェ。妥協することを恐怖しねェ。熱を失ったりなどしてやらねェ! そして……恨みに一生を囚われたりなんてなあ、ゼッテェにしてやるもんかよ舐めンじゃねェ!!」
少年は怒鳴る。腹の底から感情をぶつけて怒鳴り続ける。
「おれたちは前を向き続ける! 人類全てを後ろ向きになどできねェと思い知れ。ちっぽけなおれたちの魂にゃ、星よりデカい誇りが確かにあると知りやがれ! お前たちもおれたちも、これで等しく痛みを負った。ならば今こそ妥協を目指そう。目指してやる。お前たちができねえと言うンなら、おれたちが妥協してやる。目指してやる。お前たちがおれたちを受け入れられねェと言うんなら、おれたちの方から受け入れてやるさ。
誰も恨みは忘れねえ、忘れたりしねえぞ。けどな、それでも、それに振り回されたりする奴ばかりじゃねーんだよ! ちっぽけな人の想いをバカにすんなよ? 束になれば星をも越えるシロモノさ。妥協できねェならさせてやる。邪魔すンのなら蹴散らして通る。まずはおれ達の力を認めさせ、おれ達の覚悟をぶつけてやる。その上で交渉の席につかせてやるぜ。聞こえてっかよ惑星アーディル!! その怒りと恨みの塊のクソ野郎ども! 言葉が分からねェって言うンなら、感情が届くまで近寄って、コブシで全てをぶち込んでやるよ! 歯ァ食いしばれやタコ助野郎ッ! お前らの敵だった過去の人類はみな死んだ。死んだんだ! 今居る奴らに負債を返すな。カリを返すのはおれ達だ。お前じゃねェ。それくれえ返させろ。強制なんかじゃ戻らねえスゲーもんを還してやる。約束すんぜ。生き延びて必ず星を再興してやる。おれたち皆が笑える星を創ってやるぜ!! 共によ、暮らせる家を建てようじゃねーか!」
「……相変わらず不安定で、聞いてるとどっか微妙に論理が破綻してる気がしてくる様な、むず痒くてたまらない口上垂れる小僧だね。しゃらくさい上に危なっかしいったらないよ本当に」
辛辣な老婆の言に、聞いている全員が、苦笑いを浮かべて肩を揺すらせる。だが、
「……それでも、どうしてでしょうな。なぜなのか全く理解不能ではありますが。……熱だけは、ちゃんと減らずに届いている。こちらの体に問答無用で浸透し、冷めた中身を奮わせてくる。まるで、そう、荒れ狂う太陽そのものの様にですな」
口元を歪ませて、黒衣の影が不器用なこの男にしては最大限のフォローの言葉を口にする。
「……ほう、珍しく殿下以外を庇うじゃないかコールヌイ」
「……まあ、思うところもありましてな」
老婆と黒衣の掛け合いを横目で見ながら、ナハトがデュランに耳打ちする。
「……なんか、本気で愉しそうだね、コールヌイさん」
「それはそうだろうな。出発前に見舞いに行ったカルロスと、色々話したらしいからな。落ち込んでいた少年の背中を押したら自信をまとって返って来たんだ。そりゃ、さすがの彼でも愉悦もするさ。例えそれが、まだまだ完璧では無いとしてもな」
完璧では無いからこそ、また愉しめるのだとしたら尚更なのかもしれなかった。
見ている面々の視界の中で、敵の動きが加速した。怒ったのだろうか。敵の先頭と少年との邂逅まであと10数秒も無いだろう。
「ま、そうだろうよ。言葉だけじゃ伝わらねーだろうさ。だがな、こいつを言いたくて言いたくて、言えないまま全てを被って消えようとしたヘタレがいた。そいつの言葉だ。ゼッテェに伝えてやるよ。伝わらねーってんなら伝わるまで叩いてやんぜ!」
カルロスの言葉がまた続く。そのまま腕が静かに上がる。防御の型に敵の攻撃が当たり始める。合図の準備に後方で見守る皆が武器を構えた。振り上げた腕に力がこもる、後ろの空気が凛と動いた。
「おれたちはもう二度と間違えない。お前にもこれ以上間違えさせねェ。お前がなんと言おうとも、今生きているおれ達は、ここが、【お前が】ホームだからだ! 互いに恨みは残るだろうさ。二度と消せないかもしれねえ。けれど歯ァ食いしばって笑い合おうぜ?
出来るはずだ。出来るはずなんだよ! いつか互いに手を取るために。いつか互いの手を取るために。いつか、……いつか何百年先の未来に向かう扉を開けて、共に高みに昇るために。だから、滅ぶのは今じゃねえ。【今】じゃねェんだよ!! だからヨォ……可能性まで勝手に潰してんじゃねーぞアンポンタンのコンコンチキ!!
今はよ、互いに殴り合おうぜ仕方ねえ。だがよ、だからこそここは潰す。いつかの為に今はテメーを止めてやる。おれらの後ろにゃ行かせねェ。おれらの為に。おれ【等】の為にだ!! 必ず感情の熱が届くところまで引きずりだしてやンよ。それまで、互いに頭が冷えるまで、ゼッテェ守りきってやるから、安心してかかってきやがれスットコドッコイ石頭!! っと……どうやらお喋りはここまでみてーだな。行こうぜ、みんな。レッツパーティ!……てなァッ!」
髪を逆立て吠えながら、少年が合図の腕を前に倒す。撃ち出された最前列の敵の攻撃が、次第に激しく届き始めた。カルロスの鞭の防御壁が展開し、プラズマのバリアを穿つ五月雨音を放ちながら質量の塊たちを弾き続ける。敵先頭の手持ち武器があと数秒で届く場所で頭上高く振りかぶられ、同時に。
後ろの気合の声たちが左右に広がり弾けて吼えた。熱気がここまで届いて爆ぜる。カルロスが防御の構えを解き、攻撃の型に鞭を構えた。口元にうっすらとした笑みを浮かべ、瞳を見開いて似合わない開戦口上を締めくくる。
「刻めよテメー等、忘れんな。おれの名前だ。特攻隊長カルロス=ローエン……蹴散らして、まかり通るゼ!!!」
第三十六話 『讃歌 2 〜望みに届かぬ成果でも〜』 了.
第三十七話 『讃歌 3 〜熱を込めた無駄ならば〜』に続く……




