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Grand Road ~グランロ-ド~  作者: てんもん
第六章 ~ Open the Cross Road.~ 
42/110

第十八話 『正義ではなく』 [NC.500、火月4日]



「行け行け行け行け行け行け行けえ────────!! ぶひひひひい!」

 ダガンだった。ダガンは破壊活動の最前線に陣取り、自らも参加して街を壊しまくっていた。剣を鞘に仕舞い込み、鉄のこん棒を振り回して暴れ回っている。

「ぶふふう、なんだかぁ、敵の反撃が少ないなァ。退屈だぞお-。うううううおれを退屈させて殺そうって魂胆だな! くそくそくそくそくそっ、なんて卑劣な奴等なんだ!きさまら全員人の皮をかぶった悪魔に違いない違いないぞおお!」

 意味不明の言葉を発しながら、ゲシゲシと炭化して墨と化した死体を踏みつける。

「いいだろう。そっちがその気ならこっちにも考えがあるぞ……。おい! お前等!今からは生きてる敵がいたら生かして捕まえろ! いいか、殺すなよ。半殺しにしておくんだ。そうしておれの前に連れてこい。このおれじきじきに止めをさしてやるからな!奴らの目の前でだ! そいつらに感謝しろと言っておけ。ぶひひひゃはあっ」

 そう云って、ダガンは新しい路地を壊しにかかった。

 しばらくして、後ろ手に縛られた捕虜たちがダガンの前に連れられてきた。

「んん-? お前、前へ出ろ」

 一番元気そうな男をこん棒で指し示す。男が睨つけると、気持ち良さそうに体を震わせ、笑い出した。

「そうそうそうだ! 敵はそれくらい憎たらしくないとなあ。おい、きさま。実はおれたちは逃げ出した犯罪者を追っていてなあ、おまえらが見つけてきてくれるなら、このままそこにいる奴等の半分を解放してやってもいいぞ。他はダメだがなァ。ぶひっひ」

 男はダガンに向けて唾を吐き出した。

 ダガンは笑いながらこん棒を振り回す。

 男の体が赤い華を咲かせたままドウッと倒れた。ダガンはまた一人の男を指し示し、同じように尋ねる。

「さあ、お前はどうする?」

 体を震わせる男の返事に、ダガンはにんまりと顔を崩した。


        ◇ ◇ ◇


 大通りを人々が走っていた。逃げ込んでくる人の数はまだまだ増えそうだ。

 蓮姫は動きやすい服に着替え大通りを走り回りながら、逃げてくる人々を王宮の奥へと誘導していた。

 時々逃げる人を敵の兵士が追っているのを見かけると、剣を発動させ応戦し、そのたびに皆に声を掛け続けた。

「アリアム陛下に連絡を取りました。最高速度の伝書鳩を放したから、すぐにかけつけてくれるでしょう。二日、二日だけ待って下さい! それまで力を合わせてパニックを起こさないで!」と。

 時間を区切り、自らを盾にして皆の心に巣くう絶望を消し去ること。それが、用意していた策が使えなくなった蓮姫が、この短時間で考えたもう一つの策だった。それはギリギリのひらめき、苦肉の策に過ぎない。それを一番分かっているのは蓮姫だった。

 だから死に物狂いで昔の技を思い出し、戦った。

 その言葉と彼女の獅子奮迅の戦いぶりに、皆の心にもしだいに希望が見え始めた。

 武器を持って彼女を手助けする者も何人か現れた。戦う力の無い者は、広間で怪我人を介護し始めた。

 彼女は自分があまり頭が良くないことを知っていた。己れの力の無さも。運の悪さも。 だから、今回は自分だけの力で解決しようとはせず、皆の心に賭けたのだ。

 それ作戦は半ば、成功しかけていた。

 だが────運命はまたも彼女を見放した。


 [この襲撃は、逃げ出したたった一人の男を捜すためだけに行われている]

