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世界大戦オンライン とある通信兵の独白

作者: Schuld

 これは筆者がこんなゲーム遊びたいという妄想から産まれた長編の端書きを再利用したものです。

 無数の弾丸が屈めた頭の上を音よりも早く突き進んでいき、ヘルメットを僅かに掠めて積み上げられた土嚢に突き刺さった。零れた土が降りかかるが、気にせず走り抜ける。


 付近で何かが炸裂する音が響く。恐らくは榴弾だろう。迫撃砲か野戦砲による長距離面制圧の強引な押さえつけ。土と破片が舞い散り、悲鳴が聞こえた。


 自分が駆けている深さ2m程の塹壕に、一人の人間が落下してきた。緑の軍服に、洒落た形の軍帽。肌は白く、目は青い。泥で汚れた金髪が示すのは、彼が敵であると言うことだ。私は迷わずに手に持った11年式歩兵小銃の先端に設けられた銃剣を首にねじ込んでやった。


 何を勘違いしたのか、英雄プレイでもしようと吶喊したのだろう。それで味方の砲撃に巻き込まれていては格好もつくまいて。


 ぱっくりと首が裂け、一瞬だけ血が飛び散るエフェクトを示すと、彼は目を見開いて動きを止めた。もう死んでいる、先を急ごう。


 塹壕には一段高く設けられた段に立ち、身を乗り出して小銃や軽機関銃を敵に向けて撃っている味方達が居た。彼等は自分と同じように黄土色に近い軍服を纏った、黄砂色の肌と黒色の髪と瞳を有している。頼もしき神兵達であった。


 途中に転がる死体を幾度か跳び越えて、目的地に達すると、担いでいた背嚢を下ろして中身をブチまける。そして叫んだ。


 「砲弾の追加だ! 後何人かがもっと持ってくる! 遠慮せず使い倒せ!!」


 私が飛び込んだのは、塹壕の中でも味方領域の奥へと伸びた道を進んだ先にある、砲兵陣地だ。砲兵陣地とはいっても、この即席の防衛陣地の中に設けられた迫撃砲が一〇門にも満たない規模の、実に頼りないものであったが。


 それでも有ると無いとでは大違いだ。砲兵陣地内に散っていた十数人の砲兵達は、私が持って来た背嚢の中身に歓声を上げながら飛びつき、次の瞬間には直ぐさま砲撃を始めていた。


 規模からすると何とも貧相だが、そこに詰める兵士達は皆一級品の砲兵だ。それこそ、然程精度の高く無いであろう迫撃砲であっても、狙った缶詰にぶち当てることが出来ると聞くほどだ。期待は出来る。


 頼んだぞと一言告げ、私は小銃を抱えて自分の部署へと戻っていった。応、と頼もしい声を背中に浴びながら、全力で走り始める。スタミナには自信があるので、担当箇所まで戻っても余裕だろう。


 元の部署、工兵隊詰め所へと戻る道すがら、遙か前方で幾つもの榴弾が弾け飛ぶ轟音が聞こえた。敵が放った物は恐ろしいが、味方が放つものともなると、何とも心強い。


 迫撃砲からの攻撃で、塹壕に肉薄しようとしていた敵の兵士達が細切れになっていく。それを見て、最前方の友軍が歓声を上げているのが聞こえた。


 両方の砲撃が驟雨の如く降り注ぎ、歩兵達は勢いを喪っていく。膠着しつつあるが、そろそろだろうかと思いながら工兵隊詰め所へと飛び込んだ。


 「赤岸通信工兵伍長、入ります!」


 赤岸、というのは私の名前だ。通信工兵というのは通信機材と工兵機材を担いだ汎用兵種であり、一個分隊に一人は配備されている。そして、伍長というのは言うまでも無く階級である。


 そんな役割にある私が何だって迫撃砲弾なんぞを運んでいたかというと、単純に人不足であったことと、補給物資配給を行うはずだった糧秣兵達の詰め所に敵の榴弾が飛び込んで兵士が結構な数で死んだからだ。


 詰め所には一人だけしか人員が居なかった。壮年の男性で、髭を生やした厳めしい雰囲気を放っている。彼は私の上官であり、この防御陣地における通信工兵隊の副長でもある溝口中尉だ。司令部ではなく詰め所にいるのは、此方の方が前線に近いので命令を効率良く発するためであろう。


