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Grand Road ~グランロ-ド~  作者: てんもん
第七章 ~ On the Real Road.~
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第三十 話 『こだまするもの 〜悲〜』




「なあ、もうやめようぜ……アンタ、なんでこんなことをしたんだよ。それがなんだったとしてもさあ、独りでやんなくてもさあ、良いじゃねェかよ……!?」

 少年が再度鞭を構え、悔しそうに言葉を搾り出していた。

 どうせ最後は一人でやるつもりだったなら、なぜ仲間など集めたのだ。なぜ仲間という言葉を使ったのだ。どうして、どうしてなんだ!

 少年の悲痛な言葉が突き刺さる。

「……」

 肩で息をしながら剣を構え、下を向いた青年が立っている。

「答えろよアベル。アンタと同じように、同じくらいに、おれたちだって星や人を救って、守りたいと思ってんだぜ……なのに、なんで」

 その言葉に、息を荒げたまま俯いていたアベルが反応した。

「まもる……? 笑いを忘れた俺が笑うてしまうくらい、陳腐な言葉やなそれ」

「アベル!」

 アベルがカルロスの顔を見た。死相を超えて黒ずむ顔で。

「……半分やな。青さを差し引いても、半分にも達してへん、まだまだやで」

「……なんの話だよ」

「さっきのお前の口上や。熱くてワリと様んなっとったけどな……それでも、ダメや。星を救う? 守りたい? 違うで、カルロス。俺はお前たちとは考えが違う。違うんや。お前は、お前らはまだ何も分かってへんねん、知ってへんのや、真実ってやつをな。理解してへんのや、俺の絶望の、半分やってな……」

 泣きそうな声……きっとそれも嘘に違いない。なのにとても真に迫った声で青年は言う。

「絶望だって……?」

「せや。お前が知らへん、全てに対する絶望や」

 少年の体が震える。

「アンタが全部に絶望したって?アンタが全部を憎んでるって? 違うな。違うゼ。アンタが絶望して憎んでるのは、アンタだけだ。聞いたぜ。全部聞いた。アンタ、パートナーを助けられなかったんだってな。岩に阻まれて、盾になることも、死に目に会うことすらできなかったんだって?

けど、違うな。アンタは気付いてる。だからアンタは絶望してるんだ。アンタ自身に。

その前さ。アンタが無理矢理洞窟に入ろうって言わなけりゃ良かったんだ。ちゃんと調査してから入りゃあ済んだ話だったんだ。それだけのハナシだろ。全部が全部アンタのせいで、世界や機械は関係ねぇんだよ。アンタはアンタに絶望してんだ。ただそれだけのハナシだろうが!

あぁそうさ。おれにゃあ言う資格も責める資格もねぇよ。認める。おれは、ガキで、青い。おれだってそれなりに辛い目には遭ってきた。けど、アンタ程にはまだ遭ってないんだろう。未熟もイィ所だ。ガキだよ。なんの力も無いクソガキだ! だからアンタを説得する力も納得させる言葉も持ってねぇ。おれじゃあまだまだ役者不足だ。本来ならここに、アンタの前に立つ資格すらねェんだろう。

それでもな、それでもおれは立ちたいからここに来た。それをおれはもう二度と恥じたりしねえ。

それによ、それなりに嫌な目には充分遭ってきたつもりだけどな。ムカつく思いも死にたい思いも山程あるぜ。じゃあなんで死なないかって? それはなぁ、おれが欲張りだからだよ。どうせ死ぬのは変わらねえ。いつか死ぬ。短いか長いかは知らねえが、それまでの間にゃあ、嫌な目も良い目もたくさんたくさんあるんだろう。嫌な目の方が圧倒的に多いだろうけどな。あと何百回も泣いたり絶望したりするんだろうな。良い目なんて数える程だろうぜ。

けどな。いま死んじまったら、その数える程度の良い目を、見れねぇじゃねえかよ。

せっかく生まれたんだ。こんな地獄みてぇな世界にでもよ。数える程にしか無ぇもんだろうが、良いもんがあるんなら、せめて貰えるもんだきゃ全部もらって死んでやるのさ。欠けるのは許せねぇのさ。いつか死ぬまでに、死にたくなる目もたくさんあるんだろうが。