 そんな噂が囁かれだしたのだ。そして、そいつを捕まえて差し出せば、敵はすぐにでも帰ってくれる、と。そういう約束をしてくれたのだと。

 蓮姫は否定した。

「そんなはずはないわ! 例えそれが本当だったとしても、ここまでのことをする相手です。そんな約束を守るはずがありません! 騙されちゃダメ! 今は立てこもって守りを固めることが先決です!」

 そうたしなめ続けた。だが。

 限界に達し始めていた人々の心は、一度楽な道筋を見出してしまえば、どんなに可能性の低い内容でも信じてしまうものだ。どんなにありえないと分かっていても。

 たとえそれが、今まさに襲ってきている敵の言葉だとしても。

 ────どうして自分たちの街がこんな目に合わないといけないんだ……。

 ────あいつらが襲ってきたのもすべての原因はその男なんだ……。

 ────その男のせいだ……。その男のせいだ……。その男が何もかも全部悪いんだ……。

 ゆっくりと、蓮姫から遠くにいる人々から順に、心が崩れ始めた。

 それは、次第に雪崩を打って広がっていった。


        ◇ ◇ ◇


 ファングとラ-サは、怪我人を介抱し、戦いながら、その光景を茫然と眺めていた。

 信じられなかった。……信じたくなかった。

 どう考えても蓮姫とか云う女性の言葉の方が正しいのに、人々が敵の言葉に踊らされていく。

 しばらくして残ったのは、怪我人を介抱している人間以外では、蓮姫とともに戦っていた幾人かと、ファングたちだけであった。

 からん……。軽い、何かの落ちる音がして振り向くと、蓮姫が武器を取り落として泣いていた。立って前を向いたまま、声もなく涙を流している。遠くに視線を投げたままで。

 ファングは何と声をかけたらいいのか分からなかった。年上の女性に掛ける言葉なんて知らなかった。

 ふと気づくと、そうしてファングがおろおろとしている間に、いつの間にかラ-サが蓮姫に近づいていた。

 つかつかと歩み寄り、落ちた武器を拾うと、蓮姫に差し出す。

「あんたが……あんたの心がどうしてそこまで深く絶望しているかをあたしは知らない。多分そうだろうって考えることはできるけど、その本当のところは分からない。でも、これだけは云えるよ。聞きたくなくったって聞いてよね」

 蓮姫は動かない。ラ-サはその泣き顔を正面から見上げたまま、続きを語る。

「あんた、どうしてここで固まってるの? もうなにもできないと思ってるの? もう、自分にできることはぜんぶやっちゃったと、そう思うの?」

 蓮姫に動きはない。だがファングには、さっきよりわずかに彼女の視線が下がっているように見えた。確かに、自分を叱っている小さな少女の顔を、彼女は見ている。

「あんたまだ死んでないじゃない。あの人たちもまだ死んでないじゃない。まだ、やれる事があるんじゃないの? やりたい事があるんじゃないの? だって、まださ、あんたの目、諦めたくないって云ってるよ。本当に諦めた人間はそんな悔しそうに泣いたりしないよ……しないんだよ……」

(ラ-サ……)

 ラ-サが誰のことを云っているか。それは、この場ではファングだけが知っていた。

 蓮姫はラ-サを見ていた。ファングもラ-サを見ていた。

 つたない言葉だった。でも、少女がなにを云いたいか、この場にいる人間には、すべて伝わる言葉だった。この場にいる、すべての人間に伝わっていた。

 多分、その女性にも。

「行こう? ね、行こう……? 手伝うから。あたしも手伝うからさ。まだ生きているならできることはあるよ。きっとあるからさ。ね……行こう……?」

 袖を引っ張りながら訴える少女の目を、蓮姫は今度こそしっかり見ていた。

 もらい泣きしそうになっているラ-サの頭に手を置き、撫でる。

「………ありがとう。お願いしていいかしら。一緒に、……行ってくれる?」

 ラ-サに、そしてファングたち周りに残っている人々に。訊いた。

 ファングは頷いた。

 頷かない人間は、その場に一人もいなかった。


        ◇ ◇ ◇


 頭上を大勢の足音が通り過ぎていった。何度も。

 ア-シアはその度に上を見てしまうことを止められない。

 二人が心配だった。蓮姫が心配だった。

 そしてなにより、奥で待機しているはずのクロ-ノが心配だった。

(さっきから……いったい上で何が起きているというの……?)