 「遅いぞ伍長! 反転攻勢の準備だ! さっさと前線まで行ってこい!!」


 必死に走ってきたのだから、あんまりな言いようではあると思うが、軍人には減らず口をたたく口は与えられていない。私は急いだせいで崩れた敬礼をすると、急いで自分の通信機を担いで踵を返し、前線に向かって走り出した。


 土を蹴散らし、うめき声を上げながら死を待つ戦友を無視して前線へと駆け上がる。既に全体へと反転攻勢の準備が告げられているのだろう、部隊を率いる下士官達のがなり声がそこら中から聞こえてくる。


 爆音と、塹壕の中に時折飛び込んでくる勢いを喪った鉄片を浴びながら、私は最前線へと到達した。塹壕から大勢の兵士達が身を乗り出し、ひたすらに銃撃を続けている。


 通信兵が居ない場所は! と大声を上げると、来てくれとお呼びが掛かったので、直ぐさまそこへと向かった。


 別に塹壕での大規模戦闘ともなると然程通信兵を細かく配備する必要は無いのだろうが、やはり誰しもがバランスを気にするものだ。私は成り立てであろう小綺麗な装具を身につけた少尉の隣に並んだ。


 そして、通信機から聞こえてくる無線通信に意識を傾けつつも、11年式小銃を構えて遠くに見える敵へ適当に当たりを付けて弾を放った。別に当てようとは思っていない。この距離でスコープも無しに当たるほど、私の腕も優れてはいない。


 助けを求める声や、増援を要請する声。砲撃支援箇所の通信などが無線機から喧しく鳴り響いている。


 幾らちゃんとした通信司令部が備えられていないからとは言え、これは酷いなと思いながら槓杆を引き、次々に撃ち出す。この小銃は一々槓杆を引いて手動で弾丸を装填してやらねば撃てないのだ。自動小銃が正式採用されている敵さんが素直に羨ましい。


 ぱんぱかと賑やかに弾丸を放ち続けつつ無線に意識を傾けるという器用な真似をしながら、私はいつ頃反転攻勢を仕掛けるのだろうと待ち続けていた。地平の彼方からは、途切れる事無く緑の軍服を纏った軍勢と、その支援の砲撃が飛んでくる。そろそろ士気も限界だろう。


 そう思って居ると、勇ましい鼓笛の音が聞こえてきた。西側にある高い丘の上からだ。


 戦場の視線が一息に注がれる。そこには、堂々たる体躯の馬に跨がり、騎兵小銃を携えた少数の騎兵隊と数量の中戦車、そして歩兵達が居並んでいた。


 増援か!


 劇的な味方の登場に感動を覚えると同時に、通信機がノイズ混じりの深いな音を立てる。


 『友軍別働隊が敵の砲兵陣地を無効化した。反撃の時間だ、全軍吶喊せよ。祖国萬歳!!』


 通信からの叫びを伝えると、皆が大声を上げながら塹壕から飛び出してゆく。飛び出す最中に弾を受けて転落する者が出ても、誰一人迷わずに躍り出て、突き進んでゆく。


 勿論私も遅れずに飛び出し、適当に狙いを付けながら弾丸を撃ち続ける。インファイトに持ち込めば、後は銃剣の仕事だ。


 気が逸った士官達は既に軍刀を抜き、片手に拳銃を携えている。やる気があるのは良い事だ。


 突撃喇叭が鳴り響き、騎兵と歩兵が怖気を感じるほどの叫びを上げながら吶喊する。軍学を奏でる鼓笛隊と、突撃を鼓舞する喇叭手。砂煙が立ち上がり、人が雲霞となって敵陣へと躍りかかる。


 敵の士気は挫けつつあるが、それでもまだ諦めない。銃座に取り憑き、小銃を撃ちまくり、何とか此方の突撃を止めようとする。


 だが、歩兵達は何発か弾を受けようとも気にせず進み続け、騎兵達は数人欠けようとも全く気にしない。例え誰が死のうが、舌打ち一つ、悪態一つ吐かずに走り続ける。


 まるで気が狂ってしまったように叫び声を上げながら、私達は敵陣へと突入した。


 数十分後、戦線は我々によって完全に制圧される。例え味方をどれだけ喪おうとも、我々は突撃を止めずに、肉薄して強引に白兵戦へと持ち込み、持ち前の浸透戦術によって敵陣を蹂躙し尽くした。