受け入れてやるさ。そん代わり、良い目も全部もらって逝く。

死ぬ時に全部もらったって笑って死んでやる。一個だって残してやるもんかよ。

欲深だって言ったろ? だからアンタもおれが貰う。アンタも全てかっさらう。アンタもおれが手に入れてやる。アンタが生きていたい気分にさせてやるぜ、仕事に充実しまくったおれの側でな! 手伝ってもらうぜ。生きてる間中ずっとな。覚悟しやがれ! だからさ……頼むよ、アベル。

もう、やめてくれ!」

 その長く熱い口上を、肩で息をしながら、アベルは哀しそうに、黙って静かに聞いていた。

「……そうやな、それは、その点だけは、その通りなんやろなぁ、きっと」

 長い台詞のどの点に向かって言ったのか、定かで無いまま遠くを見ながら呟いていた。


       ◆  ◆  ◆


 宇宙港で、通路の先で、ナニールの影たちが嘲笑っていた。

 少女を、船を守り、ナニールコピーたちを防戦一方に抑えながら、それでも戦いは続いていた。

 時間だけが過ぎてゆく。

 抑えるのが精一杯で押し返せない。

 もはや、隠密潜入行動など意味を成さない。陽動も後詰も意味が無い。

 ナニールに代替が存在する以上、計画は完全に破綻した。同時に一気に攻め切る以外に道は無かった。

 だが、遠い。遠すぎる。ラーサが示した目的地まで、ラーサたちですらまだ十数キロの距離があった。

 ルシアやナハトたちの班も、狭い通路にひしめく様に蠢く機械に、一向に前に進めないでいる。デュランの怪力も狭い通路では威力が半減されてしまう。

 ジリ貧だった。正攻法以外の攻略法が存在しない。

 時間だけが過ぎていた。ナニール本体が復活する刻限まで、あと数時間を切っていた。

 誰もが焦って急いでいた。

 誰もの心に隙が生まれた。

 そしてそこに、その毒の言葉が塗り込む様に発せられた。


       ◆  ◆  ◆


「せやなあ……きっとその点では、その通りなんやと思うわ。そんで、あんがとさん。お誘いは嬉しゅう思うで。ホンマな。お前を見くびっとった事も認めたる。せやけどな、遅いねん、もう」

 青年がまた重い口を開く。

「……シィルが死んだ直後に聞いてたら、そん言葉、もっと違って聞こえたんやろうなあ。もっと嬉しくて、きっと誘いに乗っていたんやろうなあ。その頃に聞きたかったで、その言葉。ホンマに。せやけど今はもう、届かへんねん。そん程度の言葉ぁ届かへんねん! あのことを知ってしまった以上は、な。シィルのことだけやないんや、そんことだけやなくなってしもたんや。それでもお前は、俺の説得をするんか。続けるんか。できると思うとるんか、なあ小僧、カルロス!」

 カルロスは神妙に答える。

「言ったろ、アンタを説得する力はねえよ、今はまだな。おりゃガキだ。自他ともに認めるガキ大将だ。まだスカスカで未熟者だよ。何言って良いかもわかりゃしねぇ。喋りたいことだけ喋ってるだけだ。けどな、だからこそ、器とポテンシャルは広大だぜ。自分の未熟と弱さと足りなさを受け入れたからな。あとは昇るだけさ。アンタもな。アンタもそうだ。だからその気にさせるだけだ。熱をブチコンでやる。心に思いきりぶち込んでやるよ。死にたいなんて、ぶっ壊してやるなんて口が裂けても言えなるくれーにな!」

 真剣に話していた。届いてほしいと必死で願って喋っていた。なのに何故だろう、だんだん、自分の台詞が空回っていくように感じてくるのは。

 なんだ、なんなんだこれは? おれは何か間違えているのか? いや、自分の言葉に嘘は無い。なら、なんだ? 何が違う? この漂い始めてる嘘臭い薄ら寒い空気はいったいなんだ?!

「……羨ましいで、その熱さ、熱量……。いつ失ってしまったんやろうなあ、俺は。でも、せやけど、俺の中の病はもう、消せへん、のや。体だけやなく、な」

 肩で息をする青年の短い言葉が、とてつもない重さに感じた。少年の自らの言葉の不可思議な軽さとは対象的に。

 それでも、少年は続けるしかなかった。だが、自らの発する熱が奪われるほどの膨大なサムい感じ。いったい何が起こっている!?