 爆音が、いつの間にか止まっていた。

 代わりに、地下室の天井越しに、微かにクロ-ノの名前を呼ぶ声が聞こえている。途切れなく、幾人もの違う声で。

 その怒鳴るような……うめきのような声たちを聞き、ア-シアは身を震わせる。

 正気の声とは思えなかった。

 怒りと憎しみのこもった声。切羽詰まった、もう後が無い時だけに人が出すあの声。

 その見ためより長く生きてきた人生の中で、彼女が何度も聞いた、声。

 その声が合唱となって彼女の大事な人間の名前を呼んでいる。

 ぞっとした。自分の名前が呼ばれたほうがずっとずっとましだった。

(今、クロ-ノを上に出す訳には行かない……)

 絶対に出してはならない。

 そんなことをすれば、恐ろしい結果が待っている。きっと待っている。

「……クロ-ノ」

 ア-シアは奥の部屋の暗がりを見つめた。そこで、凍りつく。

 嫌な予感がした。

 人の気配が感じられない。

 ア-シアはゆるゆると腰を上げ、その暗がりに向かって足を出す。

 違う。気のせいだ。自分は混乱して、そのせいで気配の感度が落ちているだけ。いるに決まっているじゃない。だって、わたしは出ていくところを見ていない。いくらなんでも出口を出ていくまで自分がぜんぜん気がつかない訳がない。気のせいだ……。

 戸口に手を掛け、隣の部屋にゆっくりと入る。後ろでカルナが小さくうめく声がした。 そして。

 ……ア-シアのひざが崩れ落ちた。


 テ-ブルの上に紙が置かれていた。

 そこにはクロ-ノの字で、「すみません。必ず戻ります。信じて下さい、ア-シア。約束は守ります」とだけ書かれていた。


        ◇ ◇ ◇


 大通りを金髪の青年が歩いていた。散歩でもするかのようなゆっくりとした速度(スピード)で。

 青年の周りを、武器を持った大勢の人の波が取り巻いていた。その波のうねりがゆっくりと増えていく。

 そのうねりの中を、青年はまるでそんなものが存在していないかのように、足取りを変えずに歩いて行く。静かに、微笑んだままで。

 周りを囲んだ人々は、青年に野次の一つでも飛ばしてやるつもりだった。恨みの言葉を投げつけるつもりだった。この青年のせいで自分たちはこんな目にあっているのだと。憎しみを全てぶつけてやるつもりだった。

 だが、誰も何も云えないまま、一帯を奇妙な沈黙が支配していた。

 武器を持ったまま振り上げられない男がいる。

 石を投げる姿勢のまま、固まってしまった少年がいる。

 青年のその表情のせいだ。笑っているのではない。ただ、静かに微笑んでいる。

 人々は増えてゆく。だが、青年を取り押さえようとはしない。……できないのだ。何か得体の知れない感覚を全身に受けて、輪のように一定の間隔を保ったまま、青年の歩調について行くしかない。