 敵は部隊を細かく別け、遅滞戦闘を開始しながら下がっていく。その部隊に追撃をかける勇ましい部隊もあったが、私は止めておくとしよう。


 一息吐いて水筒で喉を潤していると、司令部が我々の勝利を伝えてくる。暫くしたら、活躍を勇ましく糊塗した本営発表が流されることだろう。


 顔についた泥と血を拭い、私は敵が置いていった土嚢の上に腰をかける。疲れたが、良い戦争だった。


 さて、次は何処で闘う事になるのやら…………。











 首のプラグを外し、若干の違和感を感じながらも、私は接合部をアルコールの染みこんだ脱脂綿で拭ってから人工皮膚の蓋をした。


 数時間座りっぱなしだったからだろうか、随分と体の筋が凝っている。蛋白質機械によって脳を置換し、極めて高度に機械化された脳、電脳が運動不足による筋肉硬直と、栄養不足を警告枠で表示してくる。そうえいば、今日は昼食を抜かしていたのであった。


 私は軽く目頭を揉みほぐしながら、冷蔵庫にねじ込んであった簡易密閉パックの万能栄養食を囓る。味はランダムで封入されているのだが、今日は魚肉風味だ。魚肉の味がする固形ブロックとか誰が得をするのであろうか。


 人類の技術が進歩して、人はコンピューターを持ち歩かなくて良くなった。体は高度に機械化され、不具合がでれば直ぐに交換出来る。人間の体は、最早不都合が発生したら取り返しの付かない肉ではなく、精密な工業部品によって構成されるようになっているのだ。


 だが、例えどれだけ技術が進もうとも、人間が求める物は変わらない。


 食事と、異性と、娯楽である。


 私が先ほどまで耽溺していたのは、電脳技術が発達してから流行した娯楽の一つ、自己投影体験型のネットゲームだ。自身の電脳をサーバーに接続し、直接体感して楽しむ大規模のオンラインゲーム。


 その中でも私が特に気に入り、大学の合間を縫って遊んでいるのが、世界大戦オンラインと称されるFPSオンラインゲームだ。


 First Person Shooter、一人称視点ゲームとはいっても、基本的に電脳を接続し、擬似的に体を構成しているのだから一人称も何も無いだろうとは思うが、昔よりそう分類されているので、今もジャンル的にはFPSと呼ばれている。


 要するに、電脳を使った高度な戦争ごっこというわけだ。


 世界大戦オンラインは中々に特殊で、人類が未熟だった頃、第一次世界大戦と第二次世界大戦の合間くらいの科学レベルを想定して作られている。


 とはいえ、あまりにもリアルにしても不毛なので、色々なアレンジや、史実とは異なる調整も多々施されているが。


 その一つが、航空兵器の不在だ。この世界では航空機の優位性が証明されず、各国共に航空機を開発しなかった、という何ともお粗末な設定がある。


 とはいえ、ゲームの設定なんぞバランスや所々の都合のために色々と調整されるものだ。不都合や現実との乖離なんて指摘し始めたらキリがない。


 兎角、航空機は存在しない、泥臭い地上戦のみの世界だ。


 反物質弾も極大型質量投射兵器も存在しない、火薬式銃を使った旧時代の戦場を駆け抜ける、というのがゲームの本旨であり、その泥臭さがミリタリーマニアに受け、全世界で数百万人がプレイしている。


 ゲーム上国家が四つに分類され、それぞれ連合共和国・社会主義帝国・皇国・統合共産国家群という、イデオロギーのような名前の国家に分かれ、パンゲア大陸にて覇を争って戦争を繰り広げるのだ。


 各国家が交戦状態にあることと、一枚板の大陸だけが存在するパンゲア大陸が舞台であることより、異名として情熱大陸オンラインとも呼ばれている。勿論情熱とは戦争への熱の比喩だろう。