「死ぬ病か?知ったこっちゃねぇな。言ったろ?おれはワガママだって。理屈じゃねーんだよ。アンタが納得する必要すらねェ。させる気もねェ。アンタが欲しい。アンタの力がおれには要る。ウチで出納長が成り手が無くて余ってんだよ。アンタには生きる価値がある。アンタには生きる義務がある。おれが、アンタを必要としてるんだ! これはな、決闘なんだよ。アンタに、あとちょっとでも生きてみてぇと思わせることができたならおれの勝ちだ。負けねぇよ。諦めるんだなアベル、おれに目をつけられたら終わりだよ。アンタぁおれに火をつけた。アンタが死ぬっていうんなら、死ぬ寸前までこきつかってやる。ここにいろ。手を貸してもらう。火元のアンタが先に消えるなんてなぁ、無しだぜ」

 震えが来る。自分の言葉にも心にも熱はまだ存在するのに! 必死で嘘偽り無くしゃべっているのに! とてつもなく場違いで、意味の無いことを言っているような気がする。

 なんなんだよ、ほんとになんなんだよ一体これはッ!?

「せやからお前は何も分かってへんいうとるやろう……? この世の全ての絶望の暗さも知らんくせに、ちょっと苦しかったら落ち込む程度の小ささで、ガキがナマ言って吠えてんやあらへんでダボが」

 青年が可哀想なものを見るような視線で見ていた。

「そうだ!吠えられるじゃねえか。感情残ってるじゃねえかよ。枯れきったなんてウソ言ってんじゃねえよ卑怯もん! そうだよ、もっと吠えろ。吠えやがれ! 全部吐き出しやがれよ。全部受け止めてやらあ!! そんだけの器をおれは持ってる! 信じてるさ。生きてるなら信じるしかねぇだろが! 信じて生きたって信じなくて生きたって死ぬときゃ死ぬだけだろ。器がなけりゃぁ死ぬまでさ。なら、信じて信じて抜いて生きてやる!!!

まだ命があるならおれの所に来い! おれの所に来てから死ね! 充実させてやるよ! 死ぬまでに生きてる意味を作ってやる! だからまだ死ぬな。死ぬんじゃねえ!! おい聞いてッかコラ!!」

 目の前の青年は熱さにウザがり言い返している訳ではない、少年は理解していた。なにか、相手は恐ろしい根拠を元に否定している。

 恐怖が浸透しだしてきていた。何に由来しているのかわからない恐怖が言葉を加速させていた。それでも、嘘では無いから。伝わっていると信じたかった。会話が成立していると信じたかった。だから、ノリを変えることがどうしてもできなかった。

「……こんピエロが……。くそ熱くてくそっ垂れでくそ青くてくそ馬鹿やろうが……軽く見たくなる夢囁くんやないで、ったく、畜生が……」

 寂しそうに、もう捨ててしまいもう手に入らないものを見るがごとく遠くを見る視線で、青年は呟いた。

 それは二度と手に入らない、だからこそ、尊いのだとでも言うかのように。

「だったら!」

 少年が手を伸ばす。必死の形相で伸ばしていた。その手が青年に音を立てて払われる。

「……お前かて……お前かて、誰が本当の黒幕かを知れば、そんな軽いこと言ってられへんやろうぜ」

 いきなりアベルが話を変えた。

「は、黒幕? 何言ってんだ、ナニールって奴だろう」

 いまさら何を言ってるんだ? 面食らったカルロスが素で返す。困惑している。

「アホウが……違う、違うで。ええやろ、土産や。ここまで届いた土産に全てを教えたる。ここでお前も絶望せえ。絶望して熱を失い朽ちるがええ。お前の台詞の全てが空回っとるという理解を得て、俺とおんなじトコに堕ちるがええ……」

「な?!」

 少年の熱量に氷の寒さが刺さっていた。そのかすれた声音に恐怖して固まった。何、だ……これは?!

「ナニール……あの野郎かて、操られとる『手』の一つにしか過ぎんのや。黒幕が『手』を操り、『手』が『指』を操る……。本人が自覚しとるかは知らんがな。そういうシステムになっとるんや、既に、ずっと前から……な」

 体の震えが止まらない。なんだ。アベルは何を言おうとしているんだ!