 それはまるで、聖者の行進のようだった。人々の熱気を受けて偽りの聖者が進む。

 この場に流れているものは、歓迎の熱気ではない。どちらかといえば似ているものの、似て否なるもの。まるで違う雰囲気だ。異様、としか言い様がない。

 だが、真実でなくともその光景は、紛れもなくその青年一人の存在によって創られていた。

 青年とその一行が広場にたどり着く。

 輪が崩れた。そのまま青年は人々を先導するかのように、歩みを変えずに前に出た。

 止まる。

 その向こう、神殿兵士に囲まれた広場の奥に造られた椅子の上に、樽のような形をした男が座っていた。

 ダガン・バハル・ミットとクロ-ノ・アス・フォ-ス。

 いつもなら青空市(あおぞらいち)が立っているはずの広場。その広場全体を使って、二人の男が向き合っていた。


「久しぶりだなぁ神官長の貰われっ子のガキ。もう一度会えるのを今か今かと心待ちにしていたぜ。ぶひひひひ」

 ダガンは昔の呼び方でクロ-ノを呼んだ。クロ-ノが神殿で苛められていた頃、五年前に周りが囁いていた呼び名で。それはすなわち、この男の中身があの時から何一つ変わっていないことを示すものだった。

 クロ-ノは当時の自分を思い出す。

 ひねくれた子供だった。大事なものも解らず、自分の力で何でもできるはずだと思い上がり、そう思い込んでいながらも何もしない、自ら動こうとはしないような、そんな子供だった。

 だが、自分は変わった。と、そう思う。

 変えてくれた人たちがいた。信じてくれた人たちがいた。

 そして今も、待ってくれている人がいる。

「お久し振り、とは云いませんよ。できれば貴方の顔など二度と見たくはありませんでした。貴方があの時生き残ったのは、今思えば悪魔の采配だったとしか思えませんね」

 樽男が可笑しそうに剥き出しにした歯茎で笑う。

「云ってくれるじゃねえかよ、クロ-ノ……。おれはな、これでもお前はもう少し頭の切れる奴だと思っていたんだがなァ? どうした、周りの兵士や市民の怒りが目に入らないくらい緊張してるのか? それともチビっちまったのか? くせえくせえ。おいお前らあおげ。全員であおげ。臭くってたまらんぞう!」

「………」

 ため息。それしかクロ-ノの口からはとうに漏れない。

「ぶっくく。どうした? 何か言えよクソ面白くもないなクソ真面目バ-カが。まあいい。どうやら言葉も出ないようだからな。ぶふふ、ようやく自分の置かれた立場や状況ってやつが分かったかよ。ならその場で土下座してみろクソガキ。全身全霊かけて謝れば命くらいは考えてやるぞ? 命くらいはなァ?」

 瞬間、クロ-ノの瞳が光った。そして地響き。手に持った棍を地面に突き立てた音だ。 

「謝る? どうして私が貴方に謝らなくてはいけないのです? 確かに私は、普段から自分が悪かった場合は謝るようにしています。たとえ相手が赤ん坊であろうと、ミミズだろうとオケラだろうと心の底から謝罪するつもりでいますよ。自分が悪いのですから当然ですね。

 しかし、自分が悪くない場合はたとえ1cmたりとも頭を下げるつもりはありません。それが大臣だろうと王様だろうと殺し屋の方であろうともね。当たり前でしょう? ましてや貴方のようなゲスにどうして頭を下げる必要があるのでしょう。下げるのなら貴方の方だ。勿論、今更そんなことをされても1mmだって許して差し上げるつもりなどはありませんが」

 クロ-ノは一気に云ってからダガンの顔を見返す。

 その顔は、クロ-ノの言葉の途中から湯気が上がり始め、最後にはもう見事なほど真っ赤な色にゆで上がっていた。

 クスリ、と金髪の隙間から微笑が漏れる。

 それを見てダガンは爆発した。街の人々を指差し、

「このガキャァ!! もともと赦してやるつもりはなかったがもう勘弁ならねえぞクロ-ノ! おいお前らそこで見ているお前らだ! このヒョロヒョロを半殺せ。ああ?いいからやるんだよキサマラ仲間が捕まってるのを忘れたか? 今から数を数えるからなぁ、10数えるごとに人質を一人殺す。クロ-ノ、テメエは手を出すなよぉ。お優しいキサマにとっちゃあ他人が傷つくことの方がずっとイヤだろ。ぶひひ。さあどこまで殺せるかな? いいかそいつが立ち上がれなくなるまでやれ。それまで数を数えて数えて数え続けてやるほれイ~~チ……」

 うわあああああ!