 各国に特徴があり、言わば連合はかつての連合国、社会は枢軸国、そして共産は共産主義国家群である。


 昔の国々をモデルにしているので、出身国に所属してプレイし、先祖の気分を味わうプレイが出来るのがミソだ。


 皇国は、帝国時代の日本がモデルである。このゲームの配給会社が日本であり、メインデザイナーが日本人だったので組み込まれた国家なのだが、大東亜戦争は二次大戦において重要な位置を占めているので、モデル的には問題無いと私は思っている。


 各国の特色は、それこそ国家のイメージに沿った物である。社会は高度な機械化師団、連合は豊富な物量と安定した装備、共産は勿論数である。そして我等が皇国は……兵士の頑丈さ。何ともリアルで泣けてくる。


 が、浸透戦術が成功すれば一番強いので良しとしておこう。戦車が貧弱すぎて辛いが、そこは擲弾歩兵の火炎瓶がある。気休めにもならないが。


 私はそんな国家に所属し、通信工兵として軍務に従事している。階級は伍長だが、このゲーム、昇格が異常に難しいことで知られている。技術士官ならば直ぐに下士官にもなれるのだが、一般で成り上がるのはとても難しいのだ。


 ステータスアップや戦功を積んで昇進できるシステムもあるが、実際の戦場で成り上がるのは得てして野戦昇進が多い。指揮官が死んだから代わりに繰り上がって昇進する、というのが主な流れだが、これはゲームである。死ぬ度にロストしていればやってられない。なので、基本的に野戦昇進は起こりえない。


 その為、昇進するには明確な戦功値を積み上げるか、難しい試験をパスする必要があるのだが、この試験、筆記がガチ仕様なのである。それこそ、ぬくぬくとゲームを楽しもうと思って居る中学生では一割も得点出来ない程難しい。かく言う私も落ちまくった。


 一応、莫大なゲーム内通貨を支払って入学出来る士官学校なんぞもあるが、それでも試験はしっかりとある。士官育成プログラム中の課題をしっかりこなして、尚かつ反復しないと卒業出来ない程度に難しい。何だってゲームなのにこれ程リアルに作り込まれているのかは不明だ。


 長くプレイし過ぎたせいで凝り固まりつつある体に鞭を打ちながら、明日の準備を整える。自由人の如く毎日日日ネットゲームだけやっていられれば気楽だが、流石にそうもいかない。国家補償が充実しようとも、人間は働かないと生きていけないのである。


 無論、学生という労働準備期間にある我々や諸氏も例外ではない。


 明日に備えてさっさと寝るとしよう。私は椅子をリクライニングさせて睡眠モードへと移行すると、電脳の機能を睡眠休止状態へと移行させた…………。










 火砲が降り注ぐ中、私と私が所属する部隊は既に敵に完全に包囲されていた。一個小隊が僅かな遮蔽物となる林だけがある丘に取り残されているのだ。


 我々を囲い込んでいるのは、濃緑の軍服を纏った共産主義国家群の兵士達である。装甲兵器は殆ど見られないが、その数は流石の一言に尽きる。目算だが、包囲戦力は一個大隊規模であろうか。


 だが、その一個大隊の過半はNPCだ。如何にプレイ人数が多いオンラインゲームとはいえ、膨大な人間が犇めく戦場を常時埋めるだけの人員は用意できる訳も無い。その為、部隊の穴は平均ステータスのNPCによって補われる。


 共産主義国家群は物量が売りで、NPC兵士の配備数が最も多い国だ。補給も多く、プレイヤーが少数であっても小隊長か大隊長さえ居れば直ぐに大規模戦力を展開できるのが特色である。


 とはいえ、そのNPC兵士は徴兵した民兵に近い兵士なのでステータスはかなり低いのだが。


 それでも数の暴力は恐ろしい。人数が多ければ多いほど、此方へと放たれる弾の数は増えるのだから。


 我々は一個小隊とは言ったが、既にその戦力は減退し尽くしており、最早二個分体規模の人員しか残っておらず、小隊付き迫撃砲分隊は敵の不意打ちで全滅していた。


 それに、人間よりも鈍い反応しか出来ないNPC兵士は既に全滅している。今部隊を構成しているのは全てプレイヤーだ。


 陣の中央で若い少尉が指揮を出し、衛生兵が治療キットに駆け回っているが、全てが後手後手の上に人手が足りない。もう、どうしようも無い状態へと追い込まれていた。


 通信兵の私も支援砲撃を求める通信やらを喚いていたが、近くに山を越えて射撃出来る火砲を備えた部隊は存在しておらず、救援も一時間はしないと送れないという。


 時刻は太陽照りつける正午。丘の林を抜けると視界は開けており、得意の浸透戦術は使いようも無い。このゲームはリアルタイムではなく、時間は現実世界の七倍の速度で流れるとは言え、この戦力差では日暮れまで保つまい。