「……なんだよそれ、何の話だよ? 誰なんだよ、その黒幕って!」

 やめろ……心のどこかが囁いていた。恐怖していた。聞くな、聴くんじゃないと畏れていた。だが、耳は塞げなかった。それをしてはいけないと少年は悟っていた。

「……ええやろう、教えたる。そこで真の絶望を味わうがええ青二才」

 泣いているような目の奥に、無限の暗い虚無を穿ち、青年アベルがそれを語った。


       ◆  ◆  ◆


 誰もが焦って急いでいた。

 誰もの心に隙が生まれた。

『お前たち、【我ら】がどうして存在するのか理解しているのかな?』

 そこに毒が撒かれ始めた。

 それぞれの場所で、濁りのような目線がそこにいる全ての視線をねめつけた。

 ルシアたち相手にも、無数の顔の無い機械体たちの全てがナニールコピーの声を真似てしゃべりだす。わしゃわしゃと壊れた笑いを再現しながら哂い出す。健在な機械体も壊れて首だけになった機械体も、一斉に壊れたレコーダーのように同じ声を出し始めていた。

「!?」

 誰もが何を言っているのか理解できず、そこに止まる。

それぞれの場所で、二体のコピーが、無数の機械が唾を飛ばしせせら笑いながら、言う。

『ナニールが全ての元凶ならば、なぜやつを馬鹿にする我々が存在するのだ? できるのだ? なぜやつの知らない我々が存在するのだ? できるのだ? なぜ、奴の怒りを、絶望を我らは受け継いでおらぬのだ? なぜ、なぜだと思う』

 誰も言葉を発しない。誰もが薄ら寒いなにかを感じて固まっていた。

 悪寒がする。脂汗が出る。聞いてはいけない何かだと感じた。それでも体が動かない。耳すらも塞げないで音が頭に入ってゆく。浸る様にヒタヒタと、滲んで穿って染みてゆく。

『判らぬだろう、解らぬだろう? それでいい、それでいいのだお前たち。静かになってくれたお礼に、お前たちに真実を教えてやろう』

「……真実、だと……?」

 誰かの口がかすれた質問を発していた。

『そうだ、真実だ。教えてやろう、それで力を失うがいい。それで心を壊すとよい。そこにうずくまったまま泣いて許しを乞うがいい。そして絶望に沈むとよい』

 ニヤニヤと嫌らしく哂い、言う。そして、言葉が発せられた。


       ◆  ◆  ◆


「真の黒幕、それはな、『アーディル』や」

 言葉が、聞こえた。聞こえてしまった。

「アーディル? ……この星に到着した大昔の移民船の、船長だったやつのこと、か?」

 少年は質問を返す。儀式のように、違うと分かっていながらも、質問を返していた。

「違う。そっちやない。そっちやったらどれほど楽やったか。どれほど救われていたことか。せやったらこれほど真実を知ったモンが打ちのめされたりせーへんわ。そうやない、そうやないんや……」

 少年が最後の抵抗に激昂する。息を荒げてこぶしを握って睨み付ける。

「誰なんだよ、じゃあ!?」

 静かに、青年は答えていた。それが意味することを世界に浸透させるように。相手に静かに溶け込むように。

「この星、や。」

「……は? 何言って……」

「この星なんや、カルロス。 そう、今現在人間を全て根絶やしにしようとしとる、人間の創ってまった精霊科学の悪意に飲まれ、人間を心底恨んだ心を増大させて暴走しとるやつ。そいつはな、この星の意思そのものなんや……カルロスッ!」

 憎憎しげに吐き捨てる。少年の名前を怒りを込めて呼び止める。聞こえたかと。刺さったかと。

 返せるものなら返してみろと言葉を待って青年が黙る。

 少年の心と体が固まった。時間が止まり脳が停まった。

 その捨て台詞のような語尾で名を呼ばれ、少年の心が呪縛される。空間に漂う響きの後ろ側で、アベルの嘲笑するような、悲しげな瞳が光っていた。



           第三十 話 『こだまするもの 〜悲〜』  了.


           第三十一話 『真実』に続く……



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