 それまで輪を作って成り行きを見守っていた男たちが、雪崩を打ったようにクロ-ノに殺到した。それぞれの武器が降り下ろされる。肉が叩かれはじける音。……だが。

 「サ~~ン、シ…………な、なんだと!?」

 次の瞬間転がっていたのは、殴りかかった男たちだった。そう、クロ-ノが反撃したのだ。一閃だった。棍の一閃のみで、飛びかかった最初の男たち全員が地面にうずくまっていた。次々に襲いかかろうとしていた市民たちがたたらを踏んで立ち止まる。

「ば、バカな……。おい脅しじゃないぞクソガキ! 人質殺すったら殺すぞ!!」

 クロ-ノは冷笑を浴びせて口を開く。

「それが何か? そうですね……悲しいことではあります。ありますが、私は正義の味方でも万能の神でもありません。皆さんには大変申し訳ないのですが、よく知りもしない方々が人質となられても、少々困ったなといった程度の認識しかできません。そうでなくとも人に責任転嫁をし、ぬくぬくと奴隷に守られている人々にはね。

 何とかして差し上げたいとは思いますが、どうしようもない場合は無視して前に進ませて戴きます。その際仮に痛い思いをされる方が出たとしたら……どうぞ恨んで下さって結構です。その代わり私の前に立ち塞がらないで下さい。お願いですから。そうすれば、あの人外のゲテモノの息の根を私が確実に仕留めてさしあげます」

 クロ-ノの背中が霞んでいた。蒸発した体温が湯気となって昇っていた。

 暴言を吐かれながら、怒りに我を忘れながら、市民達は既に飛びかかるタイミングを見失っていた。完全に。

「ダガン・バハル・ミット……。貴方が私を許せないのなら、私だけを狙っていればよかったんです。ですが、もう遅い。もう後悔する時間すら貰えないと思うといい。貴方は私の身内を傷つけた……。それだけは許せない。許すことはできない……!」

 一歩、踏み出す。また一歩。周りの人間は一歩も動けない。青年の雰囲気が変わっていた。あのクロ-ノから、恐ろしいほどの殺気が(ほとばし)っていた。

「さあ、そこを退いてください。今この時から、邪魔する方はすべて敵とみなします」

 クロ-ノの青い瞳が開かれていた。いつも、怒った時ですらあまり大きく開かれない瞳が、最大まで開かれ、爛々と光を放っていた。


        ◆ ◆ ◆ 


 心地好い。

 心地好いぞ……。

 人間の負の波動だ。

 有機体生物とはどうしてこんなにも旨い波動を出すのだろう……。

 我の舌に良き旨い波動を……。

 まろやかで……。どこまでも濁り……。

 それでいてどこまでも澄み切った、負の波動……。

 生物とは、食物連鎖によって種と種の上下関係が決まるという。

 ならば、人間の精神を食べるこの我は……。

 何よりも上に位置するのだ……。

 ……を問わず、すべての生き物の上に。

 待っていろ有機体共よ。

 お前達の世界はもうすぐ終わる。

 この我が終わらせる。

 この我の手や指が終わらせる。

 踊るがいい。

 いつまでも踊るがいい。

 我の体から伸びた糸がすべての有終美を飾る、その時まで。

 すべてのラストを演出するその時まで。

 踊れ踊れ踊れ。

 最後の最後にまとめて、この我の糧となる為に。

 すべてが。

 ふ、ふははははひひひひひくくくくくくくひひははひっひいひいいひいひひひひひい

 

 声が響く。どこからともなく。誰の耳にも聞こえない声が。

 虚空に響いたその【声】は、星中に伝わっていく。満ちていく。

 わずかの後、それは星のすべてに行き渡った。

 ぴくり。

 刹那、この星の地下深く、誰の手も届かないその場所で。

 大量の何かが動き出した。




      第十八話  『正義ではなく』 了.


         第十九話 『混沌の始まり』 へ続く。


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