 通信を送っても意味がないと判明した時点で私も救護班に組み込まれたが、応急手当のスキルも満足に無い状態ではどうにもならぬ。また一人、負傷兵が戦死して死体を残し本人はリスポーンポイントへと戻っていった。


 リスポーンは所属基地へと送り返されることで行われる。そして、死体は雰囲気を演出するために戦場へと残される。この死体だが、辱める行為を禁止するために破壊不可オブジェクトへと変貌するので、出来るのは抱えて戦友の死を悲しむロールプレイをするか、積み上げて土嚢の代わりにするくらいだ。


 実際の戦場でもあったこととは言え、やはり気が引けるなと思いつつも、陣地構築スキルを使って今し方息を引き取った兵士を積み上げられた死体の山に加えた。これを実装したデザイナーはどれだけ悲惨な戦場を作りたかったのであろうか


 我々の小隊は、本来此処から少し離れた別の丘へ先行して簡易陣地を造り、半日後にやってくる予定の砲兵旅団を受け入れる下地を作る先遣隊であった。


 少数のトラックと歩兵で移動し、戦域を確保しながら陣地を構築。後は砲兵旅団と、その護衛が来るのをのんびり待つだけの簡単な任務だったのだ。


 このゲームはリアルな戦争が題材なので、こんな地味ながら必要とされる任務も沢山ある。将官級のNPCから下される戦術指示は多く、大抵は敵と闘っているよりも下準備の時間だ。夜間警戒で立ちっぱなしというのも珍しくは無い。


 何故将官級にNPCが多いかというと、無論そこまで上り詰める人間が居ないからである。単に時間を犠牲にすれば上り詰められるゲームとは趣を異にする世界大戦オンラインならではの弊害である。


 まぁ、AIはそこまで無茶な戦術を立てないのでむしろ安心だが。国家毎に特色はあれど、そこまでの無理ゲーを強いてくることは少ない。


 現実逃避した所で戦況は悪化の一途を辿っている。死体で作った遮蔽物から身を乗り出して敵を撃っていたが、11年式小銃の弾が切れた。何度も回収してからの再分配を行っているが、そろそろ小隊全体でも売り切れだろう。


 拳銃が当たる距離ではなく、死体から奪おうにも設定的に死んだ味方の弾は小隊物資レジストリへと移されるので、そこからの再分配を待つしかない。


 さて、どうしたものかと思って居ると、小隊長が此方の方へとやってきて、集合の号令を掛ける。姿勢を低くして数十人の残存勢力が集結した。


 どうするのかは、もう考えなくとも分かる。小隊長が腰にぶら下げている軍刀の柄を握って居る時点で明らかだ。


 「我々は窮地に立たされている。されど、未だ意気軒昂、忠勇烈士たる諸君等の士気は折れていないと思う。ならば、ここで敵の降伏勧告を受け入れて捕虜となり戦功ポイントを積ませてやるよりも、皇国が誇る神兵の勇猛さを見せつけるべきではないか?」


 各所から賛同の声が上がってくる。追い詰められた状態から決死の突撃、大東亜戦争を初めとする戦争映画ではお約束の展開だ。ミリタリーマニアならテンションの一つも上がろうというものである。


 私も無理矢理にでも士気を上げるため、怒号を上げながら小銃を突き上げた。このゲーム、しっかり士気という数値が存在し、これによって部隊の兵員全体にステータス補正がかかる。要はテンション高い方が強いのである。


 その為に指揮官は演説を打ったり、色々と考えて演出してみたりもする。指揮官の仕事は部隊を動かすだけではないのだ。


 「宜しい! ならば諸君! あの共産主義の妄言ににかぶれて現実から背を背けた理想主義者共の捕虜になり惨めに生き残るよりも、有終の美を飾ろうではないか!! 命を惜しむな、名こそ惜しけれ!!」


