第 六話 『“こどく”の船 〜惑い③〜』
皆さん、お久しぶりです。
生きてました。
短いですが、再開です。
また、よろしくお願いします。
「確認だ、クローノ。《救助依頼》と言ったな。東大陸統括電子頭脳からの」
少年たちが突撃の構えを固め、【ガイア】までの1km足らずを無数の機械体が覆い尽くして起動する、もはや見慣れた光景から視線を離さないままに。アリアムが武器を構えて必要な事だけを、彼の横まで下がってきた青年に確認する。互いの視線が一瞬だけ鋭く交差した。
「はい」
「それはつまり、奴ら機械体も、操られていたってことか、ガイアに?」
「その通りです、アリアム王」
「……理解した。だが、だからといってそれで奴らを許せるとでも思うのか?」
淡々と紡がれる王の言葉。その軽い口調とは裏腹に、顔には抑えた憤怒が見えた。会話する王の後ろでは、内容が聞こえたのだろう、怒気を隠しもしない兵士たちが二人を見ている。最前線の少年たちを除いた仲間たちも固唾を飲み、口をつぐんで二人の対峙を見守っている。
「思いません。そんな簡単にいくわけがありません。遺恨は数百年単位で残るでしょう」
確認の合間にも、既に戦闘は開始されていた。戦線が開く。前面から、そして上空からも、機械体の群れが連携しながら動き出す。迎え撃つのはデュランと少年少女たちのみ。少年たちの攻撃が、押し寄せる怒涛のごとき金属の津波を押し返しながら留めている。分が悪いなんてものではない物量差。それでも彼らは、こちらをちらりと気にしながらも、動かない後衛組に助けを求めてはこなかった。それはあたかも、今ここで交わされている会話が、この先の新しい分岐点だと、それを邪魔するべきではないと理解しているかのようだった。それに気づき、アリアムは小さく舌打ちしながら頭を掻いた。クローノの澄ました横顔に顔を向ける。
「……それでも、やるって言うんだな?」
「存在が無くなりさえしなければ。最後の一体まで潰し合う事さえなければ。伝わり合う希望は残る、と。それが彼、【祝融】が私に依頼した時に選んだ言葉です」
「……」
静かに、胡散臭そうな据わった目線を向けるアリアム。口元が尖って砂を吐きそうに歪んでいる。
「気色悪い理想ですよね。不可能と同義語と言ってもいい。私もそう思います。ですが」
クローノが前に向けていた視線を王と絡めた。
「それでも私は、糸を切り捨てたくはないのです、アリアム王」
例えわずか一本だとしても、残せるものなら残したいのだ、と。自分たちの先祖達が奪ってきたこの星の命と種に対する贖罪と、それでも我らが、人が、悪魔を内包しながらもそのものではないと主張するその為に、と。
「……反吐が出る理想だな。自分たちが滅亡しそうだっていうこの時に、そっちまで面倒みようっていうのかよ?」
「その通りです」
アリアムの頭を掻く音が盛大に大きく響いた。 そのまま頭上に視線を上げる。炎と風が舞っている。バリアがプラズマを防いでいた。噛み締めた軋む音。自らの顎からそれは漏れていた。
「〜〜〜〜〜ッツ……ったく、畜生が!! いいかこの鉄面皮! 例え操られていたとしても、地上にいる機械体どもを許す事は俺にはできねえ。だが……ここにいる奴らはまだ、確かに人を殺しちゃ、いねえんだよな」
アリアムの言葉に兵士たちが動揺する。が、一瞬だった。苦虫を噛み潰してでも、信じた王の言葉を飲み込んで顔を上げて前を見る。
「……では?」
「手伝ってはやるさ……。しょうがねえ。だが、例え上手くいっても、希望とやらを実現させられるかどうかなんて知らねえからな。その後の俺たち人間全てと、奴ら次第だ。あと、向かってくる障害となる存在は決めた通り全て斃す。全滅されたくないんなら早めに奴らの動きを止めろ。なんか策があるんだろ」
「感謝します……」
「言われる筋合いはねえよ。チッ、時間を食った。征くぞお前ら。前を向け! さっきの言葉、聞いてたな!? 見ろ、子供達が頑張ってる。大人がウダウダチンタラ情けなく話してるそんな間に、それでも保たせて待ってくれてる。俺たちは大人だろ。格好良いトコ奪られてばっかじゃいられねーよな? なら、大人の意地を結果で示せ! フォーメーションλ(ラムダ)からδ(デルタ)を経てΣBへ移行!! 指針を殲滅から無効化に変更する! 邪魔する敵は全て斃せ! だが、向ってこねえ者を一掃する必要はない! ……すまねぇな、お前ら。待たせて悪い。悔しさも言いたい事も山程あるだろうが、ゴールは最初から変わらねえ。俺たちの場所を守る、そして、勝って帰る!! それだけだ。何度もすまねぇ、これが最後だ。最後の号令だ。あれを斃せば全てが終わるなんて言わねえよ。いろいろ面倒くせえ事は続いてゆく。けど、あれさえ斃せれば可能性の時間が残せる。家族を守ることができる!! だから、欠片たりとも悔いなんて、残すんじゃあねえぞッ。全霊を込めて、ぶっ叩け……全軍、抜刀ッ!」