 小隊長が軍刀を抜き放つ。日差しが遮られている林の中だというのに、白刃が陽光らしきものを反射して美麗に煌めいた。


 「全軍抜刀! 小銃を保持している者は着剣せよ!!」


 命令に従って11年式小銃の先端に長い銃剣を装着した。11年式小銃は他国の小銃に比べて長く、同様に他国平均より長い銃剣を着剣するとちょっとした槍程度の長さにはなる。具体的に言うと八尺ほどの長さ、薙刀と同程度の長さになるのである。流石白兵戦に特化した国の装備と言えよう。


 「総員整列!」


 小隊長補佐の軍曹が声を上げ、それに従って全員が林の切れ目まで伏せながら進み、薄く広がる一列の横隊を組んだ。


 「我等死して護国の礎にならん! 天地照覧あれ! 全軍突撃にぃ……」


 突撃に移る前に被弾するという間抜けな事態を防ぐ為に伏せていた少尉が僅かに体を擡げ、軍刀を振り上げる。滲むような低い抑揚の声の後……。


 「移れぇっ!!」


 刃が振り下ろされ、怒号で世界が割れた。


 数十人の男達が軍刀や銃剣を装着した小銃を抱えながら遮二無二に突撃していく。小銃に弾が残っている者は走りながら銃撃をかけ、軍刀を携えた者は片手に拳銃を持って乱射しながら駆けてゆく。僅かにではあるが、虎の子の手榴弾も助走をかけて投擲されていた。


 勿論、丘の麓に布陣する敵も黙っては見ていない。壁の如き弾幕を張って此方を払おうとする。何人もの戦友達が、弾丸をその身に受けて散っていった。


 しかし、士気が浪漫溢れる状況や演説のおかげで阿呆のように高い我々は、一発二発弾を受けても死にはしない。私も一発腹に受けて重傷判定だが、士気補正で走れるし動ける。生命値残量も後五割残っている状態だ。


 被弾しながらも小隊は包囲する敵陣に雪崩れ込み、血みどろの白兵戦が始まった。私は四人の心臓を銃剣で突いた後、脚を撃たれて膝を突いたが、諦めることなく小銃を投擲して脚を撃った敵を一人殺した。


 そして、拳銃を抜いて戦闘を続行しようとした所で頭部に被弾して体力が無くなり、敢え無く戦死した……。


 視界がブラックアウトし、白い文字と皇国の国旗が浮かび上がる。その文面は、貴方は戦死しました。その忠勇なる御霊は永遠に御国にて誉れ高く称えられるでしょう。といったものだ。


 戦死した時に流れる文章で、自分が死んだ事を改めて確認させる為のものだ。リスポーンまでには現実時間で3分の間隔があって、その間は何もしないでぼーっとしてるか、仲間の視点を見る事が出来る。


 だが、暗闇で余韻に浸るのも悪くは無い。私は一個の軍人として散ったことに思いを馳せながら、そっと目を閉じた…………。


 どうも私です。いつも通りの妄想垂れ流し。こんなゲームを普通のFPSでいいからやりたいという願望です。普通に警戒任務でだらだらして、敵が襲ってきたら闘うとかあってもいいじゃない。


 青年と犬と、もう一人の投稿までの繋ぎです。年末で忙しいので、古い文章を再利用しただけです。この間の活動報告で言っていたネトゲ物の構想です。


 ……話す事がもう無いな。感想・誤字の指摘などお待ちしております。本編はもう暫しお待ち下さい。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ある程度の長さはありましたが、一気に読めました。 [一言] サバイバルゲームの延長戦にあるようなVRMMOですね。 実際、コンティニューや死に戻りできる戦争があったら、世界中戦争だけになり…
[良い点] おもしろかったです。シンプルかつ、こんなゲームやりたいって思いました。 [気になる点] 正しくは「突撃に、進め」じゃないでしょうか?
[良い点] 相変わらず流れがちゃんとしてて素晴らしい。 [一言]  どれかひとつ、何か一要素を満たしてくれるものならあるんですけど全部を満たしてくれるとなると一気にハードルが上がり、結局在ったら良いな…
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