言葉とともに全ての兵士の武器が抜かれた。誰も声を上げない。目線だけが光を放ち、前衛の激戦が嘘のように静かな沈黙が支配する。アリアムの右腕が上に伸びる。
「第三から第五部隊はクローノ及びナーガの麾下に入り機械体群と交戦、手段は問わねえ無力化しろ! 時を稼げ! 残りの隊は俺に続き路を開け! 決着をつけるぞ。だが、死のうとはするな。生きて帰れ! 以上だ!! 声を挙げろ! 叫んで示せ! 我らは勇者なり! 激せよ!! 全軍、突撃ッ!!!」
人差し指が前に振られた。数百の軍靴がただ一つの音を出し、最後の決戦の幕が上がった。
背中から、人のうねりが圧力を伴って動き出す気配を感じた。
「……へっ、ようやく話し合いが終わったかよ」
カルロスだった。両手の鞭を別の生き物のように振り回し、押し寄せる3mを超す巨人や巨龍を模した機械体たちを打ち据え押し留めながら、一人ごちる。振り返りはしない。見ないでも分かった。
大事な話が終わったのだ。内容は聞こえなかった。だが、今この時にしなければいけない大切な話をしているのだと、少年たちも感じていた。カルロスが鞭で竜巻を起こし敵の動きを阻害して、ラーサが水晶球から数千のシャボン玉の様なバリアを出して敵前衛を翻弄する。ナハトが数十mにまで伸ばした槍を秒間数発の連続突きで撃ち込みながら、穂先から出すスパークで敵の電子脳を撹乱し、デュランが赤熱した大剣から噴き出す炎の壁で敵の部隊を分断した。数人で一騎当千の活躍で、無理を通して壁となり支え続けた。
「遅れてすまん。良くやった」
走り込んだ男の両手の鈍器が猛威を奮い、少年の横に並んでこちらを向いた。いの一番に頭を撫でるように声を掛けられ苦笑する。だが、悪くない。兵士たちが雄叫びをあげ周囲全ての機械体に突撃をかます光景の真ん中で口に出さずにそう思い、淡い緑に武器を光らせる男に向かい、カルロスは返事を返した。
「もう良いのかよ?」
「ああ、方針は決した。ナーガクローノアーシア蓮姫と兵士の大半に、こいつら機械体の相手を任す。婆さんはライラの護衛だ。残りは全て奴の相手だ。兵士たちに路を開かせる。どれだけ強い相手でも、一人に数百を当てては仲間の動きで阻害されて意味がない。選抜60人強で特攻し、半数で結界剣とカムイの力で壁を作り、最後は精鋭30程で囲んでぶち斃す。シンプルだろ」
「わかり易くて結構じゃねェか」
「だろ? そんじゃ、早速行くぜ。婆さん、今だ風をくれ!」
「老人使いが激しすぎるよ馬鹿者どもが! さあ準備は出来てる。とっとと行っといで無鉄砲ども!」
ルシアの叫びが木霊して、風の渦が唸りを上げる。突撃組全員の足元が僅かに浮いて、ナーガの蒼光が一直線に路を開いた。
「疾風ぅ天速! 風よ、あいつらを守っとくれよ!」
ルシアの杖が前へと振れた。全員の足が動く。風に乗り、たった一歩で数十mを飛ぶように駆け抜けながら、待ち受けるガイアの元へと走り出した。
短くて、そして話が進んで無くてすみません。
下書きはもっと長く書いているのですが、とりあえず、推敲が終わった分から少しづつ載せていきます。ラストのタイトル予告も、しばらく同じタイトルが続くため、省略致します。ご了承ください。
以前は、様々な場面を同時に一話に載せていましたが、すみません、しばらくは場面ごとに短く分割でしか載せられないかもしれません。
心と体のリハビリはだいぶ進んで良くなりました。
が、例によって時間と疲れが取れず、少しづつ進めています。
今週は書く時間が取れませんが、来週末にまた時間が取れそうなので、そこで続きを載せますね。
読んで下さる方がどれくらいいてくれるのか分かりませんが、それでも待ってくれている方がいてくれた事が、再開する意欲になってくれています。
本当にありがとうございます。
未熟で遅筆ですが、これからも見捨てず、楽しんでいってくださいね。
よろしくお願いします。